世界樹の迷宮小説っぽい「Triferon」003

 前回までのあらすじ。長いもの好きのアホ女がロウタのギルド「Triferon」を狙う。ロウタぴんち。


 私が「金鹿の酒場」に乗り込んだ時、何故か客が一箇所に固まってた。音楽と手拍子も聞こえてくるから、見世物か吟遊詩人の類だろう。私はげーじゅつってのはよく分からんけど、これも長い歴史があるのかと思うと良い。
 んだども、今の私はげーじゅつの勉強がしたいんじゃない。ロウタとかいうパラディンを屈服させに来たんだ。……どんな奴だろ?なかなか古風な文章を書くから、そこそこに教養があるのか、それとも年季があるのか。いや、旧字体だから田舎者かもしれん。あと自分を売り込まずに張り紙するぐらいだから、世間知らずの小僧とか?
 まあどうでもいいや。私は妙に耳障りな音楽(それも感性ではなく、感覚に直接訴えるような感じだ)をバックにカウンター席まで向かった。こっちに座ってるのは二人、小柄な戦士と眼鏡少年のコンビが吟遊詩人の方を遠巻きに見つめている。きゃー、二人とも可愛い……って言っておけばいいのかな?でも私にとって気になるのは、眼鏡少年の巻いてる長そうなマフラーの方。
「いらっしゃい。新人さん?」
「うい、ペパラーゼと申します。ちょっとお聞きしたいんですけど……」
 酒場のマダム(ロングヘア!)に対し、私は適当に記憶したTriferonとロウタの特徴を伝えた。ちなみに私の名前の「ペパラーゼ」って、最後の「ゼ」はあんまり発音しない人の方が多い。だから専ら「ペパラー」って呼ばれてたんだけど、そのマダムはちゃんと私の名前を発音してくれた。客商売が長いんだろうね。良い事だ。
パラディンのロウタ……。ごめんなさい、ちょっと知らないわ」
 どこか儚げに謝るマダムは、老い先短そうであんまり好きじゃないね。
 そんな事よりロウタとやら、酒場のマダムにすら連絡してないとは何様よ?やる気無いのか?……張り紙なんて消極的な事するとは、どうやらそっちの線も考えなければなるめえ。まあ、それだったら乗っ取るのは楽だろうけど、そんな小物を巻いてもしょうがない……。
 とりあえずカウンターに座ってる少年二人にもロウタの事を聞いてみたけど、そんな名前のパラディンは知らないとか。……どうしよう。やる事を無くしたので、暫く二人と一緒に吟遊詩人の人混みを眺めてた。
 どうやら、歌と踊りのミュージカルだかオペラだか仕立ての吟遊らしい。私の知らない国で起きた戦争に参加する男の話で、少女が歌いながらもう一人が踊りつつ男を演じるという風……だけど、人混みのおかげで見えないのがどうにも癪。しかも結構コメディ色が強くて面白そうだし。
 大体、旅芸人ってのがこの街にいるのもなんか変な話。確かに人の出入りは多いけど、宿場町とかじゃない。それにこの酒場には冒険者しか来ない筈だから、商売にならないだろう。
 私はマダムと二人に改めて礼を言って席を立った。 冒険者相手に商売する神経の太い吟遊詩人の一団に興味が沸いたのだ。人混みを掻き分けて無理矢理に輪に入っていく。邪魔だから自慢の鞭で巻いてやろうかとか思ったけど、酒場でそんな事したら間違い無くお縄だ。…………長い縄で縛られるなら、それも良いかも……いやいやいや。


