011話

 このスタイルの日記だと長文は読みにくいので、デザインをマイナーチェンジしました。
 そして同時に、駄文なんだから格納しようと思いました。読みたい方のみ「続きを読む」をクリックしやがってください。
 冒険者である私達に比べ、一般人の、それも少女であるシトト嬢(名前を知らないので勝手にこう呼ばせてもらおう)は歩幅が小さい。私達は意識的にゆっくり歩く事になり、「お腹が減ったなあ……」などと漠然を思わざるをえない状況になっていた。
 シトト嬢は私のそんなボケボケな感情は露知らず、私に興味深げに質問を浴びせてくる。
「ペパラーゼさんは、この街に来たのはつい最近なんですよね?」
「そーだよ」
「じゃあ、この街に来るまではどこにいたんですか?」
 Triferonの名前は出したのに、シトト嬢はそのご活躍まではご存知無いようだ。しょうがない、私が教えてあげましょう。
「エトリアにいたよー。あそこは暴れ野牛のタタキがすっごく美味しいんだー。森林ガエルの丸焼きもゲテモノっぽいんだけど、とにかくいっぱい獲れるから癖になっちゃってねー」
「へー、エトリアからいらっしゃったんですか……、え?エトリア!?」
 後半は華麗にスルーされた。まあいいんだけど。どうせこっちじゃ食べられないだろうし。
「エトリアって、確かここと一緒で、世界樹の迷宮がある街ですよね?」
「そうだよー。名産品は首狩りウサギの干し首。魔よけになるって専らの評判で……」
「エトリアの樹海は制覇されたって、本当なんですか?」
「そうだよー。こっちと違って、どんどん地下に潜っていくんだけどね。26階の、メタルシザースのダシで食べた鍋は美味しかったなー。あれが舌の中で微妙にピリッと来るのが良いんだー。でもあれってよく考えれば、倒す時の電撃が残ってただけなんだよね」
「姐さん姐さん、話がずれてます」
 分かってるよ。外の空気を吸ったら急に腹が減ってきたんだからしょうがないよ。
「ひょっとして、エトリアの樹海を制覇したのは、ペパラーゼさん達なんですか?」
「うん。……Triferonの名前は一緒だったから、知ってるかと思ったんだけど」
「あ、それは……申し訳ありません」
 何を謝る必要があるのかね。
「Triferonのお名前とご活躍は知っていたんですが、ここ二、三日で五つぐらい『Triferon』の人達がいらっしゃったものですから……、誰が本物か分からなくなっちゃってて……」
 適当に言葉を濁しているが……、シトト嬢の表情が迷惑そうになっているのを私は見逃さなかった。私達の名前を出して、シトト嬢が不機嫌になるとなると……。
 ……つまりあれか。看板娘をナンパする手段として、騙りがいっぱい現れたという事か。武勇伝は聴きたいが、本物かどうか分からないシトト嬢は、とりあえず建前を用意して真贋を見極めようとしたわけだ。あるいは、私は聞かれるまで名乗らなかったから安全だとでも思ったのだろうか。
 さて、さっきまでの与太話で本物だと信じてくれただろうか。尤も。信じてもらわなくても別に困らないが……。
「カンタール」
「はい」
「あんたはもう、昔の仲間集めなくてもいいや。その代わり、私達の名前を騙るアホ共を適当に脅しちゃって」
「了解ッス!」
 我ながら、ヤクザっぽい。しかし、ナンパの手段にまでギルド名を使われたらたまったもんではない。シトト嬢は幾分か警戒心も強いようだが、これから世話になる間柄でもある事だし、適当に不穏分子を屠っておこう。
「ところで、あなたは毎日店にいるの?」
「?はい……」
「今度、Triferonを名乗ったヤツがいたら、私に教えて。ひょっとしたら、昔の仲間かもしれないから」
「昔の仲間って言いますと……エトリアで一緒に冒険した人達ですか?」
「うん、あと十人ぐらいいたかな」
 ……あれ?何人いたっけ?私とフィールとカンタールは別として……田舎貴族と呪い女、眼鏡少年と暴走女、アメリカンブシドーにナンパアクスマン、芸術家とその嫁、んで死神……、九人か。ん?ナンパアクスマン?
「ねえ、Triferonを名乗ってたヤツらの中に、『アクスマン』とか名乗ってたヤツいなかった?ソードマンの癖に」
 いたら、私はそいつを張り倒さなければならない。
「アクスマン……あ、いました!青っぽい髪で、すごく大きい斧を背負ってて……。名前は言ってませんでしたが、Triferonを知ってるかとかなんとか……」
 ……張り倒すかー。
「もしそいつがもう一回店に来たら、絶対近づかないで。変なヤツだから」
「は、はい……」


