リッチャンハ、カワイイデスヨ

 今週のヤッターマン、やばくね?
D


 名曲だよね。「そんな大人にならないで」とか、何気に説教臭い歌詞なんだけど、それを「キュッキュッ」と笑い飛ばす事でバランスを取ってる。勿論軽く扱ってるわけでもなく、18年(93年のOVAの時)頑張ってきた三悪ならではの深いメッセージだ。


 んで、前置き。
 風野シュレン:底辺プロデューサー。この動画を作成した奴。選曲もこいつ。真好きだが、真をメインにした動画は全然作らず、愛情でアイドルの扱いが偏ったりはしない不器用な奴。テーマソングは「飯田線のバラード」。「ゆきまこ」よりは「みきまこ」派。しかし一番はリッチャンとの組み合わせだと思うのですよ私は。ちなみに、外見のイメージはパックマン
 石川:私。いわゆる「L4U!のファン代表P」。下の駄文を作った奴。リッチャンハサイコウニカワイイデスヨ。しかし変人には違いない。あと、アイマスはプレイしてないのであんまり詳しくない。細かいキャラクターとかは間違ってるかもしれないけど、笑って許してちょ。どうでもいいが、外見のイメージはパーマン


 765プロに入って、成り行きでアイドル候補生になって随分経つ。アイドルになってからで考えると、9ヶ月ぐらいだったかな。最初は「なんでこんな事に……」とため息ばかりついていたけど、今はそれなりに充実した日々だと思う。それでも、今の自分の有様を思い返すと、さっきの疑問は解決していないんだろう。
 プロデュースという仕事に魅力を感じて、小規模ながらも多くを学べそうだった765プロにバイトで入ったまでは良かった。社長は私の事をよく理解してくれていたし、小鳥さんにはいろんなことを教わった。
 そんな二人と会社に恩を感じていたのに、ある日社長に宣告された。「君もアイドルをやってみないかね?」と。……やっぱり、社長は見た目通りの人だったみたいだ。黒尽くめで、何を考えているか分からない。
 私と同年代、あるいは年下の女の子にもかかわらず、どこか違う世界の人達だったアイドル候補生。アットホームな社風だったから、私がバイトの時から仲が良かった皆だけど、私は躊躇した。「昨日まではバイトでしたけど、今日からはひょっとしたらライバルになるかもしれません」等と。言えるわけがない。
 しかし、郷に入っては郷に従えと言う。プロデュースされる側に回ってみないと分からない事も多いだろうとも思ったし、結局私はアイドル候補生になった。この時から私は、「バイトの女子高生」から「アイドル候補生、秋月律子」になったのだ。


 去年、765プロにプロデューサー志望の人がやってきた。全身黄色の丸っこいシルエットの服に赤い帽子で、いつも何かを食べてる、昔の戦隊ヒーローの三番目みたいなキャラクターの人。アイドルに対する下心丸出しの脂ぎったおじさんの方がまだ良かったというぐらい、正体の掴めない人だった。
 私はその人が入社する瞬間に立ち会っていない。後で小鳥さんから聞いたところによると、社長はその人に会うなり何かを懐かしむような顔を見せて「ティンと来た!」と言ったみたい。「ティン」の意味はよく分からないけど、「懐かしむ」というのはなんとなく分かった。その人は、いつかどこかで会った事があるような、そしていつもどこでも会えるような、不思議な面ざしをしていた。


