カイケツ(裏声)、ズバァット!!

 昔、「怪傑ズバット」という特撮ヒーロー番組がありました。内容はと言いますと、「親友を殺された主人公が復讐のため、さすらいのヒーロー『怪傑ズバット』になって悪を討つ」という感じの話です。それだけ。この「怪傑ズバット」、何が面白いのかと言うと、毎回展開が同じだったことです。

  1. 悪党に一般人が襲われる
  2. 突然早川健ズバットの中の人。敵にはズバットとは知られてない)が現れて助ける
  3. 悪党には必ず用心棒がいて、怪しげな特技で『日本一の○○使い』を名乗る
  4. 早川「日本じゃ二番目だ」用心棒「何、俺の他に日本一がいるというのか!?」「チッチッチッ……(とやりながら自分を指差す早川)」
  5. 大道芸すら飛び越えて、超能力の世界に達している特技対決。毎回早川が勝って、悪党は一旦退散
  6. その後、悪党は本格的に悪事を開始、一般人が捕らわれたり犠牲になったりする
  7. 早川、颯爽と登場して悪を挫こうとするも、いろいろと卑怯な悪党に苦戦したりする(この場面は無い場合も多いかもしれません)
  8. 突然早川が消え、さすらいのヒーロー「怪傑ズバット」参上。強化スーツに身を包んだ早川に勝てる敵はいない。用心棒もここで倒される
  9. 悪党の親玉が捕まる。「飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?貴様だなぁ!!?」と尋問するも、アテが外れる
  10. 「この者、極悪殺人犯人」といったカードと共に悪党を縛り上げて、警察に任せるズバット。町は平和になる

 大体、テンプレはこんな感じです。これが全部で32話。第一話や最終話、前後編などの特殊なパターンはありましたが、30回も同じ話が続いたのです。
 ハッキリ言って、お話的には面白いとかつまらないとか、そういう次元で語ること自体がおかしい物語です。にもかかわらず怪傑ズバットは名作として認知されている場合があります。その理由は、主に「早川を演じた宮内洋のキザったらしいヒーロー像」「用心棒のアホみたいな特技。『皿投げ』を得意とするコック伊魔平や『尺八ボウガン』の名手虚無僧三郎太とか、そもそも意味が分からないものもいっぱい」の二つにあると思います。
 が、私は怪傑ズバットをもっと根本的な部分で面白いと感じています。それは、「ヒーロー番組とはかくあるべき」という理想です。理想を追い求め、ヒーローに必要な要素を詰め込み、それ以外を極限までシェイプアップした、「ヒーロー番組的な何か」という凝縮感こそが魅力的だと思うのです。
 例えば、悪の組織「ダッカー」は確かに悪事をしているのですが、目的がさっぱり見えてきません。世界征服なのか社会への復讐なのか、そういう目的を全く語らずに「悪党だから悪事をする、悪事こそが目的」とでも言わんばかりの極悪っぷりです。この説明でどれぐらいの人が分かるのか疑問ですが、私にもよく分かっていないので心配はいりません。
 また、行く先々で悪を挫く早川ですが、襲われた一般人の後日談やフォロー等がほとんど無い話が多々あります。「ヒーローが活躍する」という目的の前には大団円すら邪魔なのです。ズバットもどうやって登場するのか、毎回次元を飛び越えた参上の仕方ばかり見せています。それで良いのです。「ヒーロー」なんですから。ヒーローは勝って当たり前。活躍して当たり前です。
 結果、「ツッコミどころ満載なのに、何故か魅力的」なのです。大笑いせずには見られないのに、ふと気がつくとズバットを純粋な目で見ている自分がどこかにいるのです。やっぱりヒーローってこうじゃなきゃ!という要素がこれでもかと入っているのですから、問答無用で面白いのです。ええ。


