「L change the WorLd」

 観てきました。昨日は風邪気味だったのにね。


 これのどの辺がデスノートなんでしょうか?デスノート的な要素がちいともありませんし、かといって普通の映画としても陳腐です。悪くはないけど、ありきたりなお話……そんな印象でした。
 物語は映画版デスノートからの続きとなっており、クライマックスで「先にノートに自分の名前を書くことで殺されないようにした」Lが、残り23日の間に別の大事件を解決するという筋立て。ワイミーズハウス出身の「F」がタイで死亡し、彼の残したデータが一つの鍵となり、更に事件の犯人は同じワイミーズハウス出身の「K」。ちなみに、デスノート自体はLが冒頭で燃やしてしまったので登場しません。
 タイで謎の新種のウイルスが発生し、その制作者が日本のアジア感染症センターで働くKでした。K曰く「人類が増えすぎたから地球に良くない。ウイルスで粛清しよう」らしいです。はい、ありきたり。そして共犯者はウイルスをアメリカ等の大きな買い手を探しているのですが、これも金に目がくらんでるだけの小物。はい、ありきたり。
 いえ、ありきたりと切り捨てるのは本当に簡単ですから、あんまり言っちゃうのはどうかと思うんですが、やっぱり言いたいんです、これに限っては。何故なら、デスノートの面白さは「思想は狂ってるけど、それを感じさせない強さ」のようなところにあるんじゃないかと思うのです。『キラ』こと夜神月は「人を殺せるノート」という狂気の道具で、「新世界の神になる」とほざく高校生なのに、でも惹かれてしまうキャラクターでした。それは、良くも悪くも「真っ直ぐ」だったからです。一方のLも見た目からして変人なのに、妙にカッコいい事を言ったり、キラに対しても「悪」とは言いながら実力は認めるような言動でした。これも善悪の超越というヤツだと思います(要は少年漫画なんですよね)。
 でも、今回のKは「地球を浄化するにはこうするしかないのよ!」等と一種の諦めで行動しています。これは「自分が悪い」という意識が結構強いということでもありますから、「悪役」にはなっても「敵役」にはなれないんですよね。大体、地球を浄化するのに新種のウイルスを使うのは良いとしても、それが正しく「人間にだけ効く」かどうかの説明が無かったので、余計に「ただの凶悪犯」の印象が強いんですよね……。
 「善悪の超越」というのは、ある種の「思想の強さ」であると思うのですが(殺人犯であるはずのキラに信奉者が多いのがその証だと思います)、Kにしろ他の悪役にしろ、思想が弱すぎます。そしてデスノートで重要なのが、「Lは悪ではないだろうが、正義とも言えないんじゃないか」というところじゃないかと……。映画のラストで「一人では世界を変えられない」とLが語っていましたが、それは正義とか思想レベルでも同じだと思います。一人で世界を変えられるなら、それは「絶対正義」でしょうに、Lはそういう人間ではないでしょう。なのにこの映画では、妙に正義っぽい……。
 どうもこの映画は、「Lというキャラクターを使って映画を作れば売れる」という程度の認識で作られたんじゃないかと思います。Kというキャラクター自体もそうなのですが、殺人方法もLへの追跡も、その他のディティール全てが穴だらけです。L達を本気で追いかけるなら、ワクチンを押さえるためにも「感染症センターの関係者」とか「ウイルス研究の権威」を総当たりするのは当然でしょうに、Lはのんびり自転車で大学教授のところに行って、数日間そこで隠れもせず研究室に入り浸ってワクチン完成って……なんじゃそりゃ。
 穴だらけになっているせいでもあると思うのですが、話自体も薄っぺらいと思いました。内容ではなく、純粋な脚本の密度としても。二時間映画でしたが正直、一時間でも同じ話が作れると思います。というか、一時間の方がみっちり作れて面白くなるとすら思います。
 とにかく、よほど「L」というキャラクターに「萌え」を感じる人でないと、この映画は面白くないと思います。Lの変人ぶりは思いっきり強調されていますから。まあ、それも結構しつこくてアレですし、原作では何気にスポーツ万能だったのがこの映画では引きこもり同然になっていますし。このLの変人ぶりも「映画の笑いどころ」として描いている節があって、かえって笑えません。
 あと、肝心のウイルス関係の描写が非常に甘いです。数分後には体中血だらけになって死亡って、それはウイルスどころの騒ぎではありません。スタンド使いグリーン・デイ)の仕業です。エボラの破壊力+インフルエンザの空気感染という設定からして「ぼくのかんがえたこわいウイルス」的な要素がありますし、そんなに感染が早かったらワクチンなんて無駄でしょうによ。観てる人に説明するためとはいえ、感染症センターの研究員に対して「ワクチンが無いとウイルスは使えないんだ。制作者が感染したら困るからな」と言う台詞だってお粗末ですし、ツッコミどころが満載です。
 それと個人的になんだかなーと思ったのが、唐突に出てきた秋葉原。電気街の部分では重要な複線が幾つかあるのですが、その後に出てくるのは「アキバつったらこれだろ」というやっつけ感があるメイド喫茶。甘いもの食ってばかりのLにしてみれば考えられなくもないのですが、なんか白けたのは私だけなんでしょうか……?「たぶんここも笑いどころなんだろうなー」と思えてしまったので、「ここで笑っとけ」という台詞を聞くと「じゃあ笑わない。もう笑えない」というへそ曲がりの私には笑えませんでした。いえ、メディアでメイド喫茶が出るという現象自体が耐えられないのかもしれません……。


 まあ、面白いところも結構あったんですけどね、上述した秋葉原の電気街における複線もそうですし、ラストでいつも背筋を曲げていたLが少しだけ伸ばすシーンは良いと思いました。Lを引きこもり探偵だとすれば、今回の映画での活躍を象徴しているようで、なかなか印象的でした。
 が、ラストで唐突に「デスノートで寿命が来て死ぬ」となることで、「ああ、これってデスノートの映画だったんだなあ」と思い出されてまた残念な気持ちに。ストーリー的にデスノートが使えないのはしょうがないとしても、もう少しぐらいはデスノートからの要素を持ってきてほしかったなあと思います。
 いろいろと消化不良です。むう。