 そして去年の10月、私達はその人のプロデュースを受けてデビューした。


 言っては悪いけど、この人はプロデュース能力はあんまり高くなかった。私を始めとして、いろんな人にツッコミを受ける毎日だ。今でこそある程度の人気はあるものの、トップアイドルには程遠い。
 それでも、私達はこの人を嫌いになれなかった。いや、むしろ好きになった。この人は、私達の個性を出す事を最優先して、突然の路線変更や、必要以上に彩るような宣伝をしない人だった。私達の事をちゃんと見てくれているのだ。そして、個人の感情を仕事に持ち込まない人でもあった。アイドルにしたって年頃の女の子だし、765プロの経営方針なら必要以上に親密になってしまう可能性もあったのに、この人にはそういった心配が全く無かった。
 しかし、決して鈍感というわけでもないようだった。10人のアイドルを、スケジュールの関係上仕事が偏ることはあっても、決してひいきせずにプロデュースしていたこの人だったが、何気無い仕草に感情の揺れがあった。それは、プロデュース業を学ぶ上で人間観察を常としていた私だから気づいたのかもしれないし、単に「女の勘」かもしれなかったけど、少なくとも私しか気づいていないようだった。
 私は、「天海春香」と「菊地真」と合わせてトリオで活動していた。三人とも高校生で、真は中性的な魅力と運動神経の高さを生かしたダンスが売り。春香は良い意味でアイドルらしからぬ親しみやすさが持ち味で、ポジティブシンキングで私達を引っ張っていく。……私は、まあ知性派で。春香も真も突っ走りがちだから、時々私が呼びかける事でバランスを取る役目かな。
 そんなわけで私達三人ユニットは、765プロの中ではかなり頑張っていた。そうなると当然仕事も増えるし、プロデューサーと接する機会も多くなる。私が「それ」に気づいたのは、そんなある日の事だった。


 私はプロデューサーに尋ねた。尋ねてはいけなかったのかもしれなかったけど、尋ねた。「あの子を見る目が、他の子とちょっと違う」と。……たぶん、私はこの人の仕事に対する姿勢に尊敬していたから、些細な事に敏感になってしまっていたのだろう。色恋沙汰とは無縁であってほしいという、変な幻想だ。
 プロデューサーはたっぷり五秒黙ってから、肯定した。自分では表に出したつもりは無かったけど、律子にそう思われたのならそれが真実なんだろう、と。私の事をそこまで正しく信頼しているのかと一瞬思ったけど、すぐに打ち消した。それは今は関係無い。
 プロデューサーは、真の事を想っていた。それも、かなり本気で。いつからと問うと、出会った時からだったそうだ。……言っちゃ悪いけど、馬鹿だと思った。
 告白とかしないの?と、思わず聞いてしまった。……普通はしないだろうに。スキャンダルの種だし、年齢差だってある。しかし、プロデューサーは予想外の答えを返してきた。「俺には遠すぎる」と。
 プロデューサーは、真の中性的な面に惹かれているようだ。それは彼が偏った趣味の持ち主というわけでは、勿論ない。真は女性であり、自分の男らしさをあまり好いていない、のだが……何気無い仕草や咄嗟の判断に男性的な面が現れている。そして、女性でありながら、男性的な思考も併せ持つ真は、端的に言えば大人びている。
 ……確かに、女性ファンからの熱烈なアタックに応えつつも紳士的に断る真の姿は、女性の私から見ても美しいと思う。私のような知識だけでは人間の良さは測れないというわけだ。そして、そんな感覚を持っている真は魅力的で好きだと。
 惚気話を聞かされるのは沢山だったが、そこまで分かっていて、しかも長く想っていて、どうして打ち明けようとしないのか分からなかった。それを尋ねると、「本人の気持ちはどうだと思う?」と逆に聞かれた。
 真の気持ち……。いや、この765プロのアイドルは、皆プロデューサーの事を信頼している。中には仕事上の信頼関係を越えている子もいるかもしれない。……真の気持ちは、どうだろう。信頼関係で言えば、かなり上位じゃないだろうか。
 それだったら別に良いんじゃないの?と軽い気持ちで発言した私だったが、どうもプロデューサーの想像とはちょっと違うようだった。
「俺は真の中性的な面に魅力を感じた。それで真が喜ぶと思うか?」
「?……あ……!」
 そこで私は気づいた。真は中性的な魅力があるものの、本人は普通の女の子だ。むしろ外面の反動で、女性でありたいという気持ちは誰よりも強い。プロデュースの方針という事で納得しているものの、本当は女の子っぽい格好もしたいとよくこぼしていた。
 そこでプロデューサーが告白したらどうする?当然喜ぶだろう。男性から告白されたんだから。そして次の瞬間に落胆するだろう。女性的な面ではなく、中性的な面に惹かれたんだから。真のバランス感覚は私も好きだけど、本人としてはやっぱり複雑だろう。
「分かってくれたか。余計な言葉でアイドルのやる気を崩すわけにはいかないし、それ以前の問題でもあるんだ」
 それだけ言うと、プロデューサーは満足してしまったのか、あまり大した話をしてくれなかった。
 ……そうやって、一生想いを秘めたままなんだろうか。私に話した程度で満足なんだろうか。私はそこに、男としてではなく、人間としての不器用さを見た気がした。
 私達が活動を開始した時に、プロデューサーは一つのアクセサリーをプレゼントしてくれた。「俺は君達の、最初のファンだからな」と。
 プロデューサーが洒落た事をしてくれたのは後にも先にもあれだけだったけど、真とファンとの関係を見るに、「最初のファン」というのはあながち間違っていないと思うと、なんだか物悲しい。
 それからも、プロデューサーは私達に平等に接してくれている。私にだけは分かってしまう、ほんの少しの揺れを秘めて。