 で、ここまでが前書き。
 私、本日ニコニコ動画のアニメチャンネルで始まった「ペンギン娘はぁと」を観たのです。そしたら、上記のズバットを思い出しました。要するに、これはそういうアニメなんです。「萌えアニメ」のなんたるかをこれでもかと突っ込んだ、内容なんて糞ほどにも無いアニメなんです。
 でも私、これを面白いとは思えませんでした。何故かって、「萌えアニメ」って意外と中身あるんですよ。でもこれには中身が無い。それがなんだかなあーって。
 例えば、「巨乳の女の子が好き」だったとします。そしてアニメの中に巨乳の女の子が出てこれば当然興味が湧くわけですが、巨乳の女の子がどう動くかによって巨乳の価値は大きく変わります。
 例えば「歩くたびに胸が揺れる」というのは、一見巨乳好きのツボを突いた演出のように思えますが、これは「馬鹿っぽい」と冷める要因でもあります。ただ揺れるにしても、「たゆん」と揺れるか「ボイン」と揺れるかで意味は違ってきますし、その女の子が大人しいか活発かでも「揺れどころ」が変わってきます(アクションシーンは格好の「揺らせどころ」ですからね)。そもそも、巨乳をコンプレックスとしている女の子というのも需要がありまして……等と、胸一つ取っても、幾らでも語ることができるのです。萌えアニメとは、意外と複雑な計算が必要なのです。
 第一、萌えアニメと同列に語られることの多いギャルゲーやエロゲーにしたって、イベントCGは重要な箇所ではあるものの、ほとんどのプレイヤーはテキスト、つまりストーリーに惹かれます。メインとなるストーリーがしっかり作られているからこそ、ちょっとしたサービスカット等の効果も増すのは当然の事でしょう。
 ペンギン娘はそういった事情を無視して作られていると思います。元々の原作からして、そのページだけチャンピオンを破り捨てたくなるような内容の無さだったので、アニメが悪いとは一概に言えないのですが……。百合だとか萌えだとか、ストーリーに絡むからこそ面白いのに、それそのものでストーリーを構築するには相当の技術が無ければ無理だと思います……。
 「(萌え)要素」だけでお話は作れません。それに、好き放題パンチラとかしていますが、パンチラは少ないからこそありがたみがあるのです。そんなに連発されると下品なだけです。尤も、「もえたん」ばりの馬鹿馬鹿しい絵コンテがあれば連発しても良いのですが。あれは「萌えアニメの皮を被ったネタアニメ」ですから。
 これがもう一つ問題なのは、これが「ニコニコ動画」の中で放映されているという事。ニコニコ動画は言うまでもなく、「ツッコミがいのある動画」が尊重される傾向にあります。が、ペンギン娘は突っ込む前に話が面白くないのです。ズバットの面白さは「珍妙な用心棒」とか「本人達は大真面目な演技」とかにあるのですが、それほどのポテンシャルがあるわけでもありません。こんなのが第一弾っていうのは、正直なめられているように思えます。


 まあ、私は萌えアニメがあんまり好きではないので、その筋の人にはちゃんと面白いのかもしれません(萌えアニメ好きにとっては、私にとってのズバットぐらいに面白いのかも)。だからあんまり文句を言うのもどうかなーと思っていたのですが、それでもこの文章は書かせていただきました。それは、書かないと腹の虫が収まらないとかいう理由ではありません。たった一つのシンプルな理由です。
 「旧型スクール水着を描いてるつもりだろうけど、それは旧旧スクール水着(いわゆる初期型。スカートが後ろまである、現実では相当の珍品)だよ!」
 これだけ。これを間違えるのは、萌えアニメとして失格だと思います。かといってネタアニメとしても力不足の二級品です。コンテも演出も平凡ですし、声優さんは頑張ってはいますが、脚本もなー……。MADを作っても良いそうですが、そんなに貴重な素材があるわけでもありませんし……、とにかくヘナヘナ。
 ああ、川口敬一郎監督帰ってきてください。長谷見沙貴先生も、もう一度、もえたんを……。




 今気づいた。もえたんズバットってジャンルは違えど、本質は一緒じゃね?