いのちの食べかた

 観てきました。……ていうかこれ、映画か?


 内容はと言いますと、農園や工場等で、動物や植物が食料に変わっていく過程を映したものです。それだけです。本当にそれだけです。BGMも解説もストーリーも欠片もありません。よく「ありのままを表現した」という言葉がありますが、この映画ほど「ありのまま」に映しているのは無いでしょう。
 この映画を面白いとするかは、観る人の感性に訴えるしかありません。「演出」すら無く、全く自己主張せずに淡々と工場で牛がギュウギュウ詰めになっていたり小鳥がボテボテ落ちていったりといった映像を見せられるだけなのですから、つまらなくてもしょうがない、「面白くてもしょうがない」。
 ちなみに私は、100点満点中70点ぐらいの面白さでした。それ以上の感想は書きません。何故なら、「感想を書く」という行為は読む人への「印象操作」でもあり、それはこの映画の理念に背くと思われるからです。


 どこだったか、「よつばと!」のあずまきよひこ先生がこの映画を評価していたのですが、その理由が分かりました。「いのちの食べかた」と「よつばと!」は本質的に同じものです。よつばと!は「ありのままの日常を淡々と描く」のが特徴でして、実は全然面白くありません。それでもよつばと!を面白いと思う人は、「よつば」を始めとした人物であったり、「子供を中心とした日常」を「面白い」と感じているだけです(誤解の無いように書きますが、私はよつばと!が大好きです)。
 あずま先生が何を思ってよつばと!を描いているのかは知りませんが、例えば「教育」はテーマではないと思います。よつばはエピソードごとにちょっとした成長があったりしますが、それは「成長」や「子育て」をテーマにしているのではなく、「ありのままの日常」を描く過程でよつばが勝手に成長しているだけでしょう。
 この「いのちの食べかた」も同じです。淡々と「食料が作られる過程」を見せて、人がどういう感想を持つかはそれぞれです。「人間はなんて残酷なんだ」と思うかもしれませんし、「食料になるまで思ったより時間がかかるんだなあ」と思うかもしれませんし、「1600円(映画代)損した」と思うかもしれません。全部かもしれませんし、眠かったら途中で寝るかもしれません。そして、それで良いと制作者が判断したのです。「いのちの食べかた」とは、そういうものであろうと。この映画は啓蒙を目的としてはいません。
 普段食べている食料に対し、敬意を払う人もいるでしょうし、「自分が生きられればどうでもいいよ」と思う人だっているのは当然です。この映画はそういう人達に対して何かを言うわけではなく、ただ「こういうのもあるんだよ」と示すだけです。せいぜい、普段食べているものをちょっとだけ深く考えてくれ、というぐらいのメッセージしかありません。そういった潔さが実に興味深く映りました。


 結局「感想」を書いてしまいました。私は潔くないなあ。