 色恋沙汰と言えば、もう一つ大きな問題がある。私達ユニットの、春香だ。
 私達は皆プロデューサーの事を信頼している。それは仕事の面では勿論の事だが、個人的にも信頼を寄せている子は多い。プロデューサーの性格上それは構わないが、春香はそれを明確に自覚して行動している。つまり、恋する乙女だ。
 なんでそんな事が分かったかと問われれば、なんとなく想像が付いていたというのもあったけど、本人から直接相談されたからだ。「プロデューサーさんって、好きなものとか無いのかな?」とかもじもじしながら問われれば、まあ男と女の関係というもので間違いはないだろう。
 こちらも、ある程度尋問したらあっさり答えてくれた。いつか、友達と約束していた休日をすっぽかされた時に、自分の休日を返上して付き合ってくれたとか、趣味で作ったお菓子を美味しそうに食べてくれたとか、とにかく何気無い思い出が積み重なって、という事らしい。そういう話を聞いて、私はプロデューサーの私生活を全然知らないことに気づいたが、まあこの際関係ない。
「いつも何か口に入れてるし、お菓子を作れば良いと思うんだけど、プロデューサーさんって何でも食べるから、何が好きなのか分からなくて……」
 なんで私に聞くかなーと思わないでもなかったけど、私の観察、分析能力がそれなりに高く評価されている証かもしれないと思うと悪い気はしなかった。……単に同じユニットで年上だったから聞きやすかっただけかもしれないと気づいたのは、相談された次の日だったけど。あと、私はプロデューサーとそういった関係になろうと思ってないし、周囲にもそう認識されてるみたいだし……。
 プロデューサーは、本当に何でも食べる。足の生えたもので食べられないのは机と椅子、空を飛ぶものではヘリと飛行機だと冗談混じりに言っていたけど、それが冗談に聞こえない程だ。その癖全く体型が変わらないのだから、後学のためでなくプロデューサーの事を観察したいぐらいだ。
 良くも悪くも普通人の春香だけど、ことお菓子作りに関しては定評がある。その意味ではプロデューサーとの相性は良いかもしれない。「だったら世間話のついでに細かく感想を聞いてみれば」と言いたいところであったが、私はプロデューサーの気持ちを知っているのである。その気持ちが報われないものであろうという事も。ここで春香へのアドバイスをするのは、正しい行為なのか。
 せめてプロデューサーの想いが「報われるもの」であれば対処の仕様もあったと思うけど、考えているうちになんだか分からなくなってきた。人間観察とか分析を趣味としても、人の気持ちなんて全然分からないものだ。プロデューサーも難儀な性格だよね、ホント。気づかなきゃ良かった。
 結局、大したアドバイスはできなかった。その後、春香は手を変え品を変えアタックしており、それを止めることは、私にはできなかった。ただ、春香からの手作りの差し入れを美味しそうに食べるプロデューサーの姿は、その時だけはしがらみから開放されているようで、私も少しだけ救われた気分になった。
 後は、それこそスキャンダルにならないように、私が適当に邪魔をするだけだ。春香もあれで良識はしっかり持っているから大丈夫だとは思うけど、損な役回りだなあ。


