ネットの内輪

 風野から「ところでこの動画を観てくれ、こいつをどう思う?」と送られてきた、とあるMAD。と言ってもアイマスMADではなく、なのはMAD。どうやら映像をつぎはぎして台詞を字幕で入れたオリジナルストーリーの様。どうも風野の様子から察するに、その中でのキャラクターの扱いが結構ショッキングだった模様。ぶっちゃけ「なのは様」が。
 どうと言われても、MADでキャラクターをいじられるのは当たり前でしょう。自分と趣味の合わないものだってあるでしょうに。けしからんと言える立場でもありませんし、楽しんでる人は楽しんでるんだから、そこにわざわざ水を差すわけにもいかんでしょう。
 が、風野曰く「俺が『この動画のなのは』に感じた恐怖は、アイマスの『閣下』と同じなんじゃないか」との事。……つまり、二次創作における新たなキャラクター描写の話のようです。
 天海春香は最初から「閣下」だったわけではありません。普通のアイドルでした(それも、キャラクター的にも「無個性、普通の女の子」です)。それが、ラジオなどでの中の人(中村繪里子さん)の性格や、それに付随する二次創作での扱いなどを経て、「本当は腹黒いんじゃないか?」という風に認識が変わり、「閣下」と呼ばれるまでになったのです。陰口を言おうものならすぐさま「消される」し、閣下を崇めるアイドルファンならぬ「愚民」が多数存在するなど、下手な新興宗教の教祖より恐ろしいキャラクターになっています。
 が、これは本当にごく一部での世界の話。今のご時勢、アイマスをプレイした人間が「閣下」を知らないとは思いませんが、そういう誕生の経緯を知らない人間は結構いると思います。するとどうなるかと考えれば、「春香ってこんなキャラだっけ……?なんか怖い……」となるんじゃないでしょうか。つまり、引いてしまうわけです。
 結局、割と世間に認知されているアイマスニコマスでさえも、ニコニコ動画のほんの一部での話。内輪ネタでしかないのでしょう。これからも新しい技術や演出方法が生まれるとは思いますが、進めば進むほど狭い世界に行ってしまうような気もします。それで良いんだろうかと風野は心配していましたが、別にアイマスMADはMADの市民権を得るために活動しているわけじゃないんだから、どうでもいいと思うんですが。
 要は、MADはお遊びです。遊びを本気でやることはあっても、それを仕事にしたりはしない、あくまで「皆で楽しもう」という程度のものでしかありません。MADで得た編集技術がひょっとするとプロへの道に繋がる可能性は考えられなくもないですが、それは趣味を生かして食っていけるようになったというだけで、趣味と仕事をイコールにしているわけではありません。
 しかし、MADは内輪のものであるという意識は大事だと思います。アイマスを知らない人に「閣下」を見せるわけにはいきませんから、「これは知らない人にも見せられる」「これは深く読み込まないと分からない」というライン分けはしておいた方が良いでしょう。これから風野がアイマスを人に薦めるような事態になるかどうかは分かりませんが、そういう線引きはいわゆる「現実と空想を混同しない」と同じものですから。


 そして気が付いたんですが、山本正之専門でMADを作ってる風野って、別にアイマスである必然性が無いんですよね……。だって、山本先生の曲って、思いっきり山本節じゃないですか。やよいが踊ろうが春香が歌おうが、全部山本先生になりますよ。まあ本人がやりたいと言ってる以上、止めたりはしませんし、風野もそれぐらい気づいてるでしょうから。