世界樹の迷宮小説に到達したい「Triferon」026

 前回までのあらすじ、風邪引いたおかげで文章を全然書かなかったからリハビリついでに書いてみるんだぜ。


 俺の名はニィルダステ。何の変哲も無いアクスマンだ。なのに世間では「ソードマン」しか職業が無いから、斧使い自体が冷遇されているんだ。俺はそんな世間に反逆する為に斧を振るって、樹海を征してみせる。「アクスマンの俺が一旗上げる→斧使いが有名になる」ってえ寸法よ。
 だが、斧使いに対する世間の風は予想以上に冷たかった。どうやら樹海ではチームワークが重要みたいなんだが、そんな中ではタイマンでしか戦えない斧使いはいらないんだってさ。しょうがないから一人で潜ってみたが、浅い階層でも幾度と無く死にかけた。何とか生き残ってきたのは、俺の斧の腕と、斧にかける思いの強さの証だ。
 だが、俺が斧を究めれば究めるほど、人材募集中のギルドは「柔軟性の無い戦士はいらん」と突っぱねる。この前なんか「休養してきて、そのデカブツをスマートな剣に持ち替えてきたら考えてもいい」とまで言いやがった。ムカついたから俺のスタンスマッシュで強制的に休養させてやったら、酒場で出入り禁止を喰らった。街の警備隊曰く「街を追い出されないだけありがたいと思え」だそうだ。
 唯一の楽しみである酒を失った俺は、街外れで修行に明け暮れた。しかし、そのおかげでいろいろなものが見えてくるようにもなったがな。いつも樹海の入り口近くで座ってる子供、外れの丘で訓練してる剣士と錬金術師のガキ二人組、ブツブツ呟きながら考え事してる狩人と、その後を付いていく年がら年中幸せそうな顔の芸人女、剣の素振りをしてるようで毎回構えや振りが違う半裸の男、一日中似たような通りをグルグルしてる田舎喋り丸出しの貴族、「ギャラクシー・ソング」とかいう不条理曲を歌ってる露出狂女……。
 俺はその間、ずっと斧を振ってただけだってのに、そいつらはなんだか楽しそうだった。だが良いのさ。俺は斧使いの人権を取り戻す為に戦っているんだ。そんな馴れ合いは不要なのさ……。


 俺が酒場を追い出されて何日経ったか……、いや、いつの間にか出入り禁止を解除されて数日経った辺りだったかな。なんでも、俺をムカつかせたギルドは斧使い以外にも偏見の強い奴等だったらしく、評判を落としてどっかに行っちまったみたいだ。あれ?斧使いの俺を信用しなかったから樹海の深層でおっ死んだんだっけか?まあいいや。原因が消えたおかげで俺の罪状もチャラになった。……なんか変な話だが、まあ酒が飲めるならなんでもいい。そういうもんだろ?
 俺が例によって一日樹海に潜って、夜になって酒を飲んで、さて馬小屋で寝るかというぐらいの時間になった時、俺はとある張り紙を見つけた。そこに書いてあった「アクスマン募集」の言葉に、俺は自分の目と頭を疑って、思わず自分にヘッドバッシュしちまった。数日後に目覚めた俺は「他人に迷惑かけないなら良いが、無闇に技なんて使うもんじゃない」と施薬院のオッサンに怒られた。
 そしてまだ張り紙が残ってるのを確認してから、指定の場所と時間に酒場に行くと、どっかで見たような人間が二人やってきた。田舎貴族と芸人女の二人組だったかな。
 芸人女が言うには「確かに斧は個人プレーだが、だからこそできるチームワークもある」という事で、田舎貴族は「技は確かに一対一だけど、仲間を思いやる気持ちは別だ」と言った。芸人女はメッチャふざけた喋りで、田舎貴族は訛りまくってたけどな。
 そんなわけで紹介されたギルド「Triferon」で、「せっかくだから歓迎会をしてやるよ」という芸人女の言葉に、俺は浮かれていた。その結果が前回のアレだ。いくらなんでも脚色しすぎだって。ショックで前回のラストとキャラクターが変わっちまった。
 ……まあ冗談は置いといて、「Triferon」は新興ながら結構実力のあるギルドらしく、第一層に現れたスノードリフト一味もほとんど無傷で片付けたとかなんとか。今は第二層の中盤ぐらいまで探索してるらしく、数日前に話題になってた「飛竜のタマゴ」とか「命の泉」の話を解決したのもこの人達だってさ。俺はフォレストウルフとタイマンで勝てるかどうかがギリのラインだから、こいつは尊敬せざるをえない。むしろ、俺みたいなヤツがいて大丈夫なのか不安になった。
「その辺は大丈夫、私達がサポートするさ。あんたはあんたで全力で頑張ってもらえればいい」
 露出狂のペパラー先輩が言う。まずは実力を見たいって事か。