 ちなみに、諸悪の根源(?)である真からも相談を受けた。
 最近、事務所内で視線を感じるとの事。一瞬プロデューサーの事かと思って動揺したが、どうもはっきりしない。問いただしてみると、今までとはうって変わって馬鹿馬鹿しく、しかし笑えない話だった。
 どうも女性ファンの多い真は、最近事務所内のアイドルからも好かれるようになったそうだ。私よりも遅れて765プロに入ってきた「星井美希」がその人。美希自体は男性からの熱狂的指示を受けてるんだけど、本人にはその気はちいとも無く、寝てばかりいる。しかし、どういった経緯なのか、最近「真君〜」と不自然に寄ってくるそうだ。「君」付けですか……。
 言われてみれば、心当たりがある。良くも悪くも自分に正直な美希は、アイドルの仕事への熱意も今ひとつだった。それを私が厳しく注意した時、そこにいた他の子は「律子も言いすぎかもしれないけど、美希の態度も……」と傍観気味だったけど、真は美希の側に立って弁護したのだ。後日真の話を聞いたところによると、自由気ままに生きて男性ファンが多い美希に憧れも感じていて、か弱い(?)子を助けるのがなんだかんだで癖になっていたから、だそうだ。
 美希はそれ以降やる気が出てきたようで私は満足していたけど、それは真という「王子様」に助けられたからじゃないかと……、つまりこう言いたいわけだね、真君。
「うん」
 ……真、あんたも損な性格だわ。プロデューサーと、ある意味お似合いかもね。
 でも正直なところ、美希に関しては放っておいて良いんじゃないかと思った。まだ中学生で多感な時期だし、真のおかげでやる気を出してくれたのは事実だし、それを無下にしてしまうのはよろしくない。…………ぶっちゃけ、そのうち飽きるような気がするし。
「でも、昨日とかレッスン終わった時に待ち構えてて……、今はまだ良いけど、自主練習とかしたいし……」
 なんというか、ファンの出待ちから逃げるアイドルの姿そのままだ。笑い飛ばしてやりたくてしょうがなかったけど、確かに練習や仕事に支障が出るのは問題だ。
「……今日から主食をパンにするとか。ご飯党の美希にはショックかも」
「真面目に考えてよっ」
「……とにかく、プロデューサーとも相談してみるわ。仕事が関わるなら、あの人はちゃんと対策を打ってくれるだろうし……」
 (……それに、真のために何かできるのなら、やらせた方が良いと思う)
 そしてプロデューサーに相談して数日後、美希は不思議なほどに仕事に情熱を燃やし始め、真との関係は自然消滅しないまでも、可愛いレベルのお付き合いに収まった。真も美希の事が苦手というわけではないので、現状に満足したようだ。一体どういった魔法を使ったのかと問うと、プロデューサーは一冊の企画書を見せてくれた。
 ……企画書の表紙曰く「日本野鳥の会キャンペーンガール星井美希」。そして、単なるキャンペーンガールというには企画書が分厚すぎた。新解さんみたいだ。
「仕事に情熱を持たせるには二つの手段がある。仕事の先に餌を用意するか、仕事そのものを餌にするかだ」
 そう語るプロデューサーは、少しだけ怖かった。


 さて、そうやって裏方ばかりの私が18歳の誕生日を迎えるに当たって、小さなホールでバースデーライブをする事になった。貧乏な765プロならこの程度の規模が精一杯だし、ユニットの中の一人である私を祝うだけで大規模になってもしょうがないと思うから、その辺りに関しては不満は無い。強いて言えば、自分の誕生日なのに必死で練習する自分の姿がちょっとだけ悲しかったけど、それもアイドルとしての宿命なんだと思う。
 それにしても……18歳ともなれば、気になる相手の一人ぐらいいるのかもしれない。仕事上、いろんな若手俳優とも付き合いがあったし、プロデューサー志望の私は裏方の人と会話する機会も多く設けていた。しかし、私は誰かとお付き合いしようという気にはなれなかった。やはり、先の複雑な恋愛模様を見せられたのが効いているのだろう。
 …………なんだか、寂しいのかもしれない。
 私は……、邪魔者なんじゃないかと時々思う。あの関係の中で、私は常に聞き手でしかなかった。そして、ひっそりと大人になっていく。やはり、アイドルには向いてなかったんじゃないだろうか。今のユニットはバランスを考えて私が入ってるけど、私のキャラクターがいなくても組み合わせは考えられたはずだ。
 何故社長は、私をアイドルにしようと思ったんだろう。猫の手でも借りたい程経営が圧迫されていたわけじゃないし、私のキャラクターがやがて大ブレイクするという見立てがあったわけでもなかったみたい。私はそりゃあ、やってみなければ分からない苦労が理解できて感謝はしてるけど……。
 バースデーライブといっても、メインは春香だ。春香は中心にいてこそ映えるし、私のキャラクターは全面に押し出しにくい。勿論私を引き立てるような趣向も計画しているみたいだけど、どうもそれはサプライズらしく、私には教えてくれなかった。
 私は与えられたメニューをこなし、確実に曲を自分のものにしていった。真からダンスを教わり、春香から元気を貰いながら……。


