ゾルゲ大全集(下)

 とっくに出ている事を知らずにいたので、急いで買いに行きました。Amazonからのメールが来なければもっと遅くなっていたかも……。
 しかし、久しぶりに呼吸困難になるほど笑いました。
 ゾルゲ先生(というより、岡野哲先生ですが)のセンスは昔から大好きでして。最初に知ったのはバカゲー専科の記事とオマケ漫画ですが、文章に込められた「静かな狂気」と、絵で表現された「全力の無駄」は、私にとって非常にツボでした。元々私はモンティパイソンが好きな事に始まり、「笑いにツッコミは不要」「オチを付けるかどうかも自由」という考え方があり、何より「本当の馬鹿をやるには頭が良くないといけない」と思っていましたので、それに合致するゾルゲ先生は、まだよちよち歩きだった私の脳を大きく揺さぶりました。平たく言えば一目惚れ、ぞっこんというやつです。
 このゾルゲ大全集の場合、横綱大社長がメインになっていますが、これはかなりお若い頃に描かれた漫画ですから、知的さでいえばかなり劣ると思います。勿論かなりの知識は見て取れるのですが、バカゲー専科の記事などと比べると見劣りします。ですが、若さ故のパワーと、若者特有の「後が無い」という気持ちから来る勢いは、それを補って余りありすぎます。実際、後年の漫画には「まだネタはあるんだけど、今回はこれだけ」みたいな余裕が感じられますので、刹那的な面白さには欠けています。
 とにかく、当時のゾルゲ先生の怨念のようなものは凄まじすぎます。台詞やストーリーだけでなく、モブや効果線、構図に至るまでにパワーがこもっていて、全てが笑いに繋がっています。元々が一発ネタなので、全身から感じられる「今更収まりが付かないんだよ」という叫びもたまりません。
 横綱が社長になって日本を制覇しアメリカを制覇し、コンピュータを改心させて宇宙に飛び出すという、誰もが一度は考える「馬鹿な話」ですが、これを全力全開で実行できる人はほとんどいないんじゃないかと思います(尤も、見るからに打ち切りですが)。それを確認できただけでも十分満足ですよ。勿論、笑いという点では十分以上ですが。