 でかい薬箱を提げたメディックをそれとなく注意して場所を空けてもらい、なんとか吟遊詩人を拝む事ができた……と思いきや、そいつらは吟遊詩人というには随分と変てこな奴らだった。
 一人は想像通り、バードの少女。シャラシャラした装飾品とエロい服を身に纏い、輪っかだけのタンバリンでリズムを取ってる陽気な妹系って感じ。しかし、じゃあステップ取ってる片割れが兄だか姉だかと思ったら、こりゃ全然違う。見た目は私よりちょい年上の優男だけど、髪の色も目も女の方とは違う。青い瞳を周囲に隙無く光らせ、口元はスカーフっぽいので隠してて表情が読めない。これはどうみても大道芸人って感じじゃない。自然に溶け込み静かに獲物を狙う、レンジャーの空気。
 よくよく見ると、最初は演技の衣装かと思った服装も、全て実用性を兼ね備えた本物だ。レンジャー最大の特徴である弓矢こそ持ってないけど、軽装鎧に道具入れ、そいつらも動くのに邪魔にならないようまとまっている。……その癖、今踊っているステップは、気配を隠したり相手を惑わしたりするレンジャーのそれじゃなくて、純粋にげーじゅつっぽさが感じられる。
 物語は既にクライマックスに入っていた。馬を買う金が無かったので仲間にココナッツの殻を鳴らして馬に乗っているように見せかけていた男が、敵国の番人である三つ首の巨人を前にして馬を降り、戦いを挑む……そんな展開。途中で変な歌が混じるが、これは男の仲間が吟遊詩人だかららしい。吟遊詩人が語る、吟遊詩人を連れた男の物語……、わけ分かんない。
 そして男は、三つ首の番人が仲間割れをしているうちに先に進み、見事敵将を討ち取ったという。しかし、最も恐ろしいと言われる番人とは直接戦わなかったので、男は国に帰っても英雄扱いはされず、吟遊詩人によって「勇敢に逃げた」と各地で歌われるようになったとか。まあ人生なんてそんなもん。


