彼岸島

 一ヶ月ぐらい前に観た映画ですが、今更感想を書いてみます。


 彼岸島は元々ヤングマガジン連載の漫画で、「彼岸島」を支配する吸血鬼と人間達の争いを描くホラー漫画の皮を被ったバトル漫画のフリをしたギャグ漫画です。というのも、確かに序盤で吸血鬼の集団から逃げる辺りの描写は結構怖かったりするんですけど、この吸血鬼の戦法は大体が数で押すだけなので、主人公達戦闘力の高い人間には結構あっさりやられていますし、それに対抗して特殊な力を持った吸血鬼がどんどん投入されたりしていますので。……ここまでならただのバトル漫画でしょうが、この漫画はそこかしこのディティールが妙な方向に働いていて、結果としてギャグになっちゃっています。
 例えば、吸血鬼は刀で斬ったりしても死なず、頭を潰す等しなければならない生命力の高さが特徴なのですが、それに立ち向かう武器が「丸太」。まあ孤立した島ですし、一回ぐらいの緊急の武器としてなら丸太も分かりますが、この漫画はとにかく丸太を活用します。直接殴るだけでなく、ぶん投げたり盾にしたり、有事に際して「皆、丸太は持ったか!!」と確認したりと、丸太が万能の存在として描かれているのです。普通、丸太って大の男でも振り回すのは難しいはずなんですが、この漫画ではそんなの関係ありません。勿論丸太以外の武器も凄まじい破壊力で、主人公の刀の腕は水中でも鉄格子を切断できる程です。
 大体「孤立した島」と書きましたが、この漫画はこの手のジャンルによくある「孤立した状況」を全く描かないので、話が進むにつれてどんどん島に新しい施設が作られていき、最早島というよりはちょっとした都市ぐらいの規模になっています。物資が不足したりといった話もありませんし(物資はすべて丸太で足りますし)、吸血鬼も単なるザコキャラとしてどんどん増殖してきます。


 そんなエンターテインメント性溢れる彼岸島を実写映画にすると聞いた時、真っ先に気になったのは「丸太をどう再現するか」でした。前代未聞の丸太アクション映画になるのか、それとも日和ってホラー映画に逃げるのか……、そんなワケの分からない心配をしながら映画館に足を運びましたよ。
 結果から言いますと、丸太は脇役でした。まあ、実写で丸太を振り回すのは大変どころの騒ぎじゃないので、これは仕方ないでしょう。CGで表現するという手もあるでしょうが、丸太の質感を出すのは難しいでしょうし。人間側が全員で丸太を振り回すシュールな画は、是非劇場でやってほしかったのですが……。
 そういったコメディ部分?を抑えて、代わりに出てきたのはB級アクションのノリです。最初の方こそ吸血鬼のホラーっぽい要素を出していましたが、それも最初だけの話で、中盤からは主人公と兄の絆や、兄と吸血鬼の親玉との因縁に物語がシフトして、そこに向かうドラマがとにかく熱い。台詞一つひとつ取っても、ホラー映画ではなく一昔前の娯楽アクション映画のそれで、クサいくさいと思いつつも「問答無用で盛り上がる」構成に仕立てています。最初のホラーはなんだったんだ!?と笑いながら観ていた私も、後半になると熱い展開をかなり本気で楽しんでいました。
 B級のノリというのは演出だけじゃなく特撮面もそのようで、片腕を機械仕掛けの武器に改造した吸血鬼や、吸血鬼を更に変質させて空を飛べるようにした個体が出てきたりするのですが、これがまたショッカーの改造人間にいそうな個性を放っています。そしてラストには仮面ライダー555の映画版に出てくるようなでかいオルフェノクみたいな化け物も出てくるのですが、このCGがまた妙に安っぽく、PS2のアクションゲームのボスみたいな空気を醸し出しており、その全体的な古臭さが作品全体の雰囲気を良い方向に作っています(どこまで狙ったかは知りませんが)。


 原作を知らなくても楽しめますが、「彼岸島」のタイトルや宣伝ポスター等がホラー映画と勘違いしそうなのが弱点と言えば弱点です。しかし、「全然ホラー映画じゃないじゃんかよ(笑)」とツッコミを入れられる心の広い人にはオススメでしょう。B級アクションの伝統に則って、細かい事を考えなくても楽しめるようになっていますし、「予想と違ったけど、これはこれで良いか」ぐらいの気持ちにはなれると思います。勿論、細かい理屈を考える人等にはオススメできませんが、それは原作からしてそうなので、映画に罪はありません。


 しかし、河童の隊長はすっかり明の親友みたいなポジションに納まってるんですが、あんた雅の手下でしょ。ハゲジジイ吸血鬼の萌えキャラとか、ホントこの漫画は何を目指して描いてるんでしょうか。