ニコマス界のちょっとした不思議

 今日は、知ってる人は「もう飽きたよ」というような話題です。そういう人は読み飛ばして結構。たぶん。


 「ツンデレカルタ」というものがありました。有名声優さんに昔話を朗読してもらうCD等を発売していたキワモノ会社のDEARS(失礼。でもキワモノではあると思います)が売り出したもので、釘宮理恵さんがツンデレ的な台詞の書かれたカルタの読みを担当するというCDです。個人的には釘宮さんの真価はツンデレではないと思うのですが(あの人を「ツンデレ声優」に落としこむのは惜しいと思います)……、まあそこは置いておきます。
 何故それを話題にするか、話題になったかと申しますと、企画者や読み札の協力者が「ニコニコ動画アイマスMADを作ってる人達」、いわゆる「P」だったわけです。
 ここで幾つか疑問が沸きます。まず、「ニコマス」と「ツンデレカルタ」の間に繋がりがほとんど見られないのです。釘宮さんは確かにアイマス水瀬伊織というキャラクターを演じてはいますが、ニコマスPの活動は主に「アイドル」であって、その中の人に焦点を当てるパターンは少なめです(ラジオに出てる人達は若干話題にされますが)。仮にそういう繋がりがあったとしても、「釘宮理恵ツンデレ→カルタ→DEARSに企画を提出」のような流れは読めないというのが正直なところ(実際にこういう流れなのかは知りません。仮定です)。
 まあ、人間の思いつきは突拍子も無いものですから、繋がり自体は考えなくてもいいのかもしれません。が、ここでもう一つの疑問。何故それらを「繋げてしまった」のか。別に素人の企画書が企業を動かしたりするのは「すごい」とは思っても、珍しいものではありません。しかし、それを「一般人」としてでなく「ニコマスP」として名前を連ねるのはなんでやねん!……となってちょっとした騒ぎになりました。後の「ツンデレカルタ騒動」です。
 ここでの論点はいろいろありますが、一番大きいのは「商品として店頭に並ぶ→小さいながらも、社会に認知される→今までのMADでの著作権侵害もやばいんじゃない?」といったところでしょうか。結局黙認でしかないMADというものは、怒られたらその場で終わってしまうわけです。今回のCDがその引き金になるんじゃないかというのです。
 これは難しいようで、実は全然難しくありません。何故なら、ツンデレカルタ発売以前にニコマスを知らない業界人はいないだろうからです。実際に見たことはなくても、「ニコニコ動画でMADが盛ん」という情報ぐらいなら、クリエイターとして耳に入っていない方がおかしいのです。ニコニコ動画は何度もネットなどの記事になっていますし、各方面の業界人がニコニコ動画について、自分なりの意見を出しています。さすがに「アイマスのMAD」となると数は少なくなりますが、これもニコニコ動画の一ジャンルなので、大抵の音楽家は「自分の音楽がゲームのMADに使われてるらしい」程度の情報は知っているでしょう。
 だから、今更流通に乗った程度でどう騒げというのでしょう?それに、流通で言えば「ニコニコ市場」は流通に乗っていないというのでしょうか?「いおりんのMAマジ最高!」と叫んだおかげで、一体何枚のCDが売れたのか……はさすがに分かりませんが、アイマスMADがあったおかげで、ナムコはCDを1万枚ぐらいは余分に売ったと思います(ゲーム本体然り、DLC然り)。これはもう、立派に流通の一部でしょう。ツンデレカルタの「流通=社会的に認知」とは非常に表面的な話であり、水面下ではとっくに認知されているわけです。
 少なくとも、ナムコニコマスP達を怒れないと思います。仮に今怒って「アイマスMADを作るな」と言ったとすれば、L4Uの売り上げは大幅に落ちるでしょう(MAD作成ツールとして買う人がいっぱいいると思いますから)。予約だってキャンセルされてCDもDLCも干からびて、最終的に億単位の損失になるでしょう(改めて考えるとすごい……)。ついでに言えば、アイマスMADのおかげでビデオキャプチャ等のMAD作成ツールもかなり売れています。あと、胡麻和え。
 そうなるとナムコ以外の音楽家等はどうするかと言えば、これもそれほど問題にはしていないと思います。MADの影響で一番売れているのはナムコでしょうが、他の音声素材、映像素材だって確実に売り上げていると思います。仮に音楽を一曲丸々使ったMADがあったとしても、それでアルバムの売り上げが増えるなら文句は言いにくいと思います。アルバムのうち二、三曲程度サンプルで公開している場合は多いですし、優れたMADでは映像が付くことによって音楽の魅力も増します。それで音楽のファンになる人だっています。私も「組曲『ニコニコ動画』」に使われている音楽等、ニコニコ動画の影響で買ったCDは結構あります。この辺りについては、まあ「使いすぎない」程度であれば黙認されるのではないでしょうか(この辺りは各人の感情に拠りますがね)。
 ただ、アイマスに限らずMADでは「何の曲が使われているか分からない」という問題点があります。これはMAD制作者の良心に頼るしかありません。動画のどこか、もしくはコメントに使用素材を書くか、ニコニコ市場に関連商品を入れておくか等の工夫が必要でしょう。例えば、ニコマスPの端くれである風野シュレンP君は「リスペクト」として、ほとんどの場合動画内に使用素材を入れています。が、世間にはそうでない人もいるので、こればかりはどうにかなってほしいなあと思います。


