仮面ライダー THE NEXT

 昨日の話ですが、ちょいと無理をして観てきました。結論から言えば、あんまり面白くありませんでした。といってもかなり個人的な意見での「つまらない」ですので、一般的には十分面白いと思います。
 舞台は前作の「THE FIRST」の二年後で、生物教師として過ごす本郷猛に追手が差し向けられると同時に、全く新しい改造人間である「仮面ライダーV3」が登場するという感じで始まります。ただ、追手と言っても本郷が常に追われているというわけではなく、たまたま見かけたから裏切り者は殺すという感じですが。
 本郷は前作にしろ旧作にしろ優秀な科学者だったわけですが、今回は教師として登場します。が、これがまたかなり情けない教師でして、クラスは学級崩壊状態で教員側も教育を投げているという感じです。これがあの本郷か、と思うほど情けないのですが、どちらかと言うと本郷の情けなさを見せるというよりは、現代の教育事情を見せる事でリアリティを演出しているという感じでしょうか。ただ、あまりにも情けなさすぎるのですが……。もうちょっと描き方は無かったものでしょうか。
 一方の一文字隼人はまだ生きていたのですが、既に体はボロボロで、なかなか死ねないまま日々を繁華街で豪遊しながら過ごしています。こっちは前作そのままという感じで、良い感じに馬鹿です。なお、本郷とは確かな絆があるようですが、連絡は取っていない関係です。会えば憎まれ口を叩くという感じの。
 そして物語の中核となるのは、本郷の受け持つクラスの問題児の一人、菊間琴美とその友人である風見ちはるです。ちはるは大人気歌手Chiharuとして芸能活動を行っているのですが、彼女の歌を聞いた人間が次々と惨殺されるという怪事件が起きる、というところから始まります。
 そして「風見」という苗字から分かるように、「仮面ライダーV3」こと「風見志郎」は彼女の兄です。IT企業の若き社長なのですが、ある時社員全員が謎の失踪を遂げ、唯一生存が確認された本人は口をつぐんでいるという謎だらけの男として登場します。
 以下、ネタバレです。面倒なので隠しません。


 本郷は琴美の家を家庭訪問するものの、不良少女である彼女はそんなもの無視します。そして家を出て行ったのですが、向かう先はちはるのマンション。もうかなり長い時間連絡が取れないらしく、直接会いに行こうと決意したわけです。なお琴美は両親が離婚していて、ボロアパートに一人暮らしです。だからなのか、友人思いの人間として描かれています。その割には家族との確執は全然描かれませんでしたけど。
 そして、マンションで出会ったのは謎の怪人ショッカーライダーとチェーンソーリザード。本郷も変身して立ち向かいますが、数だけでなく単体の能力でも負けてしまいます。なんとか逃げのびますが、確実にマークされてしまいました。ちはるにまつわる謎の惨殺事件も合わせ、本郷はショッカーか何かが絡んでいると睨み、琴美を守る為に共に行動する事にしました。
 ちはると会えなかった琴美は風見志郎の別荘へと向かいます。しかし、そこで出会ったのは仮面ライダーV3としてショッカーに忠誠を誓う志郎の姿であり、裏切り者を許さない本郷に変身して襲いかかります。新しいやり方で改造されたV3に一号は歯が立たず、間一髪のところを一文字に助けられてどうにか切り抜けました。
 しかし、風見志郎自体はどうしたかと言えば、琴美が言うところの「ちはるが心配じゃないのか」「あれはちはるじゃない」等の発言にあっさり自らの意志を揺らがせます。付き合いの長かった琴美には今のちはるが何か変わっている事を勘付いており、しかし全然ちはると会っていない志郎はそれが分からなかったと、琴美の家庭環境と照らし合わせて面白い対比になっていますね。
 ただ、この時の志郎がものすごく情けないです。初登場のシーンが「ワインを楽しんでいるところだから邪魔するな」とキザったらしい奴で、本郷に対し容赦無く殴りかかるクールキャラだと思ったのに、どこの誰とも知らぬ小娘の一言だけでシスコン炸裂というのはどうかと……。後半にはショッカーとしての使命と一人の兄として役目の葛藤があるわけですが、普通ならそこが盛り上がるシーンのはずなのに、「あれだけシスコンなんだから、なんで最初の時点で裏切らないの?」と思えてしまえてなんだかなあと。しかし、最初のシスコンだけが余計だったのかと思えばそうでもなく、ラストシーンには美しい兄妹愛が描かれているわけですから、やはり話の出来がちぐはぐになっているというのが印象です。
 そんなわけで、この辺りで観賞のモチベーションが著しく下がってしまいまして。ぶっちゃけ話の内容を全部覚えていません。
 大雑把に書きますと、まず風見の会社はショッカーの改造人間作成の実験に使われたおかげで全滅しました。その改造の方法とは、ナノロボットを空気中に散布する事で人間を直接いじり、僅かに生き残った人間だけが「選ばれた人間」としてショッカーに迎えられるというもの。その実験で生き残ったのは風見と、その秘書のみ(冒頭のチェーンソーリザードです)でした。
 しかし、実はその日にはちはるも偶然会社に出入りしており、僅かながらナノロボットを体内に取り込んでいました。それによって不完全な改造人間になってしまい、同時期その活躍を妬んだ同期の歌手によって階段から突き落とされてしまいます。その際にちはるは顔面に直らない醜い傷を負ってしまい、ショックで自殺してしまいました。
 本当ならここでChiharuは終わっているのですが、どうやらChiharuの事務所の人間はその秘密を知っていたようで、また人気歌手であるChiharuをここで終わらせるわけにはいかないという事で、突き落とした同期の歌手を整形してChiharuに仕立て上げます(琴美が連絡を取れなくなった時期がこの辺りのようです)。また、突き落とされた時に電気系統に衝突しているのですが、その際にナノロボットが体から漏れている様子が確認でき、同期の歌手もまた改造人間の予備軍になっているのかもしれません。
 そして、不完全でも改造人間だったちはるは死ぬ事ができず、更に醜い姿となって地下室に放置されました。その苦しみが自らの歌とCDを辿って、部屋で聴いていた人間等の後ろに現れ、自分と同じ傷を刻んで殺していたのです。
 この辺りの核心のストーリーは結構複雑な上に具体的な説明があまりありませんので、どこまで合っているのかは自信がありません。考えるな、感じろという奴なのかもしれませんね。全体的に「仮面ライダー」の当初の路線である怪奇ホラーの雰囲気が感じられ、演出もなかなか凝っているのでかなり面白いです。この辺りは。
 そして風見志郎はどうなのかというと、ナノロボットの犠牲になったちはるを思うと、ナノロボットを日本中に散布する作戦をどうするべきかと悩むわけです。大企業の社長になっても満たされなかった自らの心が、ショッカーの改造人間になる事でようやく満たされたのですから、ショッカーにも単なる忠誠以上のものがあるわけです。
 しかし、そこは「結局自分で何一つ出来なかったから他人に頼っただけだろうか」という琴美の言葉でどうにかなってしまいます。本当この男は移ろい易いな。勝ち目の無い戦いに挑む本郷と付き合いの良い一文字の前に駆けつけた時、「良かったな、今のお前は空っぽじゃないぜ」と言う一文字もまた薄っぺらい台詞で、複雑なストーリーを作るあまり人間ドラマまで尺が行かなかったんじゃないかとすら思います。
 そして、破壊されたナノロボットの残骸から出てきたのは、今までの惨殺事件の元凶であったちはるの亡霊でした。兄を前にして「殺して」と訴えるちはるに対し、ダブルタイフーンを回転させて打ち砕くのです。この辺りは素直に感動。終わり良ければ全て良しって感じですか。
 ボロボロの体のままどこかに消えた一文字、生徒の前でうっかり改造人間の力の片鱗を見せたおかげで恐れられて教師を首になった本郷、そして忠誠を誓っていたショッカーを裏切った風見、三人の仮面ライダーはそれぞれ、当ての無い道を歩み始めるのです。終わり。


