おくりびと

 唐突に映画感想を再開してみます。ずっと観てたんですけどね。


 「おくりびと」とは、人生を送る人の事です。この映画ではその中でも一番最後の仕事ともいえる、遺体を整えて棺に入れる「納棺師」のお話。チェロ奏者として楽団に所属していた主人公が、楽団の解散と共に職を失い、高給に引かれ仕事内容も調べないまま「NKエージェント」なる仕事に飛びついたら、なし崩し的に納棺師として働く事になる……といった導入。
 「死」を扱う仕事とは、大抵が善く思われません。「死体は汚い」とか、「人の死で商売している」とか、生理的嫌悪が付き纏うものです。この「おくりびと」の中でもそれは同じで、友人から避けられたり、新婚の妻から「辞めたら帰る」と別居される等、理不尽な状況に立たされます。また、死因や死体も綺麗なものばかりではなく、葬式の現場で揉めるといった非常に「見たくない」事件も起きます。
 しかし、映画だから多少の美化はされていると思いますが、納棺の手順を見ていると非常に美しいのです。死後の世界に綺麗な姿で行けるように化粧を施し、また遺族に無様な姿を見せないように素肌を隠し、そして衣服と姿勢を整えて……といった姿は、ある種の芸術ですらあると思います。その仕事を続ける様と、自由に思うままチェロを弾く姿がオーバーラップするシーンは、心揺さぶられるものがありました。なお、音楽はポニョと同じ久石譲さんで、死をテーマにした音楽は深いなあと知ったかぶってみます。
 また、主人公は父親が幼い頃に失踪したという過去があるのですが、仕事を通して親との絆を思い出すという展開が主軸となっています。父親の顔すら思い出せなかったのに、父の死の連絡を受けて自ら納棺を申し出て、作業をこなしていく事でゆっくりと父の姿を思い出していく様は、まあ陳腐ではありますがなかなか感動的でした。


 ……というのは前置きでございまして。
 人の死って、なんなんだろうな〜と、最近よく思うのです。
 私は幸運にもまだ死んでいませんが、実を言うと数年前に一度死にかけた事がありまして。その時に感じた事なのですが、限りなく「死」に近づいても、「死」とはなんなのか分からない……。月並みな話ですが、「死」とは絶対的なものだと気づいたわけです。ああ、だから人間は宗教に走るんだ、とも思いました。分からないから誰かにすがるしかないのです。
 そしてもう一つ、……死にたくない……人間なら誰でも持っているであろう感情ですが、あの体験を通して、死にたくないとは思っても、死に対する覚悟のようなものは出来てしまいした。「死にたくないけど、死ぬのならしょうがない」といった感じに。勿論、死の淵でも生きられるのなら足掻くつもりではあるのですが……。
 そんな事を誰にも言わずに、胸のうちに秘めていたのですが、つい先日、「それは非常に寂しい」という事に気づきました。死ぬのが寂しいのではなく、死ぬ前から覚悟をしているのが寂しくて、それを誰にも言わないのが寂しいのだと。……あ、この「おくりびと」は偶然観たのであって、今回の感情とは関係ありません。紛らわしい話ですが。
 というわけで、ここに書いておきます。こうすれば、たぶん寂しくなくなるでしょう。


 好きだ、好きだ、あの笑顔……。