私の大好きな「もえたん」へ

 もえたん、終わりました。いろいろと疲れるアニメでした。しかし、これほど観ていて気持ちの良いアニメもなかなかありません。


 原作は一応参考書ですが、あのストーリーは正直あって無きが如しなので、敢えて触れません。ただ、「お約束」「ありがち」であるのが重要なわけですが。
 アニメにするに当たってまず、前提条件として「オタク向け」「ロリ」が存在しています。このアニメは正直万人に薦められるものではありません(原作からしてそうですしね)。上記の二つの要素に付いていける人間のみが視聴するに相応しいとでも申しましょうか。なんだかんだでオタクで、ロリ属性ではありませんが嫌悪感も抱かない私にしてみれば、まず視聴範囲に入っています。
 そして、ストーリーは「お約束」が基本です。好きな男の子のために頑張る、魔法の力を持った女の子なんて、私でも思い付くような単純明快なストーリーです。アニメ版ではそこに「魔法王国の危機」も入れていますが、それだって珍しくはありません。長谷見沙貴先生の経歴を考えれば、この辺りはおジャ魔女どれみが近いかもしれませんね(どれみ好きで、ゲーム版どれみ等に関わったのが業界初期の仕事らしいです)。
 「お約束」の興味深いところは、「ある程度なら描写を飛ばしても構わない」というところではないでしょうか。例えば、「なんだかんだで主人公達が勝利するんだろう」という「お約束」の前提の下にほとんどのバトル漫画は構成されている等(途中で負けたり修行したりはしますが、最期には勝ちます)、皆が共通認識として抱えているものを利用すれば、結果や過程を飛ばす事ができるのです。
 そして、「もえたん」が生まれながらに抱えている強烈な属性として、「ネタ」があります。「ネタ」はある種免罪符のようなもので、「変な事になっても、ネタだから許してね」と言えるのです。勿論このさじ加減は間違えてはいけません。話を飛ばすのとブン投げるのは全然違います。
 それらの中から「もえたん」のアニメは生まれたんだと思います。ネタまみれで超展開なのは「皆分かって」ますから、やっちゃっても良いよね……、そんな感じで制作されたんでしょう。


 ただ、ここからがスタッフの腕の見せどころで、「どこを飛ばすか、どこに気合いを入れるか」が面白さを作ります。例えば、岩田親父が突然出てきて爆死しても、ほとんどのアニメではついていけません。これはもえたん並みの「ネタ前提アニメ」だからこそ可能なのですが、そのもえたんでも岩田親父の登場がしょぼかったら、やっぱりダメなのです。展開を飛ばすなら豪快に、かつ美しく飛ばさなければならないのです。投手が敬遠する時に全力投球するようなものでしょうか。普通に考えれば「馬鹿」「無意味」と罵られますが、それで笑いを取るのが目的ですから。
 そして、どんな時も「お約束」だけは守ります(マシンオブレスキューのごとく)。「変身シーンは見えそうで見えない」等はその典型ですが、恐ろしい事に「ネタ」さえもお約束に昇華しています。岩田親父がレギュラーだったなんて、初登場の四話には全く思いませんでした。そして「毎回出てきて死ぬ役」として、番組内で新たなお約束を作ってしまいました。あーくんとの絡みもいかにも「それっぽい」80年代以前の感動シーンを使うなど、力を入れ方を「正しく間違えて」います。
 ネタアニメには欠かせないパロディも、もえたんはあくまで「背景にさり気無く」「台詞の一部として」入れるなど、パロディに頼ってはいません。パロディはさり気無く仕込むかそれを強調して笑いを取るかの二種類がありますが(もえたんは前者、後者の例はアニメ版のハヤテのごとく!ではないでしょうか)、強調するとネタの賞味期限が早くなる傾向にありますし、話の流れがブツ切れになってしまいます。もえたんの場合はあくまで「お約束」に則り、パロディは味付けに留めていました。
 しかし、一見ネタまみれなアニメ「もえたん」ですが、ネタアニメほど骨子はしっかりとしているものです。以下、私が見た大雑把なキャラの役割を書いてみましょう。

