サッド・ヴァケイション

 を先週観たのですが、あれから慌しくて書きそこない、しかも結構内容が複雑だったものですから……。なので、全体のイメージだけ書きますね。


 女って恐い!……という感じでしょうか。中盤で中国人マフィアっぽい男が「日本の女はダメだ。男はもっとダメだ」みたいな事を言っていましたが、少なくともこの映画の中で、女は最低の存在です。そして男はそんな女の手の中で踊らされる馬鹿、という印象がありました。
 この映画は、人間関係や素性がやたら複雑でありながら、個々の関係にあまり深く切り込まないようにしています。というより、心理描写をあまり明確にしないで展開させていくと言いましょうか。ですから、いつの間にか話が進んでいたり、いきなり豹変したりと。おかげで話に付いて行くのがちょっと難しい部分もあるのですが、それが物語の中心となる「間宮運送」の中で出来上がっている人付き合いの距離と通じるものがあり、「映画を観る」というよりは「他人のゴタゴタを横で見ている」風にも思えました。
 「間宮運送」は個人経営の小さな運送会社で、社員達が住みこみで働いています。社員達は様々な事情を抱えている流れ者達で、社長の人柄や同居人達の雰囲気に惹かれて集まっているのですが、それ故にお互いの過去の詮索等はあまりせず、突っ込み過ぎない関係を保っていました。そこにやってきたのが主役である健次で、社長の奥さんの息子です。
 奥さんの千代子は昔家族を捨てて失踪した経緯があり、いつの間にか再婚して子供も作っているどころか、偶然再会した健次に対しても「一緒に暮らしましょう」と言い放ちます。謝罪はほとんど無しに。どの口が言うか、というぐらい不条理な話ですが、健次は思うところがあったのか間宮運送に住む事にしました。
 この前にも話はありますし、ここからの話も非常に複雑で正直覚えていないのですが、重要になるのはこの親子の関係であって、どうにかして復讐してやりたい健次と、何をやってもさらりと受け流す千代子のやり取りは、気持ち良いほどに「醜い」ものがあります。
 最終的に、健次は自分が仕掛けた罠で千代子の息子を誘い出し、適当に痛めつけてやろうとしてそのまま撲殺、牢屋行きになります。その頃健次と付き会っていた女性は妊娠しており、千代子は自分の息子が兄に殺されたというのに平気な顔をして「ちゃんと務めて帰ってきなさい」と、その女性さえも家族に引き入れました。
 ……なんだか、ものすごーく大雑把というか、端折りすぎて大事な部分を見逃しているような気もしないでもないのですが、記憶が薄れているものですから勘弁してちょ。
 とにかく、千代子の病的とも言える「母性のようなもの」と、結局親には勝てなかったという健次の捨て鉢な態度は、実にドロドロしていて素晴らしいものがあります。千代子のこの態度は、間宮運送で訳有りの人間ばかり養ってきたという事情があるのは間違い無いでしょうが、昔の息子と再会したから今の息子を捨てるような発言をする辺り、他の社員とは決定的に違っています。社員達は「過去はあるけど、それはそれ」として生きているのに(だから衝突が起きない)、この親子だけは思いっきり過去に生きています。
 そして、この親子の物語はあくまで親子だけで進んでいくのですが、それでも他の人物達はそれはそれで複雑な過去を持っており、それとなく匂わせる形で現れるので、ともすれば話が散漫になりがちです。が、それが逆に「物語」とは違う「生っぽさ」を高めています。……これがもし、プロット段階で削られたエピソードの残骸か何かだったとしたら笑いものかもしれませんが。
 小さい会社のアットホームな雰囲気だからこそ抱えているかもしれない、裏の人間関係。そういうものを舞台にした上で、その一つをちょっとだけ大きく見せて分かりやすくした、そんな感じの話でしょうか。他にも登場人物がいましたが、その人達を主人公にしても同じぐらい濃密な話が作れるように思いました。


 ああ、久しぶりに頭を使った文章を書いたのでなんだかノリが悪いです。じゃあ普段は頭使ってないのかと問われれば、これが全く以ってその通り。文章なんてものは頭を使った時点で負けたようなものとすら思っていますから。しかも今回の場合、頭を使ったからといって正しいわけでもないですしね。


 恋空でも読もうかな。映画もやってるし、映画館に行けば原作小説も売ってますよね?