超劇場版ケロロ軍曹3

 観てきました。というか、ようやく書ける余裕ができました。全部世界樹の迷宮のせいです。あと風野が「F-ZEROのDVD貸して〜」とか言ってきたせいです。あんた、F-ZEROファルコン伝説をMADのどこに使うんだ。「今度は究極超人あ〜るで作る」とか言ってなかったっけ?


 ……泣きそうになりました。
 私は基本的に「面白そうだったらなんでも観る」主義でして、その意味ではケロロ軍曹は最近子供向けにシフトした感があったのでどうかなーと思い、ちょっと微妙な気分で観始めたのですが、意外や意外、かなり面白かったです。……子供向けを馬鹿にしてるわけではなく、原作やアニメの初期にあったマニアックなパロディを始めとする渋い作風が薄れてきてるという意味での面白さです、念のため。で、劇場版は1も2もまあまあ楽しめたので、話のネタぐらいにはなるかと思って観に行ったわけですよ。
 マチュピチュの遺跡に謎の高エネルギーを探知したケロロ小隊、そこにあった機械から生まれたのは軍曹そっくりの「ダークケロロ」、彼はケロロ小隊に代わり、圧倒的な科学力と作戦であっという間に地球を征服してしまった……というお話。何故ケロロかと言えば、機械の起動スイッチを動かしてしまったのがケロロで、触れた生物をコピーするというプログラムだったから。
 他に劇場版オリジナルキャラは、孫悟空を彷彿とさせる中国系で、一昔前のヒーローみたいな派手さのあるシヴァヴァと、ギロロの訓練兵時代の同期で、あまりに破壊活動が過ぎるために除隊処分となったドルル、そしてダークケロロの参報にして、高度なハッキング能力を持つミルルの三人。ちなみに声はミルルが堀江由衣さん、シヴァヴァは高山みなみさん。二人ともストレートで気持ちの良い演技です。で、ドルルはまさかのルー大柴さん。といってもドルルがルー語を操るというわけではなく、機械のように短い単語を喋るだけです。皆、割とはまり役だったと思います。ちなみに、ダークケロロケロロと同じ渡辺久美子さんで、ケロロとは正反対の低い演技がポイントです。ここでカテジナ・ルースとかクインシィ・イッサーとか思い出す人は駄目だと思います。つまり私は駄目人間。
 あと、時折現れる、遺跡の機械と共にいた謎の少女ナスカ。ぶっちゃけネタバレしますけど、これは姿こそ違うもののミルルと同一人物です。が、声は別で福田沙紀さん。誰やねんこの大根演技は、と思ったら実写版ヤッターマンでアイちゃんをやる人のようです。可も無く不可も無く、普通に「ああ、芸能人声優ってヤツだね、あぁやだやだ」という程度の演技なのですが、ミルルと同一人物である都合上、ほとんど出番が無いのは救いかもしれません。ただ、全く喋らなくても話が進むぐらい台詞が少ないので、存在自体が疑問です。堀江さんなら演技分けぐらい余裕なはずですし、「何故起用したのか」を演技とは別の部分で悩みました。
 一応ストーリーの解説をしておくと、劇場版1で現れたキルルの三体目のプログラムによって誕生したのが今回の「ダークケロロ」だそうです。一体目が侵略、劇場版2であっさり撃墜された二体目が破壊を担当し、今回の三体目が支配を行う事で惑星を掌握する、という手順だったようです。そして支配するために支配者の体をコピーするという事で、「一応の」支配者「のはずの」ケロロがコピーされた、という感じですか。なお、今回のキルルがそういうプログラムだった関係上、あまり破壊活動は行われません。洗脳電波を地球中に飛ばして無血開城状態で侵略していきました。
 「我輩の目の黒いうちは他の侵略者なんぞ許さんであります!」と勇んで飛び出すケロロ小隊ではありますが、毎度おなじみのケロボールを紛失してしまって、まともな武器がほとんどありません(大長編ドラえもんにおける四次元ポケットと同義ですな)。たまたま持ってた万能兵器化飲料「ナノラ」のみという状況で何をするかと思えば、冬樹殿に買い物を頼んでそのまま持ってきたマスターグレードの「ガンダム」を組み立てて兵器にしたのです。
 今までも散々パロディはありましたが、本物のガンダムが本物のスケールで動き出すとは思いませんでした。BGMには「飛べ!ガンダム」が入るし、攻撃でボロボロになったと思ったら「たかがメインカメラをやられただけであります!」で突っ走るとか、ここまでやってくれると笑うより前に感動してしまいます。頭部と左腕が壊れて、ラストシューティングを決めてからコアファイターを残して崩れる辺りまで来ると、もう泣くなという方が無理な話(ちょっと極端ですが、展開の盛り上がりも相まってかなり感動したのは事実です)。その癖スナップフィットなのでパーツが取れやすく、頭が壊れた後にはポリキャップがのぞいてる等、現代版プラモ狂四郎チックなカットもあるのがにくい演出です。
 物語の結論としては、「いかに強力な支配でも友情パワーには勝てないんだー」てな感じではあるのですが、そこに至るまでのダークケロロのキャラクターの掘り下げが興味深く、なかなかに引き込まれました。ダークケロロ、というよりキルルのプログラムは、過去の歴史の支配者をベースにしているものらしく、妙に前時代的な発想で行われて、しかしそれが弱点となり仲間達からも見放されるダークケロロ、というのはお決まりですが、そこで疑問を持ったまま負けるわけではなく、自らの過ちと敗北を認めて去っていくという、単にコピープログラムではない「もう一人のケロロ軍曹」といった立ち位置は他人事とは思えませんでした。
 ケロロ軍曹がもし冬樹殿や夏美殿と出会わず、冷酷な侵略者だとしたら、ダークケロロのようなキャラクターになっていたかもしれません。しかしそこはケロロ軍曹、敗北をしっかり認めて、自らの手でプログラムを消去したのです。しかし、それによってダークケロロも消滅してしまう……というわけではなく、侵略者としての力を失っただけで、いちケロン人として、冬樹殿やケロロ軍曹の友達としては生き残ったのでした。地球侵略に失敗したので、地球とは違うどこか遠い星を見て回る……そう言ってダークケロロは去っていき、キルルのプログラムもガルル小隊によって回収され、日向家にも平和が戻りました。
 というわけで、クローン系の敵が消滅せずに残った、というのは新鮮でした。侵略者及び支配者としての哀愁もありましたし、ここで終わらせるのが惜しいぐらい面白かったです。