  • いんくちゃん……主にツッコミ担当の常識人。しかしナオ君等のメインキャラに対しては妄想系の天然キャラでもある(天然だからといってボケ役ではない)。パロディはほとんど使わない
  • あーくん……ロリセンサー反応役。しかしロリ部分以外はかなりの常識人であり、いんくちゃんとの関係も良好。親父等の脇役と絡むと「不必要にカッコ良いキャラ」になる。いんくちゃん同様、実はあまりパロディ系ではない
  • すみちゃん……アホ毛でも分かるように感情の動きが激しいので、場の賑やかしができる。精神年齢はいんくちゃんより更に低そうで、バカキャラでもある。瑠璃子さんにはどういう教育を施されたのか、不条理系のパロディ担当(寝起きの台詞とか)
  • かーくん……あーくん同様にロリ属性持ち+常識人ではあるが、すみちゃんの子供っぽさから、その関係は面倒見の良い兄貴のよう。あーくんや岩田親父のような暴走はせず、呆れながらのツッコミをする。中の人の関係で熱血系パロディが若干
  • 璃子さん……やかましいすみちゃんを抑える事でアニメ内の波のバランスを保っている。それに関連して、若干腹黒な性格持ち。基本的にすみちゃんとしか絡まないので、すみちゃんのパロディに乗っかる(突っ込む)事も。すみちゃんへのツッコミという点では「日常生活版かーくん」かも
  • ありすちゃん、なーくん……ストーリーのシリアス部分に関わるので、真面目オンリー。彼女が登場するとネタ度が減る。ただあーくんへの反応は微妙でなかなか面白い(ややツンデレ?)。アイドルをやっている理由は最後まで不明だったが、特に意味は無くて「魔法少女兼アイドルの黒幕系」という瀬川おんぷへのオマージュではなかろうか
  • ダンディ……「これはネタアニメですよ」というのを第一話の初登場シーンで示した存在。見た目から何からネタなので、場面転換や場の収拾に使われる便利屋。中田譲治氏の美声もあり、多くの英文や懐かし系アニメのパロディも担当。魔法王国の国王だったわけだが、何故人間界に来ていたのかは不明。きっと、「その方がカッコ良いから」だろう
  • 警官……ダンディの謎具合とこのアニメのネタ度合いを増加させる存在。銭形警部にそっくりなのも「お約束」という奴
  • 岩田親父……「ネタそのもの」その三。作中何度も死亡し最後まで正体不明等、存在そのものが不条理で、登場するだけで笑いが取れる。ダンディ同様に突然登場するが、空回り系の暴走ネタをやるのがもっぱらの役目。あと変態。あーくんと違って外見がやばいので、犯罪的ですらある
  • 澪ちゃん……良識派ではあるが、ネタ要員としてもかなりのもの。ぱすてるインクに対する反応等、ナオ君と並んで「リアルなオタク」である。同じツッコミのいんくちゃんとの違いは天然じゃない事で、現実と常識の世界を認識している。しかしパロディも担当し、ダンディと同じく懐かし系のロボットアニメ等。最終話で二人が組むのはキャラ的に(このアニメ的にも)必然だったのだろう
  • 麗美ちゃん、里奈ちゃん……二重生活ものには欠かせない「日常の象徴」。そこそこにネタ要素を持っており、そこそこに常識人。二人のキャラ付けも見たままでこれまたお約束の、女っぽいのと男っぽいの。魔法関係には関わらなかったが、反応は見てみたかったかもしれない。これも「お約束」だから
  • ナオ君……私が澪ちゃんの項目を書くまで存在を忘れていた人物。彼との絡みなんて、「退屈な英語の授業」でしかないのだ。ラブコメをしようにも、部屋の中だけでは……(過去とか行ってたけど)。そんなわけで出番は少なく、ギャルゲー主人公のような影の薄いデザインと性格のおかげで、どういう人物なのかイマイチ掴めない。きっとそれを掴んだ時は虹原いんくが本懐を遂げた時であり、このアニメ的にそうするわけにはいかなかったのだろう

 つまり、ナオ君は初期目標にして最終目標です。完結するのは最終話以外にありえません。「お約束」ばかりで構成されているもえたんですから、「別にナオ君は登場しなくてもいんくちゃんとは普通に授業しているだろう」と思えますしね(実際、端々の授業シーンで成長を描いていました)。
 魔法王国関係の物語を動かすのはありすちゃんと、それに立ち向かういんくちゃん達が基本となっており、実はすみちゃんがいなくても話は成り立ちます。ただ、基本シリアスなありすちゃんと真面目な性格のいんくちゃんでは話があまり面白い方向に向かいませんし、他の「ネタそのもの」キャラが登場するのが唐突になってしまいます。その緩衝材としてすみちゃんが賑やかしをやっていたわけです(これはナオ君とのラブコメ面でも同じです)。
 そして、空いた時間等に全てネタを詰め込む事で、「もえたん」はやたらとカオスなアニメになりました。ダンディや岩田親父だっていなくても成り立ちますが、「視聴者がもえたんに何を期待しているか」を考えたら、これはもう登場しない方が不自然です。なお、彼らが魔法王国の関係者である必然性も、実は無かったりします。高度に発達したネタは魔法と見分けが付かない、とでも言っておきましょうか。
 そして、重要なのが「1クール」という時間です。このアニメ、1クールには丁度良い数のキャラクターと出番のバランスが施されています。メインキャラとサブキャラとネタキャラという三種類にも分ける事ができて、どこまでキャラクターのストーリーを分けるか、この辺りのさじ加減は本当に上手いと思います。それに、ネタアニメは視聴者制作者ともに息切れが早いので、1クールでスパッと終わらせるのは正解でした。
 でも、八話は別にいらなかったような……。「余った」んでしょうかね。まあ、それも「ネタ」という事で許せるぐらいの「訓練されたネタアニメ」ですから、別に良いんですが。


 まあそんなわけで、もえたんは極めて綿密な計算の元に作られたアニメです。好き嫌いがあるのはしょうがありませんが、もし嫌悪感を抱かないなら一度観てみる事をお勧めします。本心からそう思います。笑うところで思いっきり笑って、でもよく観ると細かい心理描写も描かれていてと、ただ観るだけでは物足りないアニメでした。
 あ、でも六話がまだ残っていましたね。六話が収録されたDVDは四巻でしょうから、12月までは「もえたん」は続きます。それまでは暫く、月に一度のDVDやF-ZEROファルコン伝説で過ごすとしましょうか。これだけベタ褒めしたアニメは珍しいのですが、やっぱり一番好きなのはF-ZEROなのですよ。私は。


 そういえば先日、ボンバーマンジェッターズ全巻をレンタル落ちで買いました。700円でした。もう一年ぐらいはアニメに関してお腹一杯で過ごせそうです。