突発!世界樹のなんか001話

 Triferonって知ってるかい!むかしエトリアでイキに暴れまわってたっていうぜ。いまも世ン中あれほうだい。ボヤボヤしてるとうしろからバッサリだ。どっちも!どっちも!どっちもどっちも!


「……てな語りの後に派手なロックが入るって感じなんだけど」
「……何が」
「新曲」
 勝手にして。


 気ままに好き放題生きてきた私が、成り行きでギルドを結成してどれくらい経っただろうか。リーダーっぽい仕事もしたし、最前線で戦い続けた。アホなメンバーとの付き合いもそれなりに楽しかった。
 そうやっていつまでも続けば良い、いつまでも長く続けてやると思っていた「世界樹の迷宮」の探索は、いつの間にか終わってしまった。到達した者がいない、なんて大層な肩書きの迷宮も、なんてことはない、ただ「長い」だけだった。
 無限の人生があったら生きてみたい、昔はそう思っていたのに、今はちいともそんな気になれない。最後の方にいたあのタコのせいだ。あいつのせいで、私は人間であることに満足してしまった。私の信念の到達点が如何に空しいか、思い知らされた。
 「世界樹の迷宮」を制覇したギルドとしてエトリアの街では持て囃されたけど、そんなのもどうでもよくなってしまった。あの街では、私達の「偉業」は永遠に語り継がれるんだろうけど、だから何?肉体はそのうち腐って消えちまうさね。
 気がつけば、私はまた旅に出ていた。永遠を求めない、しかし永遠に続くであろう、矛盾した旅に。どうせあの街でやることは無いし、他のメンバーに付き合う必要も無かった。というより、私はあのギルド内では少々浮いていたと思う。必要な人材だったとは自負してるけど、人間関係という点では孤独を抱えていたのよ。
 で、だ。ここまでは良いさ。
「じゃあこんなのはどう?『フロースガルの活躍した頃、海を渡ってきた奇怪な冒険者の群れが、諸王の聖杯を求めて各地を襲撃した。世界制覇を狙うTriferonの仕業である。強烈なエネルギーの製法を秘めた諸王の聖杯三つ。ハイ・ラガードの平和を願う公女は、Triferonの野望を粉砕すべく、エトリアの国から仮面のダークハンターを呼んだ。その名は……ペパラーゼ参上!』」
 横でワケの分からん文句を考えているバカ女、フィール。なんでこいつが付いてきたんだ?
 いや、こいつをバカ女と呼ぶのは失礼だ。知識だけではない、機転も回るし芸術のセンスも確実にある、いわゆる天才だ。しかも努力家でもある。ただ、その高い能力を自分の快楽にしか使わんのが……、ある意味、その辺が「天才」っぽいが。本人が「一番楽しい」というバードをやってるが、戦士でも錬金術師でも大成できると思うよ。アホめ。
「他にもあるよー。『あなたドリル頭のペパラーゼを知ってますか。田舎貴族のロウタを知ってますか。死神A・Yを知ってますか。フィ=Irを知ってますか。眼鏡の錬金術師ナガタカを知ってますか。呪い屋ななを知ってますか。あなた、「Triferon」を知ってますか』……ちょっと人選が適当だなー」
 最早突っ込む気力も無い。人通りの少ない街道で、やたらとノリは良いけど意味の分からない語りが流れてゆく。
 いつもならその五月蝿い口を鞭で縛って、そのまま足と腕も縛って街道に放置するところなんだろうけど、今日は敢えてそうしなかった。何故なら、今の私には旅の目的地が無い。それに比べ、どこから仕入れたのか分からない知識を持ってるフィールの存在は結構ありがたい。「気の向くまま」という点でも、こいつは優秀だ。
 そのうちの一つが、今回の目的地。さっきの語りの中にも出てきたが、「ハイ・ラガード」なる公国に面白いものが幾つかあるらしい。曰く、「天まで伸びる巨大な樹木」であるとか「呪術をベースに治療術と剣術を身につけた戦士」であるとか、「弓矢も錬金術も使わずに遠くの目標を撃つ道具」であるとか。自分の身の回り以外には大して興味の無い私でも、一見の価値アリだと思えたので、観光気分で行ってみようという事になったのだ。
 そして旅立った初日に、「傍目にはボケのツッコミの漫才コンビだよねー。女二人の珍道中!って感じ」等とのたまったフィールをいつもの癖で全身縛り倒した以外には平和な日々が続いていたものである。こいつと旅をしていると飽きないのは事実だしね。
「『樹海、それは人類に残された最後の開拓地である。そこには、人類の想像を絶する……』」
「ところで、さ」
 まだ昼なのに、夜が明けるまでのマシンガントークに入りそうだったフィールを止めて尋ねる私。
「Triferonの看板、私が持ってきて良かったのかな?」
 「エトリアの世界樹の迷宮が踏破された」という噂はどこに行っても耳にする。当然ギルド「Triferon」の名前も、である。一応リーダーのようなポジションにいたとはいえ、ただの女一人にその権利を持たせてしまって良いもんかね。
「良いんでねーの?あいつら全員どうでもよさそうだったし。……むしろ、そういった面倒ごとを避けるためにアンタに押し付けたと見たね小生は」
 ははあ、なるほどね。確かにそうだ。設立者のロウタ君は元々名誉を求めてなかったし、他の奴らもそれぞれ勝手に目標を持ってただけだった。
「……じゃあ、なんで私なんだ?」
「そりゃお前さん、決まってるじゃねえか。お前さんが一番迷宮に意識を向けてたからだあね」
「どういう事?」
「他の奴らは『自分の目標』が別にあった。武者修行とか、そういうのに世界樹の迷宮を使ってるだけだった。私なんか、単なる暇つぶしみたいなもんだったし。でもあんたは違う。世界樹の迷宮に潜る行為そのものに意味を求めてた。違うか?」
 ああ……、そうか。そうだね。無限に続く迷宮に魅力を感じてたのは、私だけだったかもねえ。あと一人、あの子も近いものはあったけど、幾らなんでもあの子には看板任せられんし、となると私か。なるほど。
「ああ、私は楽しんでたんだな」
「そうだよ。そんな『楽しそうなあんた』が、何もかも終わって呆けた顔してりゃ、仲間としてはくっ付いて華を添えてやるってもんさね」
「余計なお世話よ」
 ここで初めて、この女が私のために付いてきたという事に気づいた。……なんだいそりゃ、嬉しいじゃないの。口をついて出た言葉は正反対だったけど、思いは伝わるだろう。付き合いも長く、頭の良い相方だから。
「ほほお、ツンデレですか。いや良いねえ、ドリルでボンテージでツンデレって、なかなか高度な技を身に付けたじゃないの」
 ……やっぱり縛っておくべきだったか。いや、ハイ・ラガードに着いたら件の呪術師の実験台にくれてやろう。





 突発的に始めてみました。前回の打ち切りから続いてますが、だからどうというわけでもありません。
 日記を書くのを素で忘れてしまった時に思いついたので、穴埋め連載って事で。連載期間は、飽きるまで。