菊地真、ある朝の風景

 朝六時。目覚ましの音で目覚めた。
 新聞を取ってきてから、軽く体を動かす。昨日の疲れは取れてるし、寝違えた様子も無い。ボクは全身の筋肉の目を覚まさせると、家中の雨戸を開けた。
 今日の朝食はボクの担当だ。父さんに男らしく育てられたボクだけど、食事だけは自由に作らせてもらえる。
 「食事は女に任せておけばいい」なんていう事を言う父親も多いみたいだけど、ボクの父さんはそんな人じゃなく、「男なら誰にも頼らずに生活できなければならない」という人だ。その言葉はボクも性別抜きに共感できる……んだけど、生憎父さんはまともな料理ができないから、母さんと二人で交代で作る事になっている。ちなみに父さんの作る料理は、母さん曰く「一人暮らしの大学生みたいな、味も栄養も考えない、量だけの料理」らしい。
「でもあれも、お腹がすいた時、たまにむしょうに食べたくなるんだよなー」
 そんな事を呟きながら、ボクは朝ご飯を作っていった。
 「料理ができる」とは言うものの、朝早くからの仕事も多いボクにとって、あまり大した料理を作る時間は無い。今日もシンプルに、ご飯に味噌汁に目玉焼き、後は漬物ぐらいだろう。納豆はオマケ。母さんは納豆が嫌いだから、ボクと父さんしか食べない。
 ご飯にしても昨日の夜に仕掛けたものを茶碗に盛るだけだし、味噌汁もお湯の中に味噌を入れるだけだ。目玉焼きも然り。果たしてこれを料理と呼べるんだろうか?時々ボクは考える。でもほとんどの日本人はこれで満足しているみたいだし、告白の文句にも「毎朝キミの味噌汁を飲みたいんだ」というものがあるぐらいだし、それでいいのかもしれない。……この言葉が好きってわけじゃないけど、一度は言われてみたいよな〜。
 やがて、母さんと父さんが起きだす頃に、ボクは目玉焼きを焼き始める。目玉焼きは好みがうるさい人も多いというけど、家の中では文句は出ない。
「おはよう、父さん母さん」
「おはよう、真。今日もありがとう」
「真、今日の味噌は何だ?」
八丁味噌。赤だよ」
「そうか、俺は白味噌派なんだが……」
 これも、いつも通りのやり取り。普通の家には複数の味噌は常備してないって春香が言ってたけど、家には何故かいっぱいある。ボクは赤だしないし八丁味噌が好きだから、ボクが作る時は大抵赤味噌になる。
 いつだったか、父さんが鈴鹿サーキットに行ってきた時、お土産で買ってきたのが赤味噌だった。あの時父さんは「いやあ、三重県って田舎だから面白いのが無かった」とか笑ってて、ボクは悔しく思ったけど、それから食べた赤味噌はすごく美味しかったから文句は言わなかった。言えるわけがない。
 それからだ、ボクが赤味噌をよく食べるようになったのは。もし家を出て自由に働けるようになったら、赤味噌が主流の東海地方に住もうと思ってるぐらいだ。
 二人が顔を洗うのに合わせ、味噌汁が出来上がった。顔を拭くのに合わせてご飯を盛り付ける。椅子に座るのに合わせて目玉焼きを皿に配った。
「おう、今日もうまそうだな、赤味噌以外は……」
「またそんな事言って……」
 これもいつものやり取り。父さんはよほど味噌にこだわりがあるらしい。でも、ボクにとっても味噌はこだわりがある。
 それでは、手を合わせ。これから始まる一日と、始まりを告げる朝ご飯に感謝を言おう。


『いただきます』




 ……等という感じの妄想が風野君から送られてきたので、いつものノリで文章化してみました。別に真は味噌にこだわりがあるキャラではないのですが、「私が」味噌にこだわりがあるので。あと、レーサーならば一度ぐらいは鈴鹿サーキットに行ったであろうと思い、赤味噌と絡めて書いてみました。いやあ、赤味噌最強。白味噌は滅亡してしまえ。
 この文章の経緯を説明しますと、風野君がMASTER LIVE 03を聴いたようなのですが、そのうちの一曲である真の「おはよう!!朝ご飯」を聴いていたら、こんな話を思いついたらしいです。間奏にサラリと入る「いただきます」の粛々とした感じに胸を打たれたとかなんとか。
 「真君が静かに和食を作って、家族でゆったりと食べる姿が浮かんだ!」ですって。でも私が書くと絶対本来のキャラクターから外れるよ〜とか言ったんですけど、「それでもいい、なんか書いて」とか言われました。こののったりとした文章が好きらしいです。なんだかなあ。