ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

 今週のウィルバーさんのおかげで、私の中のライバルキャラランキングが大変動しました。私もウィルバーさんと「ニヤリ」したい!
 あと、今週の彼岸島の隊長さんのおかげで、私の中に下半身を無くしたジジイ吸血鬼ランキングが作られました。いつも思いますが、この漫画は一体どこを目指しているのでしょうか。


 久しぶりに映画の話を。このタイトル、『おっぱいバレー』なんぞよりよっぽど恥ずかしいと思います。また、私が観に行った映画館ではタイトルが長い上に文字化けのせいか、チケットのタイトルが『ブラック会社に勤めてるんだェ、……』とNARUTOの台詞みたいな感じになってました。そんな時に限って携帯電話を持ち合わせておらず、証拠写真が撮れないままお兄さんにチケットを渡してしまった……ッ!
 で、この映画……ビックリするほど面白くなかったです。実は私は『電車男』に始まる2ch発の映画の類を一度も観た事が無かったので、12月の映画ラッシュの前にウォーミングアップとして観ておこうとしたのですが、これは本当にダメだ……。
 なお、これから感想を語りますが、2ch発だからといって真実性云々については語るだけ無駄ですので語りません。お話はあくまでお話です。映画なら尚更にお話です。


 大雑把なストーリーは、中卒ニートだった主人公が一念発起してなんとか就職するもブラック会社で様々な困難に直面し、それでもなんとか頑張ろうという感じで、私も元の2chのスレを一度読んだ事がありました。その時は結構面白いなあと読んでいたので、恥ずかしながら映画にも少しだけ期待していました。が、これが全然面白くない。
 何がどう面白くないかと問われれば、「2chのスレそのまますぎる」という事が一番大きいかと。尤も、ストーリーがそのままなのは良いんです。多少はアレンジしてくるかなとは思っていましたが、まあ大体そのままでも、そこは問題ありません。が、「ノリ」が2chのままなので、全然映画に合っていないのです。
 私は別に「2chは映画等という高尚な芸術には相応しくない」と言いたいのではありません(ていうか、映画は大衆の娯楽ですし、大昔の2chとすら言えるかもしれません)。が、小説には小説の面白さ、漫画には漫画の面白さがあるように、2chには2chの面白さがあって、それを映画にそのまま転用しても面白い筈が無いのですよ。
 例えば漫画を映画化する際に、「『漫画の名シーン』を映画で再現する」のは当然ですし意義のある面白さですが、「『漫画の名シーンのコマ』を映画でそのまま漫画のコマとして使う」のは、普通なら考えもしないような愚策です。2chの「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!」等は、漫画で言う名シーンと同じようなものだと私は思っていますから(その世界でしか使えない特別な言語、とでも表現しましょうか)、2ch用語が飛び交ったり、藤田さんが平成の孔明とか言われても、寒いとしか言い様がありません。これで主人公が適度にダメ人間の空気を漂わせていたり、いかにもステレオタイプなオタクの風貌をしていたりしたらそこそこは良かったのかもしれませんが、残念ながら小池徹平君はニートをやるには綺麗すぎて、「デスマ」という略した台詞一つ取っても似合ってません。あとデスマーチなら身だしなみもメチャクチャになりそうなものですが、ヒゲもロクに伸びないのは体質ですかね。
 映画は広い画面と、自由な音響設備があります。普通のテレビドラマでは家の小さいテレビですから、画面も音も一歩劣ります。しかしだからと言って映画がテレビドラマより優れているわけはなく、広い画面を活かした画面作り、自由な音響設備を活かした音作りをしなければ、映画館に負けてしまいます。テレビドラマでさえそれだけの違いがあるのに、小説ですらない2chのスレを「そのまま」映画にできるわけはないのです。
 この「そのまま」という感覚はストーリー構成にも現れていて、正直主人公が何で頑張っているのか、私にはサッパリ判りませんでした。これが2chのスレなら「俺はニートだけど、母ちゃんのために頑張ろうと思った」だけで通じます。それが2chの世界ですから。でもこれは映画の世界ですから、ニートが社会復帰する様を描くにはまずねっとりとニートを描写しなければ通じません。なのに、映画ではスレの流れに毛が生えた程度の過去しか描写されなかったので、そんなに嫌ならブラック会社なんか辞めちゃえよと身も蓋も無い感想を抱いてしまいました。だって、ブラックなんですもの。


