迷宮小説さべだ「Triferon」016

 前回までのあらすじ、「死神」って中二病一歩手前だわ。ファンタジーだから許してちょ。


 道を究める人がいる。道を求める人がいる。そして、道を塞ぐ人もいる。
 私が剣術を学ぶ時、そう師匠から教えてもらった。私は当然道を究める人で、ナガタカもそう。道を求める人は、きっとロウタさんだ。あの人はなんとなく、この樹海に目的を求めていない。手段として樹海探索してる。
 じゃあ、道を塞ぐのは誰だろう?そんな疑問は、三階に来てなんとなく分かった気がする。


 二階のF.O.E.を退治して、三階に来た時にもやっぱりF.O.E.の気配があった。巨大なカマキリの化け物だ。今の私達ではとても歯が立たないような、硬い体を持ってる。ナガタカの言霊でも体の内側まで通りそうにない。幸い、三階はとても広くてカマキリの足も遅いから、通り過ぎるのはそう難しくなかった。ぞあすさんが言うには、カマキリは視界に入らない限りは襲ってこなくて、自分の縄張りに戻るって。だったら帰りも大丈夫だ。
 樹海の獣は、きっと「道を塞ぐ人」じゃない。ただ、そこにいるだけだ。カマキリも、縄張りにいるだけの、ただの獣。「道」は関係ない。関係あったとしても、ナガタカや私の方が先に行く。
 そして三つ目の大部屋に入った時、出口のところに浅い階層には似合わない、無骨な冒険者の二人組がいた。元々私達みたいな新生ギルドは少ないから、浅い階層に冒険者がいるの自体が珍しいんだけど、その人達は全然雰囲気が違った。
 まず、格好が違う。冒険には使いにくそうな深くて長い黒ローブをまとった人と、私ともロウタさんとも違う、あまり堅くなさそうな軽鎧を着た人、二人とも女の人だ。そして、軽鎧の長髪女性は、長く細い剣を持っていた。あれは師匠が持ってた、「刀」という切れ味に特化した剣だ。重さが無くて脆いから私はほとんど触ったことが無い。
 長髪女性は非常に鋭い目付きをしていて、黒ローブの人はほとんど表情が見えないから、どっちも怖そうだ。実際、私達を警戒してる。
「どちら様ですか?」
「それはこちらの台詞だ、お前達は何者だ」
 長髪女性の鋭い返答を、ペパラーゼは鼻で笑った。それから小声で「気の短い人は嫌だねえ」と言うと、長髪女性はますます顔を鋭くした。
「我らは勇敢なギルド『Triferon』……」
 いきなり後ろで歌い始めたフィ=Irに対し、ペパラーゼが鞭で地面を叩いて止めさせる。フィ=Irは容赦無く場を盛り上げようとするからなあ。
冒険者か。お前がリーダーか?何をしに来た」
「そう、彼女こそ誇り高きペパラー。目の前の敵と戦い、そして……」
 再び歌い始めたフィ=Irを、今度は口を縛って黙らせるペパラーゼ。一回目で鞭を使わなかったのは、長髪女性の警戒を考えてだろう。でもその我慢も限界に達したと。
「まあ、そういう事よ……です。あなた達と喧嘩するつもりはありません。長生きしたいもので」
「そうか。……執政院から連絡を受けていないか?」
「何かありましたか?」
 長髪女性は警戒を解く代わりに、ため息を付いた。呆れられてるんだな。なんだかムカッ。
「私はブシドーのレン、こちらはカースメーカーのツスクルだ」
 レンさんとツスクルさんと。ツスクルさんはちょっと頷いただけで、まだ警戒してるっぽい。
 ブシドーと言えば、師匠も聞いたことがあるだけの職業だとか。さっきの「刀」を特に上手く使う、ソードマンとは全然違う剣士なんだとか。精神修練もあるという話だから、ナガタカに近いのかも。カースメーカーの方は、私には全然分からない。ナガタカかフィ=Irなら知ってるかもしれないから、後で聞いてみよう。
 レンさんが言うには、執政院からの命令でここから先には行けないらしい。詳しくは執政院で聞けということで。
「つまり、ここで説明する気は無いと」
「その通りだ。説明したとしても、執政院でもう一度同じ話を聞くだけだ」
「……本当にダメ?」
「しつこい人間は嫌われるぞ?若き鞭使いよ」
「長話大好きなんですけどねえ……。まあ、それじゃあしょうがない」
 どうやら、てこでもナガタカの言霊でも動きそうにない。ペパラーゼは頭を抱えてから回れ右をした。私達もそれに倣う。
 たぶんペパラーゼは、無駄に長いことをするのが嫌いなんだろう。今から帰るなんて、拍子抜けもいいところだから。
「ペパラーは逃げた。勇敢に逃げた」
 フィ=Irが歌い始めたので、ペパラーゼが鞭を唸らせる。
「強敵を前に、尻尾を巻いて逃げ出した。立派に怖気づくペッパちゃん……」
 それきり、フィ=Irは黙った。もうこれで何度目だろう?どっちも懲りないなあ。
 部屋から出ようとカマキリを誘っているところで、私はふと後ろを振り返った。
 鋭い目付きのレンさん、静かに佇むツスクルさん。同じ冒険者だけど、あの二人はどこか違う雰囲気をまとっていた。そう、道を究める者でも、道を求める者でもない、第三の人間。私はそう感じた。
 いつか手合わせする時が来るかもしれない。私の道を究めるために。




 よくよく考えれば、ブラスタはナガタカとの絡みばかり考えて、元がどういうキャラだったのかあんまり分かってないなあという事で考えたこの話。レンのライバルになるかどうかは分かりませんが、剣士として意識しないわけにはいかないような、そんなキャラだと思います。ブラスタはナガタカの付き合いで樹海まで来ていますが、彼女自身にも剣の道があるので、武者修行のような感じなんだと思います。
 だから、周囲の描写もえらく少ないのですが、手抜きじゃありませんよ。カマキリを見た時には、武芸者として戦力差を冷静に考えて回避するよう案を出していたり、A・Yが広い部屋でかけ出しそうになったり、カマキリを見て「ぐるぐるを幾つも止めてる」みたいな事を言ったりしています。彼女にとって興味の対象が、今回のテーマであるレン達に偏っていて、他が削られただけです。フィ=Irが出しゃばってるのは、彼女は数少ない「友達」ですし、彼女は誰に対しても出しゃばりますから。
 ブシドーとカースメーカーがどの程度認知されているかは知りませんが、まあ一般冒険者にはブシドーなんかは噂レベルだろうという事で、こういう形になりました。たぶん耳聡いフィ=Irと文献を読み漁ってるナガタカは知っているでしょう。エトリアには彼女達以外にいるのかも、ちょっと分かりませんし、どうしましょうかと今考え中。


 30日追記。パッとネタが出てこなくなってきたので、不定期更新になります。