 さて、流通については大体解決したとして、もう一つ大きな論点として「無償でMADを作ってたP達が商業活動を開始した」という話があります。これは多分に感情論なので、「許せない」という人を納得させる手段はあんまりありません。少なくとも私には。
 ただ、ニコマスP達はそれ以前にも、お互いの連絡を取り合うなどして仲良しさんばかりなので、そういう人達が集まれば「そういうこと」も起こるんじゃないかなあというのが正直なところ。「ツンデレカルタなんてあったら面白そうじゃない?」「良いねえ。じゃあ企画は俺がまとめるから、どっかの会社に持っていってみようか」みたいな会話があったかどうかは知りませんが、始まりはたぶんそんな感じだったんじゃないかと思います。ツンデレカルタに限らず、この手の「ネット上での集まりの何気ない会話」から生まれた商品は多いでしょう。それに、表では学生だったり会社員だったりとバラバラの立場なので、企画好きの人だっているでしょうし、それを実行できる力を持ってる人だっているでしょう。それだけの話です。
 結局、「MAD」という若干アングラの文化ではあるものの、ニコマスP達はただのネットコミュニティーの活動と変わりはありません。ですから、ツンデレカルタだって「暇なオタクの思いつき」以上の意味はありません。
 強いて苦言を呈するとすれば、「騒がれるだろうということは予想しておくべきだった」ぐらいでしょうか。どうもMADとはその発祥や性質のおかげか、表舞台には決して出ない裏の文化だという認識が強いので、表に名前を出すと少なからず揉めてしまうものなのです。実際は上述のように、億単位の流通を作り出しているので、十分表舞台に出ているんですけどね。


 結局、ツンデレカルタは企画者達の名前から「P」が外され、「これはニコマスPとは違う」というアピールをしてから発売しました。これが売れたかどうかはよく知りませんが(ただ、「P」のネームバリューによる影響は無いと思います)、今でもニコマス界隈は元気です。一部のPや視聴者には禍根を残したわけですが、規模が縮小したりという事はありませんでした。
 これから「MAD」がどうなるのかは分かりません。ただ、この「ツンデレカルタ騒動」を見るに、「MAD」が文化として認知されるにはもう暫くの時間がかかるでしょう。あるいは、別方面からニコニコ動画に圧力がかかって強制終了するかもしれません。そんな未来のことは分かるはずもありません。が、ニコマスP達はもう暫く元気でいるとは思います。


 最後に。私は「著作権法」を守るつもりは更々ありません。だから風野の動画だって懲りずに上げています。私は「守るべきは権利であり、法律ではない」というスタンスなので、風野が「良い」と言える動画を作っている限りは続けるつもりです。と言っても動画を上げている時点で著作権侵害には違いないのですが、最大限の敬意を忘れなければ悪いことにはならないだろうと思っています。
 これで誰か著作権保有者が被害を被ったとあれば、その限りではありませんが。動画も撤去しますし、罰金も払いましょう。


 ……JASRAC以外。




 追記、ツンデレカルタには「MADで得た知名度で金儲けするな」という意見もあったかもしれません。確かに企画を持っていく分には、ニコマスPの名前はちょっとだけ便利かもしれませんが、でも一般に対する知名度は知れたものですし(一般への知名度が無ければ、どんな企画書を持っていっても同じだと思います)、そもそもそれって「ちょっと売れてる二次創作中心の同人作家が出版社に持ち込みする」のと変わりませんよね?いえ、ツンデレカルタとPの活動には大した接点がありませんから、同人の絵描きが小説の持ち込みをするようなものでしょうか?
 そうか、「MAD」を「二次創作の同人」に、他の用語も同人業界や漫画関係に入れ替えれば分かりやすいんだ。やってることは一緒だ。……書き終わってから気づきました。