 しかし、そういう「2ch的な部分」全てに目をつぶったとしても、この映画はお粗末です。まず、そもそものテーマが分からないのです。ブラック会社の実態を晒して社会批判をするわけでもなく、ブラック会社をネタにした「これがホントのブラックコメディ」といった風に徹するわけでもなく、そんな会社に就職して社旗復帰しても主人公は何も救われていませんよと皮肉を言うわけでもなく、ただ「ニートブラック会社で頑張るだけ」です。これならブラック会社である必然性なんてありません。ただの「個性溢れる社員が集う会社」で、十分に同じ内容の映画にできるでしょう。なのに原作としてそれを選んだのなら、せめて私が挙げた要素のどれかはしっかり描写してほしかったと思います。
 演出も稚拙です。デスマーチの有り様をイメージカットとして挿入し、戦争でひたすらに戦う主人公達が何度か出てきたり、あるいはCGを使って社会のピラミッド構造を示したりと「ああ、画面で笑わせるコメディなんだな、CGは安そうだけど面白いのかも」と思わせておきながら、後半ではその手の演出がサッパリ無くなってシリアス一辺倒の物語になっていて、前半のデスマーチは何だったんだろうなーと困惑させてくれます。「主人公がデスマーチに慣れた(=無事『優秀な奴隷』に育った)」とでも言いたかったのでしょうか?それならそれで、死んだ目になっても戦い続ける兵士を全編通して挿入すれば一気に面白くなるでしょうし……。後半のシリアスにしても、前半あれだけアホなギャグを入れておきながら、なんで真剣に考えられるでしょうか?前半と後半で別の映画を観ているというか、抱き合わせの二本立てみたいな印象を持ちました。これで最後は「全員が団結して、見事デスマーチを切り抜けた」だけなので、パッと見は感動ものでも、実は「仕事一つ終えただけ」で、団結というか仕事分担なんて普通の会社なら当たり前田のクラッカーですよ。結局最後まで感情移入できなかったせいか、途中でそこに気付いてしまったので、かなり白々しかったです。
 後半からイメージカットが無くなった事に関連するかもしれませんが、ついで言えばこの映画はかなり低予算で作られていると思います。ブラック会社という舞台故、オフィスシーンが増えるのは仕方ないのですが、仕事してる時はオフィス、何か深刻な話をする時はビルの屋上(天気はいつも同じ)、あと居酒屋と主人公の家という風に、とにかく場面が少ない…………。デスマーチの過程で買出しに行くコンビニすら描写されないのは、幾らなんでも深刻だと思います(「歩きながら話する」シーンすらありません)。映画を観ながら「CGとかいっぱい使って、金かかってるなあ」とか感想を抱く事は何度かありましたが、「金かかってないなあ」とか思ったのは初めてですよ。限界なのは予算ですか、それともこんなものを世に送り出した映画業界そのものですか。


 それと根本的な話。2ch発のお話で、映画も2chにスレを立てるところから始まっていますが、あのスレは常に相談等でリアルタイムに進行していた電車男と違って主人公が一方的に語ってるだけだったので、実は2chを登場させる必然性もあまりありません。ストーリーの流れだけ貰って構成を全部作り直し、2chは最後にチョロッと入れるとか、そういう風な演出でも事足りたのではないでしょうか。それをしなかったのは、やっぱりいろいろダメだったんでしょうか。