キサラギ

 もういつの話か忘れましたが、四日市中映まで「キサラギ」を観に行っていました。なお、四日市中映は9月末で閉めるそうです。……近くにシネコンがあるようですし、止むを得ない事情があるのは分かります。しかし、あそこがなくなったら、映画を一本観るためだけに名古屋にまで出なきゃならないのかと思うと……、むう。


 「遅れてきた清純派」と呼ばれたマイナーアイドル「如月ミキ」が自殺して一年、ファンサイトでの書き込みから、一周忌で集まろうという計画が上がります。集まったのは五人、全員HNで名乗り合い、本名は出てきません。場所を用意して段取りを考えた「家元(自他共に認めるミキに対する知識の深さから?)」、これの為に田舎から出てきた「安男(本名)」、軽いノリで騒ぎたがりの「スネーク(なんかカッコ良いから?)」、言い出しっぺである「オダ・ユージ(憧れてるらしい)」、妙に遠慮がちな「イチゴ娘(若い女性のような書き込みだったが、本人は中年男性)」がめいめいに現れます。
 さて、ここで参考の為にWikipediaを開いたのですが、ストーリーが最後まで語られています。これでは私の出る幕がありませんではありませんか(最初から無い)。なので、ストーリーは語らず、物語の構成をメインに行こうと思います。
 まず、現場は密室です。といっても事件現場じゃありません。撮影現場とでも言いましょうか。この五人が集まった部屋がメインで進行するのですが、他の外のカットは回想シーンや映像のみで、二時間弱の間、五人は外に出ません(トイレは外にありますが)。そして、オダが言い出した「如月ミキは自殺じゃない」という一言に始まり、最初は騒ごうとしていた皆も真剣になったり激情したりと動き回ります。が、あくまで現場は密室です。
 通常、推理をするならば各々の持っている情報を提供して、その上で事件に合わせて組み立てるのが当然ですが、この映画はそれがありません。あくまで集まったのは五人の他人、一般人です。一応家元が本職の警察官ではありますが、事件捜査や推理ばかりをしているやり手というわけでもありません。
 ですから、新しい情報が出たら皆がそれに殺到して、でもそれが否定されたらまたひっくり返ってと、非常に行き当たりばったりで進行します。これが推理物だったとしたら、私は途中でポップコーンを投げて帰るでしょう(四日市中映にポップコーンは売っていません)。
 が、これはあくまで「アイドル『如月ミキ』を想う者達」によって進行しているのです。五人の行動の全ての根底にあるものは「如月ミキに対する愛」です。ですから、冷静な人間も直情的な人間も、いろいろな話に一喜一憂するのも、全て愛です。「愛」抜きに考えたら腹が立つ話ですが、目的と行動原理がはっきりしているので微笑ましく映るようになっています。言い忘れていましたが、これはサスペンスとかではなく、少々変則的なコメディです。
 また、実際の事件の真相(明言されてはいませんが)も決していい加減なものではありません。五人の情報と境遇を照らし合わし、更に如月ミキ自身の性格等を加味すれば気持ち良いぐらいにピッタリ来るようになっています。「衝撃の結末」という程ではありませんし、正直偶然に頼りすぎで穴だらけですが、「ミキちゃんならそうかも……」という風に、あくまで如月ミキを立てる構成になっていますから、違和感はありません。
 この映画の面白いところは、五人しか登場人物がいなくて、しかも話題の人物は既に死んでいるのに、それでも如月ミキというアイドルが「主役」のように見えるところではないでしょうか。いろいろとわだかまりもあって、冷静に考えるとちょっと不自然なところもあるかもしれないけど、あくまでも如月ミキの為に……、そういう風に「許せる」のです。
 如月ミキを除いて誰が主人公というわけではありませんが、五人の中では中心的だった家元が、他の皆が実は全員如月ミキの個人的な関係者だった事に対し、「ただのファン」である事に絶望しますが、それがちゃんと救済されるようになっているのも美しい作りだと思いました。マイナーなアイドルだったからこそ、「ただのファン」でもかけがえのないものだったというのは、一般人である私達にとって、ありがちですが嬉しい話です。


 なお、回想及び映像の中のみで出てくる(写真も?)如月ミキは声優の酒井香奈子さんです。EDではヘタクソな歌(如月ミキが下手という設定ですから、わざとでしょう)も披露しています。私の知っているところでは「REC」の恩田赤や、「地獄少女二籠」のきくりなどですか。
 ……最近よく話題に出てくる私の友人より年下かと思うと、感慨深いものがありますね。彼は就職大丈夫なんでしょうか。
 ちなみに私は如月ミキの役者さんなんて全く知らず、喪服の男が五人も出てくるという話を聞いて、趣味で観に行きました。そのうちの一人がユースケ・サンタマリアさんなのはポイント高かったです。