磨伸映一郎先生と眼鏡

 ドラマ版ネギま!が心配だとか、ネギ役が女の子だとかいろいろ話題になっていますが、そんなものはドラゴンクエスト(ファンタジアビデオ版)が20年ぐらい前に通過した道です。サマルトリアの王子(役名は賢者ですが、モチーフはサルマタ君)が女の子で、これがまた可愛いんですよ。一方でムーンブルクの王女(役名は魔法使い)はメイン三人の中で一番お歳を召してらっしゃるものですから……ゲフンゲフン。
 まああの実写版は、何故かガイナックス及び庵野秀明さんと貞本義行さん(今をときめくエヴァの二人ですね!)が制作協力していたり(庵野さんに至っては竜王役も)、武器屋のおっちゃんがやたらと濃ゆかったり、スライムが出鱈目にグロかったりして、いろいろな意味で話題に事欠かずドラクエとは程遠いのですが。
 魔法先生ネギま!はそれなりに期待しておきます。とりあえず、20年も経てばエフェクトなども進化しているでしょうから、グロいスライムの悪夢はもう起きないと思いますしね。あれは子供心どころか、大人でも泣きます。


 今日友人が突然やってきまして、「この漫画蝶面白いぜ!」などと進研ゼミの漫画に出てくる友達みたいな口調で二冊の本を突き出してきました。磨伸映一郎先生のTYPE-MOON作品集が二つ、いわゆるアンソロをまとめたものですね。
 私はTYPE-MOON作品に関してはプレイした事は無く、大雑把なキャラクター以外はほとんど知りませんし(でもアニメ版月姫Fateは流しで観ました。まあ面白かったんじゃないですか?)、友人もPC版のFateをやった程度だと認識していたのですが、そんな彼がわざわざアンソロを買うという事は、作家買いという奴でしょうか。
 表紙には我らが眼鏡のシエル……じゃなかったカレー先輩が大きく描かれており、もう一方では我らが眼鏡の氷室鐘さんが正面にいます。ほほう、これは眼鏡好きである私に対する挑戦だな?かかってきなさい!
 そこに広がっていたのは、眼鏡、眼鏡、眼鏡……、おお、こここそが眼鏡の桃源郷……というのとはちょっと違いました。いえ、確かに眼鏡に対する愛はひしひしと伝わってくるのですが、それ以上にカレー先輩に対する愛が伝わってきました。
 最初から主人公の傍にいて、実はすごく強い人で、お人好しな性格で、でもメインヒロインじゃない……!そんなポジション的にはキレンジャーなカレー先輩の日常をサラッと描きながらも、ひたすらハイテンションなギャグの中心に居続ける……、これは相当の愛が無いとできません。「いじる」だけなら誰でもできますが、何をやっても話の中心にいるというのは眼鏡がどうとかの次元ではありません。
 そして、そのギャグを彩るのは無数のパロディ。世代もジャンルも出鱈目で「分かる奴だけが笑えば良い」というスタンスは、私が一番好きなタイプでして、しかもそのほとんどが分かってしまうのはちょっと苦笑い。映画ネタがメインでしょうか?一番笑ったのは「くらえ、火炎ビンだァ〜!」とかナインハルト・ズィーガー卿(のシルエット)等ですが。ていうかホント、誰をターゲットにしてるんでしょう。知らない私にも分かるぐらいに月姫の世界が壊れすぎですし。
 もう一冊はFate中心で、眼鏡の氷室さんやライダーさんはそれほど目立ってはいませんが、こちらは見た目通りに分かりやすいキャラクターを持つ三人を中心としたギャグで(それ以外も結構ありますが)、ネタを知らない私にも結構楽しめました。パロディは少々抑え気味でしょうか?まあ、一冊目で突っ込み疲れたので丁度良かったですが。
 正直作家先生の多いアンソロは好きではなくて(ムラがありますからね)、「ケッ!おれは不良だよ…!『アンソロ』なんて女子供の読む物なんてチャンチャラおかしくて…」な感じだったのですが、これは非常に面白かったです。特にパロディが強烈にツボにきました。とにかくキャラクターに対してもネタに対しても「容赦無い」のですから、つまらない筈は無いですよね。


 なお、アニメ版しか知らない私に対し、友人がカレー先輩について説明してくれました。
 曰く、カレー先輩は最初はカレー好きというわけでもない、ごく普通の眼鏡の似合うフランス人の少女だったそうです。しかしある時一切れのパンを恵んでもらいに来た月姫の敵役であるロアの手によって、世界中のカレーを食い尽くすまで死ねず、またカレーを食い続けないと死ぬ体にされたそうです。やがて彼女はインドに渡りカレーの神秘を探しますが、インド以外のカレー大国である日本の存在を知り、「日本印度化計画」を引っさげて来日したとの事。
 また、いざという時に異常な身体能力を発揮するのもロアによる改造手術の弊害だそうです。その際の栄養源もカレーであり、ドラえもんよろしくどんなものでもエネルギーに変換できますが、カレーが一番効率が良いとの事で、カレーの余りの美味さに味皇のようにぶっ飛ぶ原理と同じなのだともっぱらの噂です。彼女は四六時中カレーを求めるのはともかく、身体能力はいらないのでロアを探して再手術を要求するようです。そして、ロアが所属する悪の秘密結社を狙う教会からスカウトされ、大義名分も得ました。この辺りまでが月姫の基本設定らしいです。
 ゲーム中でカレールートに入ると、主人公である魔眼持ち(あらゆるものがポリゴンのように見える体質だそうです)の眼鏡少年と当然親しくなるわけですが、少年はカレー先輩の優しい性格と、異常すぎるカレーへの執着との間で揺れ動くのが重要なドラマとして展開されるようです。「俺とカレー、どっちが大事なんだ」との問いに「遠野君は卑怯です!」と泣きながら叫ぶシーンなどは涙無しには見られないとか。
 しかし、そんな不安定な二人もある事件をきっかけに仲直りするのです。そう、二人が出会ったきっかけは眼鏡だったのです。眼鏡=いらない子、地味キャラの烙印をおされがちな業界において、カレーにしろ魔眼にしろ他に無い力を持ちながらも、眼鏡というだけで不遇な扱いを受ける二人が惹かれ合うのは必然だったのでしょう。
 やがて、二人の愛の眼鏡の力によってロアは倒れます(アニメ版のラストではカレー先輩がとどめさしたんでしたっけ?)。カレー先輩はロアの呪縛からは解放されましたが、改造された際の力や弊害などは残ってしまいました。具体的には、カレーと死の因果だけは無くなったのですが、エネルギー供給源としてのカレーと「食い続けなければいけない」という事実だけは残ったという事らしいです。
 とにかく、日本印度化計画の必要は無くなってしまいました。しかし、カレー先輩と主人公の戦いは終わりません。今度は、世界中の不遇な眼鏡キャラを救う「全世界眼鏡化計画」を発動させるのです。カレー先輩は眼鏡先輩と名を変え、故郷フランスから変えてやると宣言しました。そうだ、俺達の戦いは、まだ始まったばかりなんだ……!
 とか、いろいろすみません。友人の妄言を書き取ったのですが、半分ぐらいは私が考えました。なお、細かい設定は知りませんので、どこから間違ってるのかは分かりません。
 でも、全世界眼鏡化計画は必要無いと思います。何故なら、眼鏡は「不遇だからこその眼鏡」であり、住人のうち十人ともが眼鏡だったら意味が無いからです。せいぜい二人ぐらいが「輝く眼鏡」ではないかと思います。