 物語が終わると、当然拍手とおひねりが浴びせられる……とか思ったら、周りの視線はかなり厳しかった。口々に「あそこのステップはまだ甘い」とか「もっと広い音域を歌えるようになれ」とか言っている。なんだいノータリンの冒険者の癖に偉そうに……とか思ってたけど、当事者達も熱心に聴き入れている。……ひょっとして吟遊詩人じゃなくて、修行の一環か何か?
 音楽会がお開きになっても、二人はまだ残って練習してた。男はひたすらに足さばきをメインに踊りの練習をし、女がそれを注意深く観察している。そしてそれを観察する私。更に言えば、私を観察しているであろう少年二人。それを温かく見守っているかもしれないマダム。……人生は蛇の如し……ってなんのこっちゃ。
「おたくらさ、どういう関係?」
 気が付けば私はコンサートの主役達に話しかけてた。暇は長生きの大敵であるのと、ロウタのアホの事をすっかり忘れていたのが主な理由じゃなかろうか。それに、何か面白そうなのには首を突っ込まずにはいられないしね。だってほら、「首を突っ込む」って首回りが長くなりそうじゃん?
「別に、赤の他人だ。今日会ったばかりのな」
「そんな、ひどい…。三日前から一緒にいたよー!」
「それは知らなかった」
 ははあ、どうやら複雑な事情がおありのようで……。
「じゃあ質問変えるけど、なんで旅芸人紛いの事してたのさ?」
「修行だ。ステップのな」
 そう言って優男君は貴族がやるようなダンスのステップっぽいのをしてみせた。おう、確かに結構様になってる。しかしまだ改良の余地はあるようにも見え、なるほどギャラリーはだから厳しい評価を出してたんだ。わざわざ見てもらうように頼んだとか、そんなとこだろう。
「んであたしは、そのステップを盗もうとする悪のバード!人呼んでフィ=Ir」
 フィールとか勝手に名乗った女は、いかにも「小物悪役っ!」って感じのケチョー!なポーズをした。どうやら、結構変わった感性の持ち主らしい。
「俺のステップの真似をするのは構わんが、俺の邪魔にならないところでやってくれないか?」
「えーいいじゃん!二人でやれば楽しさ二倍、修行効率も倍率ドンで更に倍!……それに、さっきの芸だってあたしがいないとできなかったじゃん!」
「…………」
 あ、黙った。表情読めなくても分かるよ。……まあ確かに、優男君のステップだけで会場を沸かすのは物理的に不可能だあね。
「なんで修行してるの?」
「芸術を極めるのに理由がいるか?」
「楽しい事するのに理由がいるかー!?」
 楽しそうだなこいつら。ていうか仲良さそうだな。
「そういうお前はなんだ?見たところ同じ新人のようだが、目指すものは無いのか?」
「私は……」
 さて、ここで問題です。私は当然目指すものを持っているわけですが、それを公開するべきでしょうか?長いものが好きって、結構理解されないからなあ……。
 悩んだ時はどうするか?これは私の経験が答えてくれる。というのも、長いものを操るのはこれで結構大変なのだ。ある程度のしなやかさや太さも持っていないと、あっという間に崩れてしまう。そして崩れた時(あるいは崩れそうになった時)、無理に直すよりも新たな計画を立てた方が上手くいったりする。
 つまり、「初心に帰れ」。この場合の初心は…………あのパラディンの事は知らんが、そうでない部分は使えそう。
「おたくら暇?ギルドはどこ?」
「ギルドにはまだ入っていない。一応あれで売り込みを考えているが……」
「まああたしはギルドに入らなきゃならんとかじゃないんだけどね。だがとりあえずぞあす君、君のステップを盗むまでは付き纏わなければならないのだよ、ぬふふ」
 唾付きではない、と。こりゃもう、利用しない手は無いでしょう。
「私のギルドに入らない?Triferonっていう、できたばっかりのとこなんだけど……」
「別に構わんが。新人同士なら気兼ね無くステップを極める事ができる」
「賛成の反対の賛成。理由は右に同じー」
 賛成か反対かどっちだよ。まあいいや。
「私はペパラーゼ。これでも一応、世界樹の迷宮踏破を狙ってるんで、よろしく」
「俺はぞあすだ。一応弓の技術と戦闘用のステップも心得ているので、手助けはできるだろう」
「そして遂に出た出たヤットデタ!エトリアのアイドル、フィ=Irとはあたしの事よ!特技はこの燃えるようなシャウト!尊敬する人は串田アキラ!」
 こっちの名前はさっき聞いたんだけど……。まあそれはともかく。
 長いものを作るには計画が必要だけど、計画無しにどこまで長くできるか頑張るのも私は好き。自分自身の長さを測ってるみたいだから。まあまずは手駒二つゲット!って感じか。いや、ロウタも入れれば三つか。……ところでロウタって誰だっけ?
「……ねえちょっと、突っ込んでよ!あたし一人だけ馬鹿みたいじゃん!」
 フィールが騒いでるけど、どこまで長くなるかちょっと楽しみだから、今は突っ込まないでおこう。




 ペパラーゼは新たな強敵を得ました。レンジャー男(口が隠れてる方)の「ぞあす」と、バード女(赤い髪の方)の「フィ=Ir」です。うーむ、ペパラーゼとフィ=Irで赤髪がダブってしまった……。
 ちなみにこの「ぞあす」も持ちキャラの名前です。古くはゼルダの伝説(GBの夢を見る島)から使っている名前で、私はリンクではなくぞあすと名付けて遊んでいました。そして名付けのポリシーとして、「平仮名、片仮名、英数、漢字等、全ての種類を使って名付ける」というものがありまして。ファンタジー世界であろうと、名付ける時に平仮名が使えるならば平仮名を使います。だって、ゲームですから、ゲームっぽさを出した方が私は好きです。
 一方フィ=Irも「英数」担当のキャラでして、これは今回初の名前です。世界樹をプレイする直前に遊んでいたダンジョンマスターファイアボール(フル・イルのスペル)から取りました。
 フィ=Irはアホ担当ではありますが、一応芸術と面白いものにかける情熱は本物です。そう書いていきたいです。一方ぞあすは数少ない寡黙系キャラなので、上手く活用していきたいですね。なお、ペパラーゼは「長いもの」を除けば常識的な感性の持ち主です。
 さて、次回は最後の一人が登場する予定です。あと、ロウタがますます空気になります。大丈夫か主人公。どっちかというとコンボイか。