 そして、あっさりと当日がやってきた。


 小さいホールなこともあり、客は満席だった。私の誕生日をこれだけの人が祝ってくれているんだろうか。あまり実感が湧かない。例えば、いつも見る女性客の一団は真のファンクラブの人達だし(弱小アイドルなのに、ユニットとは別に個人のファンクラブがあるのよね……)、春香のファンは老若男女いろんな層に満遍なく渡っている。そんな中では、私は誰に受けが良いのかよく分からない。
 勿論ファンレターとかには私宛のものもあるけど、こういう光景を見せられると、「他の二人のついで」なんじゃないかとすら思えてしまう。「マニア向け」とか書いたプロフィール文が、今では憎らしかった。
 今日のライブにはプロデューサーがいない。段取りはあらかじめ決めてあるから問題は無いけど、アクシデントや雑事に対してあの人がいないのはちょっと頼りない。代わりに、私の熱狂的なファンが観客側のまとめ役を買って出てくれたんだけど、あの人は熱狂的すぎてちょっと変だし……。
 「……私のファンは、どこにいるんだろう?」僻みではなく、純粋な疑問として私は呟いていた。
「ここにいるよ」
 突然の声に、私は振り返った。
 そこにいたのは、見慣れた二人だった。春香と真。二人とも、見慣れないステージ衣装を着ている。どこかの学校の制服……をイメージしたものだろうか。
「律子の一番のファンは、ボク達、765プロの皆だよ。これだけは、他の誰にも譲れない」
「そうですよ、律子さん。皆、律子さんの事が大好きなんです」
「……どの辺りが?」
 思わず聞き返していた。
「頭が良くて、いつも冷静で……、私なんかすぐ『どんがらがっしゃーん』ってなっちゃうのに、律子さんはよくフォローしてくれるじゃないですか。律子さんがいたから、私はこのユニットでリーダーができるんですよ」
「レッスンの時も、律子の立てた計画通りにやったら、すごく勉強になるし、疲れが後に響かないし。ボクは体を動かすしかできないけど、律子は『体の動かし方』を知ってるよ」
「……そうなんだ……」
 私は間の抜けた返答しかできなかった。
 ……分析なんて、趣味に書かなきゃ良かったな。だって、自己分析が全然できてないんだもの。
「プロデューサーは今日来れなかったけど、ハイこれ」
 呆然とする私に、真が小さなメッセージカードを渡してくれた。


『俺は今日のライブには顔を出せない。765プロはまだ小さいから、プロデューサーの俺が東奔西走しないと回らないのは、君も分かってるとは思うが、本当に申し訳ない。これからの活動をより良くしていく事で埋め合わせになるかは分からないが、俺にはそれぐらいしかできない。許して欲しい。
それ以外でも、正直俺には至らない点が多い。皆に助けられてばかりだ。特にプロデューサー志望の君にしてみれば、あまり良い先輩ではないと思う。
……それでも、俺は律子に一つだけ言いたい事がある。君は今日で18歳になる。アイドルとしては年齢が上の方かもしれないけど、『まだ18歳』だ。仕事が忙しくなっても、まだ高校生なんだ。社会人になるには、もう少し時間がある。
プロデューサーになろうとする君の心意気は大事だ。それは大切にしてほしい。しかし、いろんな事を経験して『今を楽しむ』のも、やはり大切にしてほしい。その経験の一つひとつが、本当に大人になった時にきっと役立つ。
思い出してほしい。アイドルとは、『皆の「今」を作る人』だ。だから、常に今を楽しんでほしい。アイドルは人からの憧れであると同時に、ただの『毎日を楽しむ高校生』でもあるという事を、自分から皆に見せてやってほしい。そうやって自分が楽しんでこそ、それを見ている人も楽しめる。それこそが、人気では計れないトップアイドルの姿じゃないかと、俺は思っている。
その為に、今回の衣装は高校の制服をイメージして用意してもらった。俺も最初のファンとして、その衣装を着て踊る姿を見たかったが……、未練がましいな。記録用のビデオで我慢するよ。


