文庫版ワンダービット

 出てるの知りませんでした。しかも私の住んでいるところは田舎なものですから、どこの書店にも入荷しておらず、遠出した際に偶然知りました。ただ、収録内容から察するに全三巻のようですが、二巻までしか売っていませんでした。むう。
 ワンダービットは昔の「怪奇カメムシ男」とかのタイトルのバージョンも好きだったんですけど、文庫でまとめるならこういう形の方がすっきりして良いかもしれませんね。……となると、インサイダーケンはどうなるんでしょう?また収録されないんでしょうか?それほど面白くなかった記憶があるものですから、想い入れも少々微妙なところなのですが(ダンマスでワームの肉がまずいというネタがあったような無かったような)……。
 内容は共通したテーマと狂言回し兼主役の首藤レイがいるだけで、ほとんどのエピソードは独立して存在しているSF短編集です。どこから読んでも楽しめるだけでなく、島本和彦先生独自のSF感がバラエティに富んだ世界で描かれていますから、なんとも言えない不思議な統一感があります。島本先生と言えば「馬鹿が入った熱血」の漫画家かもしれませんが、この作品ではいろいろな方面へのメッセージが込められていますから、熱血以前の「島本和彦という人間」の在り方が感じられるのでしょうね。読んでて疲れないですし。
 そして、どれも面白いのです。ほんわかした童話調の物語の次にいきなり少女漫画風になったり、本格ハードSFと「街のゴミ問題」が同居していたりします。島本先生が敬愛してやまない特撮ネタもあれば、当時嵌っていたという女子プロレスが唐突に来たりと、内容は雑多なのですが、それでも一つひとつが薄くならずに完成しているのです。恐らく女子プロレスの話とか、好き勝手に描いているように見えるのが面白さの要因なんでしょうかね。
 また、「三つの願いを叶えられる時、『願いを増やす』」や「様々な形でタイムマシンを再現する」、「ニワトリが先かタマゴが先か」等の、SF等で永遠の命題とされる話にも踏み込んでいて、それらの結論はさて置いてオチをちゃんと付けているのは興味深いところです。特にタイムマシンの話は個人的に大好きです。「同じ時間を繰り返すなら、タイムマシンを使う瞬間はどうなるのか」という話は、何か間違っているような気もするのですが、否応無く世界の中に引き込まれます。この辺りは、島本先生独特の「言葉の意味は分からんが説得力がある」作風が静かに流れているんじゃないかと思います。
 なお、他に大好きなエピソードは「ヤマモト」と「クライマックスがお好き」なのですが、これはどちらも三巻に収録のようです。残念。


 ところで、「クライマックスがお好き」で語られている手法ですが、アニメのカブトボーグって正にこれですよね。好きなところだけ!描きたいところだけ!描くという、乱暴だけども面白い作風。