ドラえもん のび太と緑の巨人伝

 公開からちょっと時間が空きましたが、観てきました。それでも子供が結構多かったのはさすがであると同時に、「つまんないシーン」ではすぐごそごそしだすのもなんだかにゃーと。でも、「子供はどういうシーンを楽しみにしているんだろう」というのが分かってちょっと得した気分です。


 さて、予想外に面白かったです。
 新スタッフに代わって初の大長編ですが、基本ストーリーは「さらばキー坊」及び「森は生きている」であり、雲の王国もちょっと入ってる感じですか。要するに「緑を大切にしよう」というメッセージを娯楽のオブラートで包んだ映画です。
 が、それが上手い。説教臭くならずにギャグやキャラクターの心情をメインに据え、「植物と同じように動物も生きているんだ。お互いの助け合いが大事なんだ」という新たなメッセージを導き出す過程はなかなか気持ちよかったです。そもそも、そのメッセージ自体、途中で言及されているテーマであり、でもそれは偉い人には届かず過ちを犯してしまう……という、人間の愚かさを描くのも目的ではないかと思えました。
 まあ、そんな細かい事を言わずとも、十分にエンターテインメントとして完成された映画です。今までの大長編もそこそこは面白かったですが、オリジナルになったことで過去のイメージに縛られることなく作れたのが良かったのかもしれません。「ドラえもん」というキャラクターを使いつつ、新たな世界観を作り出すことに成功していました。
 「新たな世界観」で特に私が面白いと思ったのが、緑の星での会議のシーンです。そこを始めとして、マイクの代わりに胞子のようなものを飛ばしていて、それが弾けると話し相手のシルエットが一瞬だけ映って声が伝わる、という仕組みのものがありました。何が良いかと言いますと、その仕組みの説明をせずに物語が進行していく辺りです。私の持論ですが、「違う文化を見せる」のではなく、「違う文化だけど説明しない」方が『異文化』を強調できると思うのです。他の装置等についても説明はされませんが、「この人達は機械とは違う文明で発達してきたんだなあ」と理解できるようになっているのです。それが何よりの「説明」です。
 そして、「悪役の不在」も興味深いところでした。確かに悪役っぽい人はいるのですが、その人は私腹を肥やしたりとか俗っぽい目的を持っているわけではなく、あくまで「緑を守るため」という、それなりに納得できる理由で動いています。最終的に目の前に現れるのは「緑の巨人」で、これは破壊活動を行うわけですが、そこに取り込まれているのはキー坊。キー坊は緑の星の人類絶滅計画のおかげで絶望して覚醒してしまったという感じで、最終的にはのび太の友情によって自分を取り戻します。
 「緑の星」を悪役にしない理由は何かと言えば、「緑を大切にしよう」というメッセージを伝えるためでしょう。そのためには、大切にしなければならない緑を悪役に据えるよりも、緑の星による暴走から反省までのストーリーを描いた方が納得できます。立場をひっくり返せば、そのまま「動物も大切にしよう」というメッセージが見えてきますし、それらをひっくるめて「どちらも大切にしよう」というのがこの映画の結論となるわけです。
 「ドラえもんの映画」とはなっていますが、この映画内でドラえもんひみつ道具はほとんど出てきません。タケコプターやどこでもドアすら顔見せ程度の出番しかありません。というか、ドラえもんドラえもんらしい強さもあんまりありません。あくまで、「のび太と緑の巨人(=キー坊)伝」なのです。のび太とキー坊が中心にいて、他の面子はギャグ要員それぞれのキャラクターを活かし、サポート用の道具を出したりするドラえもんひみつ道具は少ないですが、要所要所で活躍しています)いざという時には頼れる男ジャイアンと人の心情をよく理解できるしずちゃん、……あとスネ夫スネ夫は実際ギャグ要員っぽいです。画面内にいると和みます)。
 堀北真希演じる映画ヒロイン、緑の星の王女リーレもなかなか良い味を出していました。彼女の言葉一つで緑の星が全て動くのですが、本人にはそんな重要性も使命も理解できず、他人に作られた文章をそのまま読む程度の傀儡政権状態。でも他人には「私は王女だぞ」と妙に偉そうという、正に「子供」なキャラです。素人目にも「こいつがなんか問題起こすんだろうなー」と分かるぐらいダメなキャラです。それがのび太達と行動を共にし、様々な経験を経て次第に成長していく様はカッコいい。堀北さんの演技も大根ではなく、ちょっと素人っぽさが残るぐらいなのがまた丁度良く、彼女の心情の変化はのび太達のメインストーリーに隠れがちですが、かなりの見所だと思います。
 また、堀北さんに限らず、この映画には声優さんではない人が多数参加しています。特に緑の星のモブキャラは軒並みが「一般公募の子供」のようで、演技以前に「声をいっぱいに出してる」感覚が、普段観ているアニメとは違う印象を出していて、これもまた「異世界」を上手く表現していると思いました。実際、緑の星の住人達は人間とは全然違う外見ですから、どんな声でも違和感は無いわけで、というよりいろんな声が出て然るべきです。子供を使ったのは大成功と言えるでしょう。
 ただ、作画面にはちょっと気になるところがあります。なんとなくですけど、藤子アニメというよりは手塚アニメに近いようなコミカルさがありました。いえ、別に面白いから良いんですけど。
 ただ、それを抜きにしても、ギャグ顔をちょっと使いすぎかなーという気はします。明らかに子供ウケは良いのですが(実際子供はギャグ顔が出る度に笑っていました)、「顔の造形を崩す」以外に笑いの取り方が無いのだとしたら、それこそ笑いものです。そこは崩れるべきじゃないだろう、というシーンは結構ありました。声優さんも皆十分経験を積んでいることですし、会話劇でも笑いは取れると思うのですが……。


 そんなわけで、多少気になるところはあるものの、十分に楽しめました。
 「野比のび太」の名前とその由来をストーリーの演出に絡めてきたときは、不覚にも泣きそうになりました。私、ドラえもんで一番好きな話がのび太の生まれた話とかおばあちゃんの話なんですよね……。本当に何気ない演出なんですけど、あそこで「のび太」を出されると、「植物と動物の繋がり、世代の繋がり」というテーマに賛同したくなっちゃいます。