いつも俺をフォローしてくれて、ありがとう。君は、俺の最高の友達で、永遠のアイドルだ』


 最後まで読んだ私は、座り込んで泣き出してしまった。そして、全てが理解できた。
 結局のところ、私はプロデューサーの事が好きだったのだ。食以外には無愛想な、そのくせ人の心を読み取るのが上手いあの人に、職場での憧れ以上の感情を抱いていたのだ。
 そして今、私は振られてしまったようだ。あくまでも、私はアイドルで、あの人はプロデューサーなのだ。どこまでも、ドライな人だ。あの人はそれで満足なのだ。まるで、風に吹かれる花のように、そこにいるだけで満足なのだ。私も、そんな彼だからこそ好きなんだ。
 社長の意図も理解できた。私にアイドルをさせる事で、知識や経験では説明できない「思い出」を作ってくれたのだ。それが私の人生に必要だと思ったから、そうしたのだ。……どんなに事務所が貧乏でも、決してアイドルを辞めさせたりはせず、それどころかここまで考えてくれているなんて……、馬鹿みたいなお人好しだ。
「ありがとう……」
 春香も、真も。他の子も、皆。そして、今日のライブに来てくれたファンも、今日来れなかったファンも。CDしか買わない人も、テレビでしか観ない人も、皆みんな……。
「律子さん、そろそろ準備しないと間に合いませんよ」
「ホラ律子、立って」
 うん。
 私は急いで化粧を直し、初めて見るその衣装を身に着けた。学校の制服をイメージされているそれは、ダンスする事で映えるだろう、明るすぎない配色が可愛い。三人の衣装デザインは統一されていて、「同じ年頃の女の子」なら誰にでも似合うように作られている。これを着た私達は、三人の仲良し高校生そのものだろう。
『……りっちゃーん……!』
 舞台袖まで戻って来ると、ファンの声が聞こえてきた。いつも三人の名前が混ざっているのに、今日は違った。私の名前が聞こえる。私の名前を呼んでいる。
 ああ、今日だけは、私の日なんだ。
 …………いや、違う。私達を応援してくれる人がいる限り、私は永遠にアイドルなんだ。私の日なんだ。


 私は18歳の、ちょっとだけ理論派の、高校生アイドルなんだ。




 さて、こんなもの書いてどうするんだろう、私は。「そんなにリッチャンが好きなら自分でなんかやれば」と言われて書いたまでは良かったものの、なんだろうね、これ。動画の内容との剥離がすごい。
 ただ言うなれば、18歳という年齢ならこのぐらいのグダグダな青春像の方が良いと思うのですよ。いくら私がリッチャン好きだとしても、所詮は小娘ですし、結婚適齢期にはまだ早い。まあ、仮に実在したとしても結婚するかというと違いますが……等と、ニコマスP達のネタ半分の愛にマジレスする私。
 あと書いてから気づいたんですが、りっちゃんの持ち歌ってかなり「女の子」してるんですよね。本人は知性派で売ってるのに、「魔法をかけて!」とか夢見る女の子みたいで、ある意味正反対というか、本人の深層心理が反映されているというか。きっと社長やPはりっちゃんの冷静さを買いつつも、年頃の女の子らしいところも見せていってほしいと曲を作ってもらったんじゃないでしょうか。うん、そういう設定で上の文章を読んでもらうとちょっとだけ面白いかも。


 しかし、20歳のあずささんとならともかく、小鳥さんは正直痛々しくて見てられない……。登場する度に何かしらやらかすあの人は、どうしてクビにならないのか疑問ですらありますよ。アイドルのスキャンダルも何度か流しちゃってるわけだし、減給なり小言なり貰わないと割に合いませんよ。「君、悪いが明日から、地下の倉庫の隣の部屋で、何もしないでいてほしい」とかさ。