 彼の事を少々語ろう。
 ニィルダステ。それが彼の名だ。斧と美少女と美女と美熟女と美幼女と美老女に目が無い事を除けば、ヤツは頼りになる。パワーもあるし持久力にも優れ、人間関係にも気を使える。事実、あの田舎貴族は頼りにしていたし、私もかなりの信頼を置いていた。
 だが、女どころか雌であれば見境の無いあの性格だけはどうにかならなかったのだろうか。私は信仰心が希薄だが、こればっかりは神を恨みたくなる。ていうか、そこまで女に見境が無いのに、何故斧にも同じぐらいの偏愛を捧げる事ができるのかも不可解だ。
 尤も、見境が無いとは言ってもそれなりの美学は持っているらしく、例えば私達のギルドの人間関係を壊すような行為は一切しなかった。特に某芸術家の嫁には全く手を付けていない。その代わり、私が言い寄られたりしたわけだが……。
 カンタールと違うところは、カンタールが単なる「いい男はいい女を囲うべきだ」といったチンピラ然とした性格だったのに対し、ニィルダステは「仮に変態だとしても、変態という名の紳士」であることだろうか。限度と境界をわきまえており、そのギリギリまでは容赦なく迫る。にもかかわらず妙なところで紳士的。その落差に女はコロッと……いったりはしないが、それなりの信頼を置けてしまう。
 そういう意味では悪い男ではないのだが、お友達にはなりたくないタイプだ。守備範囲広すぎだし。尤も、これは私が女だからかもしれないが……。男連中からは普通に「戦いでも話し合いでも頼れる男」として通っていたし、事実、今彼の事を聞いたカンタールはちょっとだけ嬉しそうに見える。
 できれば、酒場で会いませんように……。


「されこれよりこの場をお借りして、皆様方につらつらと、愚痴などこぼしてみようかと。さあ聴いてくださいな〜♪」
 酒場に着くと、やはりフィールが出来上がっていた。ま、「出来上がる」といっても、こいつは素面でハイテンションになれるタイプなんだが。ギャラリーは皆顔が真っ赤になってるのに、あいつはいつも通りの透き通るような白い肌だ。正直羨ましいぐらいだっつーの。
 酒場はフィールの弾き語りで大盛り上がりをしているのが半分ぐらいで、残り半分は喧騒を余所にしっとりと飲んでいる。さて、どっちに参加するべきか……。とりあえずニィルダステの姿を探すが、それっぽいのはいないようだ。良かったよかった。
 シトト嬢は表情から察するに、私の武勇伝を聞きたそうである。こちらとしては軽い反省会をしたかったんだが……まあフィールはいなくてもできるか。
「おう、ようやく来たかお前ら。ん?嬢ちゃんも一緒か」
 おっちゃんは飲んでいないようで、しっとり派を集めてゆっくりと酒を用意している。豪快な性格だとばかり思っていたが、落ち着いた渋さもあるのかと思うとちょこっとときめいちゃいますよ。
「うん、昔の話が聞きたいんだってさ。食事は……よく分かんないから適当に作って」
「良いのか?俺が適当に作ると、核熱使いのアルケミストが腰を抜かすぞ?」
「むしろ大歓迎。ほら、よく言うじゃない。『酒場のオッサンに勝てない程度で樹海に勝てると思うな』って」
「はは、違いねえ。それじゃあ遠慮なく、俺の新料理の実験台になってもらおう」
 とか言いつつ、一旦奥の方に消えていった。まああのおっちゃんの事なので、冗談を言いながらも真面目に作ってくれるだろう。仮にゲテモノが出てきたところで、樹海のサバイバル生活で鍛えた私の胃は負ける気がしないし、仮に負けそうになったらカンタールとかフィールにキラーパスをするだけの事だ。
 そんなやり取りの間、シトト嬢が座ると、周囲でゆっくり飲んでいた冒険者がそれとなく、警戒歩行で近づいていた。それにヤルディム君が威嚇射撃(のフリ)で対抗している。うーん、水面下の戦い。この流れだと、私達の武勇伝は周りの冒険者にも聞こえる事になってしまうが……、まあいいか。どうせ隠すことでもないし。
 そういえば、ヤルディム君にはまだまともに話していなかった。せっかくだから、今までの経緯を公開してしまうのもいいかもしれない。そういうのには、語りが得意そうなヤツが一人いるんだけど、今ヤツはあっちの方で脚光を浴びてるんだからしょうがない。
『後は〜、野となれ〜山と〜なれ〜♪』
 どれだけ盛り上がってるんだあっちは。まあ、こっちのギャラリーが減ってくれるのはありがたい。人が多いとロクな事にならないからな。
「私は、最初は一人であの街に来たんだけど……」


 昔話なんてどうでもいいじゃん、と思うのは私だけでしょうか。昔話は「ある」という事実こそが重要で、その内容そのものは語らなくてもお話は成立するというか、そういう「前提」を書いている暇があったら「前提を踏まえたキャラクター作り」を心がけるべきというか。
 そんなわけで、ペパラーゼさんの昔話は端折ります。最初の方だけ書いていたというのは内緒。