 全体として、アクションシーンは言う事無しです。ショッカーライダーのおかげで誰が誰だか分かりにくいのがアレなのですが、決め所は押さえていますし、バイクアクションやナノロボット運搬トラックを追う辺りは大盤振る舞いという感じです。
 ただ、ストーリーは上に書いた通りです。面白いのですが、風見志郎関係が甘いなあと思いました。せっかく鳴り物入りの新ライダーなのに、どうにも行動が行き当たりばったりでした。風見のキャラクター説明自体も「順を追っている」おかげで、より薄っぺらく見えてしまいます。妹が大切じゃないのかと言われればあっさり意志が揺らぎ、その後でショッカーへの心酔を示したと思ったらまたなんか言われて迷ったりと、よくそれで大企業の社長なんかやってられますな。
 それと、もう一人の主人公は琴美という感じで、本郷はその琴美を守る重要人物なのですが、おかげで一文字が「ただの便利屋」になっています。映画版ドラゴンボールベジータとかピッコロと言えば分かりやすいでしょうか。「ピンチになったらなんだかんだ言いつつ駆けつける」なんて、かなり上質のツンデレですよ。
 しかも、一文字は最初の時点で既に死にかけなのに、ラストまで死にかけのまま頑張って戦っています。本当に病人かと思えるぐらいの活躍っぷりで(途中で吐血してピンチになったりはしますが)、同じ井上敏樹脚本の作品で幾度となく死にかけた仮面ライダーギルスを彷彿とさせます。自分で言っていましたが、正に不死身の戦士です。
 ナノロボットも結構しょぼいまま終わってしまいましたし、どうせなら散布直前まで止められず、もう駄目かという時に一文字が自ら吸収してリジェクションも克服〜みたいな展開の方が、多少無茶ではありますが盛り上がったんじゃないかと思います。これはこれで不死身さがありますし。ただ、リアリティという面では欠けていますし、ナノロボットはこの作品では「悪しきもの」なのでやるわけないのですが、それだったらもうちょっと一文字さんを助けてやってよ……。死にそうなままなんてあんまりじゃけん……。


 そんなわけで、アクション映画としては十分で、ホラー路線も言う事無しです。ただ、あのシスコンは正直いただけません。どうしてあんなに突き抜けたキャラクターばっかり描くんでしょうか、井上先生は。一つの作品に二人も三人も性格歪んだ天才はいりません。正直飽きました。