たった一人のニコニコ動画

 アイドルマスター 千早「大きくなったら」
 如月千早さん、誕生日おめでとうございます。そして私も……。


 風野シュレンから連絡が来たのは昼過ぎだったでしょうか。風野は年中暇な大学生なので、どんな時に連絡が来ても驚きはしないのですが、「誕生日だから晩御飯をご馳走する」との事。あんたみたいな小童に飯を任せるのはちと不安というか申し訳ないというか……と思いましたが、まあくれるものは借金と病気以外なら貰う性質なので、ご相伴に預かりますよ。……って、「ご相伴」は主賓が預かるものではありませんでしたね。なんか好きなのでこの言葉をつい使ってしまいます。
 しかし、自称貧乏大学生の風野にどのようなもてなしのアイディアがあるのかと思えば、ある意味予想通りというか、完全に予想外というか、そんな感じのネタが来ました。なんと、「ハムライス」でした。御飯とハムがあればオッケーな、友情のハムライス。
 ああ、私と君は友達なんだ……、わけの分からない関係なんだけど、それでも友達なんだと思うと、もう泣きそうになりました。いえいえ、私はめでたい日には泣かない主義。今日はとってもめでたい日なので、絶対に泣きません。泣くものかよ。
 「世知辛い世の中にはピッタリだろ」とハムライスを作る風野は、現代の大学生を象徴しているようで、どこか道を外れているような、妙な哀愁を背負っていました。そして風野は、哀愁だろうと貧乏だろうと「人生こんなもんだ」と悟ってるような人間。そんな彼の作るハムライスは、なんともいえない趣がありました。
 正直、美味しくはありませんでした。当たり前です。味付けは塩と胡椒のみ、御飯とハムを油で炒めただけなんですから。でもこれで良いんです。風野がハムライスを作ってくれた、その事実が最高の味付けなんですから。……でもこうやって落ち着いて日記を書いていると、「誕生日にハムライスはねーよww」とか書きたくなりますが、そこは自重。ハムライスで喜べる人間は少ないでしょうが、分かる人には分かってくれるんじゃないでしょうか。


 そして、「アイマスの千早も今日が誕生日だったよね。だから誕生記念動画も作ってきたよ。特別ゲストとして石川も出てる」と渡されたのが、今回のMAD。うう、なんと礼を言えば良いのやら……って、なんじゃこりゃ。動画の内容は、まあ敢えて書きませんが、「大きくなったら」というタイトルで察してやってください。
 風野君、君はいつもそうだ。決して持ち上げすぎない。ある程度褒めたら、絶対後でツッコミを入れる。そうやって自分の価値観のバランスを保ってるんだ。だから君はいつも落ち着いているし、そんな君が私は好きだ。だから、今回の動画も許そうじゃないか。今日はめでたい日なんだから。でもやっぱり後で覚えておけ。わはは。


 投稿して数時間後、件の動画は私を祝福するコメントとタグで溢れていました。勿論その全てが心から祝っているわけではないのでしょうし、そもそも顔も知らない人間を祝えるものかと思ってるかもしれませんが、それでも嬉しいと思えるのは素敵だと思います。軽い気持ちで書いたたった一つのコメントが人の気分を落とす事があるのと同じように、一つひとつのコメントで嬉しくなる時もあります。
 コメントしてくれた皆さん、いえ、あの動画を観てくれた全ての人、ありがとうございました。私のこの文章を見てくれているとは思いませんが、こうやって感謝を示しておく事こそが重要だと思います。本当に、ありがとうございました。