 ところで、映画における「芸能人声優起用」を快く思わない人は多いと思いますが、私は最近ポジティブなんだかネガティブなんだか分からない結論を出すことができました。
 そのような人を起用する際は、大抵CMや予告編で名前が出ます。それは「客寄せパンダ」かもしれませんが、私はここに「苦情はこの人に言ってくれ」という制作スタッフの叫びがあるように思えてならないのです。つまり、なんらかの圧力で入れられた(かどうかは知りませんが)素人レベルの演技に対し、あらかじめ名前を提示しておく事で「ああ、酷い人がいるんだな」という覚悟と「もし演技が駄目だったら、こいつボイコットしよう」という選別ができるのです。
 確かにその分声優さんの仕事とギャラが減っているのは事実なのですが、それで淘汰されるような声優さんはしょうがないですし、俳優さん等が醜態を晒すパターンが続けばそのうちどうにかなっちゃうんじゃないでしょうか。
 ちなみに私の場合は、声優さんであろうと俳優さんであろうと、そこに「作品に見合った演技力」と「作品に対する想い入れ」があれば誰でも良いと思います。というのは、時には下手っぽさもあった方が良い場合もありますし(ジブリ映画とかはもうお決まりですし)、もし感動したとしても、自分の出演した作品を黒歴史扱いしてしまうような俳優さんを見たら興ざめしてしまいます。無名時代には誰がどんな仕事してたって良いじゃないですか。私は浜崎あゆみさんのユリ・サカザキだって忘れませんよ。それの何がいけないんです。
 まあ、肝心の演技はむにゃむにゃなんですけどね……。