田舎でも事件は起こる

 先週末の話なんですが、帰り道でお財布を拾いました。それもパンパンの。
 今までに二度ほど財布を落として大損している身からすれば、「ああ、これもらっちゃいたいなあ」等と考えたのですが、「でも、自分がそれやられたら嫌だなあ」と思ったので、大人しく届ける事に。近くの交番……と言ってもそこから自転車で10分ぐらいある場所まで走って行きましたよ。帰り道とは完全に逆方向だったので、なんだか要らぬ使命感も湧いてきちゃって。
 一瞬、「中を見れば連絡先とか分かるかもなあ」と思ったのですが、「自分がそれやられたら嫌だなあ」と思ったので中は見ずに、そのままの形で交番のおねいさんに届ける私。おねいさん、書類を取り出しつつ(私と同じ左利きで、ペンの持ち方が下手だったのがなんとなく好感が持てました)、「一緒に中身を確認していただけますか?」とのお言葉。ああ、結局中身見ちゃうんだ。
 「レシートとかいっぱい入ってたら恥ずかしいから、見るのは失礼かと思ってたんですけど……」等と本心をのたまうものの、ノーリアクション。むう。いや、恥ずかしいでしょ?私だったらすごく恥ずかしいです。親元から離れて二年目ぐらいだったでしょうか、実家に帰って荷物を部屋に置いてたら、挨拶も無しに親に財布を開けられて以来、私は誰にも財布を譲っていません。あれは恥ずかしかった。
 そんな事はどうでもよく、持ち主は学生さんでした。中身は学生証とか新しめの銀行のカードとか、そこら辺の店のポイントカードとか。ああ、やっぱり見なきゃよかった……と思いつつここに書いている私はなんなんでしょうね。そして、学生さんなら学校に連絡すれば煩わしい手続きはいらなかったかもなあと思ったり思わなかったり。あと、パンパンの財布と書きましたが、現金は学生さんらしい額でした。カード類が多かったみたいですね。
 そして、一昨日になって知らない番号から電話が。落とし主の学生さんでした。「お礼をしたいので、一度会っていただけますか?」……別に大した事してないんだけどなあと、拾った時の使命感を忘れている私がここにあり。落とし主さんにしてみれば、地獄に仏のような心境だったでしょうに、薄っぺらい人間ですよね、私。
 電話ごしに聴く限り、やっぱり財布を落とした事と、でも拾ってくれた人がいた事と、知らない人に電話でお礼をしなきゃならない事等で、相当にテンパってるご様子。「別に構いませんよ」とも言えず、次の日(つまり昨日)に会う約束をしました。
 そしてお会いしました。まあ別に普通の人だったんですけど、「拾ってくれた人には何パーセントまでお礼を用意しなきゃ」「とにかく本当にありがとうございます」等とまくし立てられ、ほとんど何も言えないままお礼を受け取る私。……確か記憶では、「お礼をできる」ってだけで、別に強制力は無かったと思うんですが、そこで突っ込めるほど野暮でもなかったと言いましょうか。
 その後、「取得物の受取状をお持ちですか?」等と尋ねられ、そういやそんなのもあったなあと取り出す私。半年持ち主が現れなかった場合は拾った人の物になるというアレの証書ですね。「それを拾った人から貰って私が出向かないといけないみたいで……」おいおい、それじゃあ私が「どうせ持ち主現れるだろ」と思って捨ててたらダメじゃないですか。昨日の電話でも言ってなかったよキミ。まあ重要書類処分する手間が省けて良かったけどさー。
「とにかく、もう落とさないでくださいね」
 テンパってる落とし主さんに対し、なんとかそれだけは言えました。落とし主さんはそれからも私にお礼を言いつつ、去っていきました。


 そして、お礼に貰ったお菓子がすっごく美味しかったので、やっぱり人助けは良いなあとか偽善っぽい事を考えつつ、今日に至るわけです。
 私がこの話で何を言いたいかと言うと、この話の前半においては私は主役ですが、後半ではもう既に脇役なんですよね。そして、全体のストーリーを考えるならば、最初から落とした人が主役であり、クレジットされるとしたら私は「拾い主」とかその程度。昔のアニメなら「協力:青二プロ」とかかもしれませんね。
 私の人生が一つの物語であるように、他人の人生もそれぞれを主人公とした物語であり、他人の人生の中では私はただの脇役でしかありません。だからどうというわけではありませんが、この話の中での私は良くも悪くも脇役だったと思います。
 ダメ人間だなあ。


 最近ずっと考えてる事を、そろそろ実行に移そうかと頭の中でシミュレーションしています。今日のお話は、その肥やしになるかしら。