宇宙ショーへようこそ

 久しぶりに映画の話をば。


 かみちゅ!大好きな私としてはベサメムーチョ作品(監督:舛成孝二、脚本:倉田英之、プロデューサー:落越友則の合同ネーム)である『宇宙ショーへようこそ』を観ないわけにはいきません。
 「修学旅行は宇宙でした」のキャッチコピーの通り、ドが付く程の田舎の小学校(全校生徒で5人だけ)の生徒達が、犬のような宇宙人を助け、そのお礼に宇宙へと連れて行ってもらうが、ちょっとした事件に巻き込まれる……という感じのお話なんですが、想像以上に面白かったです。
 そもそも「修学旅行」というのがなかなかに興味深い題材でして、これは日常である学校生活に対して、学校行事の延長でありながら「未知の世界への旅」でもあります。このお話ではそれを最大限に広げて、「大人でも楽しめる未知の世界」のような形として「宇宙」が用意されているように感じました。その上で「日常の延長」である事も忘れず、宇宙に出ても物価や貨幣価値を計算したり、お土産を悩んだりと、皆が宇宙という舞台に自分達の尺度で馴染んでいく描写が、私達が映画の世界に引き込まれていくのとシンクロして、上手い構成だと思いました。
 子供から大人まで楽しめるのが娯楽映画の基本ですが、宇宙を前にしては、誰でも子供になってしまいます。しかしテーマはあくまで「日常」であり、宇宙へ行くのも「修学旅行」です。そうやって全員を子供に戻してしまい、その上でちょっとだけ日常を飛び出すという流れは、やっぱり舛成さんと倉田さんは上手いと思いました。


 この「日常」というのは物語の中で特に強調されている気がします。そもそも宇宙人との出会いや宇宙旅行等、普通の人間にとっては大事件のはずなのに、せいぜい驚いて気絶する子がいる程度で、あくまで日常の一部として描かれています。演出的にも特に盛り上がり無く宇宙に飛び出しているので最初は拍子抜けしましたが、それも、物語のテーマとしてSFは重要ではなく、あくまで宇宙は「旅行先」でしかないからなのでしょう。5人の中にはSF好きの子もいましたが、その子も旅には付き物である「旅先でのロマンス」の方に向いていくので、殊更に「日常と旅行」というほのぼのとした方向へ物語が向かっていきます。
 そんな呑気な内容を彩るのは、自由な感性で描かれた宇宙人や宇宙船(スタッフからしかみちゅ!から続いてるところがあるので、かみちゅ!に登場した多種多様な神様や妖怪が、そのまま宇宙人になったような印象がありました)。たぶん本格的にSF考証をすると変なところもあるんでしょうが(表に出ないだけで、ちゃんとしたSF設定自体はあるみたいです)、テーマがSFじゃないので、純粋に画面の楽しさを観る事ができました。
 後半で事件に巻き込まれ、一人がさらわれる辺りからがもう一つの肝になるのでしょうが、この映画ではそれさえも「日常の延長」として解決してしまいます。平凡な小学生が宇宙で何かできるのか、という疑問には、いわゆる『のび太の宇宙開拓史』と同じ手法で、地球の重力は宇宙の他の星より大きくて、おかげで身体能力が高かったといった理由付けがされています。と言っても直接それが語られたわけではないのですが、前半でお金を得るために皆が何かしらのバイトをするシーンがあり、「地球人の子供でも普通の宇宙人と同等の力がある」と分かるようになっているので、たぶんそうなのでしょう。また、5人の中で最年少である少女が宇宙人から一目惚れされ、「一人前のレディ」として扱われる辺りは、ギャグシーンでありながら象徴的だと思います。
 あと、主人公である小山夏紀は物語に出てくるようなヒーローに憧れるというちょっと変わった女の子なのですが、他の子が子供らしい大きな、しかし日常的な夢を持っているのに対し、彼女だけは明らかに「非日常」の夢を持っています。しかし、それ故に事件に巻き込まれて日常が崩壊した時にも、一人立ち向かう事を提案し、皆を日常に引き戻します。しかし同時に「こんな時ヒーローなら助けられたのに」と、自分の無力さを思い知る事で、自分自身も日常に立ちました。そこからはヒーローとしてではなく、仲間として、お姉さんとして行動する、そこもまた印象的でした。たぶん夏紀のヒーロー像というのは、視聴者側が考える最後の「宇宙に対する非日常的憧れ」だったんじゃないかと思います。あれ以降夏紀は空気読めてない描写が減りましたし(主役なのにヨゴレ……)、私も「ああ、これはそういう映画なんだな」と確信する事ができましたし。


 なお、宇宙に付き物なのがSF設定ですが、この映画におけるSF設定は非常にあっさりとしたもので、それこそ「子供が夢描いたような宇宙世界」にまとまっています。そして宇宙人達のちょっとしたドラマ等も、「昔になんかあったんだな」程度の説明しかされません。これも恐らく、「修学旅行でそんなに細かいところまで見ない」といった、小学生的な視点を重視した結果ではないでしょうか。解説してもらったらたぶん納得するでしょうが、観る分には全く問題ありませんでしたし、物語の主体もあくまで小学生達でしたし。この辺りで「説明不足だった」とか感想を書いてる人がいましたけど、これで説明されても子供はバスの中で寝るだけだと思います。子供に対する説明は「右手に見えますのが○○でございます」程度で十分でしょう。
 小難しい理屈を抜きして、しかも説教臭さも無くして楽しめる、純粋な娯楽映画ではないでしょうか。これが興行的にイマイチというのがちょっと信じられないんですが、まあかみちゅ!も静かに評価されたタイプですから、仕方ないのかもしれませんね。かみちゅ!好きにはオススメですし、宇宙ショーを観た人はかみちゅ!も観るべきだと思います。