 初めてやってきた、第二層。やっぱ「樹海」ってこんな感じだよな。第一層はどこの野原だよと言いたくなるほど明るい場所だったからな。しかも出てくるのはグロいスライムやらハチやら。斧じゃハチには当てにくいし、スライムをブッ叩いてもあんまり効かねえし。
「……俺が来た意味無いじゃん!」
 樹海に俺の叫びが染み渡る。
「まあそういうなよニィちゃん。捨てる剣あれば拾う斧ありって言うじゃない」
 最初に俺と話した片割れであるところの芸人のフィ=Ir姐さんが、意味分かんない事言って慰めてくれた。これで天然ならまだ可愛げがあるんだけど、姐さんは間違い無く確信犯(誤用)だ。
「一撃の威力は私と同じぐらいなんだから、その辺りはほれ、私は鞭で遠くから、君は斧で近くから。するとあら不思議、生まれる美しい戦いのハーモニー」
「そういうもんですか」
「あんたに出来ない事があるのと同じぐらいには、私にだって出来ない事はある。チームワークってのはそこからやってくるもんさ」
「それに、樹海の獣は強いもの程『群れない』習性がある。単体に特化した斧は必ず力になる」
「……本当ですか?」
 ぞあす先輩は正論を言ってくれるけど、今になって不安になってきてる俺……。後ろの方にいるメディックのA・Yはどう見てもただの子供だし、別の意味での不安もやってきてるのさ(子供は好きなんだけどね)……。
 同じ「Triferon」でも、今回出てないソードマンのブラスタちゃんは斧使いの俺と手合わせしたがってたみたいだから、どうせならそっちから始めれば良かった……。実力を知る一番手っ取り早いのはそれだもんな。
 そして、スライムを思いっきりブッ叩いてその弾力に新たな快感を得そうになっていた頃に、そいつはやってきた。巨大な熊だ。
 強いもの程「群れない」習性がある……。
「ニィルダステ、覚悟しておけ」
 ぞあす先輩、いきなり本気勝負ですか……!
「あるう日、森の中〜ってか?」
 フィ=Ir姐さんが鼻歌混じりで弓を引いてるのは置いといて、皆それなりに本気だ。……ん?こういう時にバードが歌を歌わないでどうするんだ?
 俺は何か釈然としないまま、熊に突っ込んだ。動きは速いが、一対一で負けるわけにはいかない。鋭い爪の一撃をかわし、その勢いを利用して斧を叩きつけた。……効いてはいるが、決定打にはならない!続く熊の反撃、避けられない……!が、寸前で熊の腕が止まった。
「だから言ったでしょ?チームワークが大事だってさ。だが、今の動きはなかなか良い」
 ペパラー先輩の鞭が熊の両腕を縛っていた。脱出される前に、俺は再び腕に一撃入れてから間合いを離れた。
「俺の斧でも、あの熊相手には分が悪いですよ?」
「簡単に諦めるような気の短いのは嫌いだよ」
「そうそう、大事なのは諦めない事。ほら次が来たよ?」
 熊は鞭からは脱出したが、腕を痛めた感じだ。攻撃の手段を完全に封じたわけじゃないけど、今なら「鋭い爪の脅威」は無い。溜めに時間がかかるが、この隙に俺の技を使えるか……!?
「ニィルダステ!」
 ぞあす先輩の声と同時に、変てこなリズムが聞こえてきた。足音、ステップ?
 完璧なようで、崩れているようにも思える独特のリズム。そのステップは、この戦い全体のリズムすらも崩すような……、いや、崩れているんじゃない、別のリズムを作ってしまってる。……わけ分からんが、なんかこう、飛び出さずにはいられん!
 俺はぞあす先輩によって、技を「出さされた」。同じように熊も「動けなくなっていた」ようで、俺のスタンスマッシュは気持ち良いぐらいに決まった。無防備になった熊に対し、ペパラー先輩とフィ=Ir姐さんの攻撃が急所に当たり、熊は沈黙した。
 普段「きあいため」が必要なスタンスマッシュを、誰よりも速く出せた。ぞあす先輩に、俺の中のリズムが作り変えられたみたいだ。
「これがチームワークという奴だ。お前が個人で力を発揮するなら、俺がそれを引き出させる」
「…………」
「ほほう、これがアザーズステップですか。ねえねえ、後で教えてよ」
「黙れ」
 ……確かに、あの熊は俺だけでは勝てそうもないけど、俺の一撃が無かったらもっと長引いていた、たぶん。個人攻撃しかできない俺が、だ。
 て、事は、だ。今まで俺の事を「斧」という偏見だけで見ていた奴等はバカだったって事で、このギルドはそうじゃないって事だ。そう、尊敬に値するってヤツだ。……いや、俺の理想の世界から考えれば、この程度の扱いは当たり前なんだけど、それでもこうやって扱ってくれたのは生まれて初めてだったから……、ごめん、不覚にもにやけた。
「あの、大丈夫ですか?」
 俺が「解放された世界」にへらにへらとしてると、A・Yが不思議そうに見てきた。いやいやそうじゃない。さっきの戦いで怪我があったかどうか聞いてるんだ。
「いや、大丈夫。ありがとう」
「そうですか。それが一番です」
 笑顔で答えるA・Y、だがその顔がちょっとだけ残念そうに見えたのは、俺の錯覚じゃないと思う。だってほら、子供はいつの時代でも素直だ。「斧使いは人に非ず、人の姿をした猿なり」と親から教わる前の子供だけは俺を否定しなかった。だから俺は子供が好きなのさ。
 俺はA・Yの頭を優しく、しかし力強く撫でてやった。なんかくすぐったそうにしてるけど、さっきの笑顔よりずっと良い感じだぜ。
「はっはっは、ニィちゃんはロリコンの気があるようでしゅば」
 フィ=Ir姐さんが俺に茶々を入れ、俺が青筋を立てるより速く、ペパラー先輩の鞭が黙らせていた。運が良かったな姐さん。先輩がいなかったら、姐さんの頭は俺の斧で半分ぐらいの大きさになっていたかもしれないぜ。


 俺はこのギルドに感謝している。この人達は俺を否定しないし、俺の力をよく理解してくれる。このギルドのためになら、俺は戦えそうだ。帰り道、深い森に埋もれた夕日に、そう誓っておいた。
 あと、俺はロリコンではない、とも。




 子供は好きです。いつの時代も素直だからです。歳を食うと、どんどん「空気」とかいうものが増えてきて、言葉一つに幾つもの意味をこめたりしてしまいます。正直、それを読むのは疲れます。だから子供は好きです。
 そんな社会の苦労と、被差別民の持つ壮大な夢をこの男、ニィルダステは背負っているのです。嘘です。そんなに深刻な話じゃありません。ただ、「深刻と取る事もできる」キャラクターではあります。斧使いが冷遇されているなんてどう考えてもギャグなのですが、「ひょっとしたらそれで困っている人もいるかもしれない」という風に考えが広がっていくのが、私はたまらなく大好きです。
 話の解説もしておくと、前回までで「書いてないけど、話は進んでる」という事にしたのは手抜きじゃありません。ダラダラストーリーを追ってもつまんないだろうし、新キャラの目線で語る時には、旧キャラにも多少の意外性があった方が視点が安定するだろうという考えあっての事です。ええ、決して手抜きじゃありません。
 ちなみにニィルダステ君が私のプレイに登場したのは第二層のラストです。「宝とかで斧が出てきて勿体無いなあ」という単純な理由からでした。斧大好きなのに(「萌え」と言っても良い)使ってなかったんですよね、何故か。で、ちょっと話が前後するけど、このぐらいのタイミングで出した方が分かりやすいかと思ってこんな形にしたわけです。話的にも自然になりますしね。
 さて、久しぶりに長文を書いたので、なんだか変な感じです。……明日はもっと長文を書く予定なので、その練習でもあるんですがね。