唐突にレビューを考える

 朝廷の話でアレなんですけど、44収録の曲、どっかで聴いた事があるなあと思っていたら、闘士ゴーディアンの劇伴に同じメロディがありました。ちょっと感動。


 アマゾンのカスタマーレビューをなんとなく眺めていたんですけど、その中にちょっと引っかかるものがありました。シングル「涙のカレーライス」の「想い出のオムライス」について、

これは後「桃の花」というCDでこれの怒り増幅バージョン「怒りのオムライス」を歌っています。聞き比べても面白いと思います。

 はて、そんな曲あったかなあと桃の花を引っ張り出しても、やっぱり無い。でも全くのデタラメは書くまいといろいろ調べてみたところ、どうやらアルバム発売当時、「桃の花」というタイトルのライブがあり、そのライブのテーマは「桃の花の収録曲を全部歌う」だったみたいで。で、それとは別に「怒りのオムライス」も歌ったので、その辺りから誤解が発生したのかなあという感じです。
 私はライブはあんまり知らない(行かない)ので、この話は初めて知ったわけですが、まあそんな事はどうでもよくて、レビューっていうのは難しいなあと思った次第です。今回の例のように、「知らなくてもお話は書ける」のです。本人の意思なぞ関係無く、あっさり人を騙す事もできるのです。


 なんでこの話から今回の本題に入るのか自分でもよく分からないんですが(たぶんアマゾンのカスタマーレビューが今回の件とは別に腹立たしかったからじゃないかと……)、これから思いつきで「いろんなレビュー」を書いてみようかなあと思います。お題は、とりあえず一番好きな「マサユキ天国」で。

感性に任せて書いたレビュー:ものすごく詳細に書いてみた

 コミックソングタイムボカンシリーズ等で有名な山本正之さんの8枚目のオリジナルアルバムです。山本さんのオリジナル曲はシリーズとなっている曲も多いので、知らない人には分かりにくい内容になっている事もあるのですが、この「マサユキ天国」は原点回帰とも言える構成になっており、初めて聴く人でも入り込みやすくなっています。
 一曲目は、タイムボカンシリーズ第三作主題歌「ゼンダマンの歌」のパロディ「日本ジンダマンの歌」で、アニメを知っている人なら思わず笑ってしまうようなフレーズが織り込まれています。続く「平安女流絵巻」「アフリカ大陸美少女紀行」はアルバムでは定番となっている「歴史シリーズ」「美少女シリーズ」の一曲で、一見はふざけた曲調のようですが歌詞に書かれたテーマは非常に深く、歴史と人生の輪廻や世界に生きる美少女の心情が思い浮かぶようになっています。
 これら三曲の後に続くのは、「短編シリーズ」の「がんばれこだま号」。なんと、僅か27秒です。新幹線ののぞみ号やひかり号が停まらない三河安城駅と「名古屋飛ばし」を歌った曲で、三河出身の山本さんならではの曲です。短い中でもしっかりとテーマは書かれていますし、アルバムの中休みとしても使われています。
 短編を挟んだ次の曲は、定番曲とはうって変わった「みちくさ髑髏」。戦争で指を失ったおじさんが怪しげな文句で粘土を売るカタ屋さんの曲です。高度成長気前の、昭和30年代によく見られた光景ですね(その頃には私は生まれていませんが)。山本さんの実体験を基にしているのか、この次のアルバム「桃の花」では、このおじさんが戦争に行った時の話を歌った「月光大脱走」という曲も収録されています。
 実体験という点では、次の「卒業すぎて」は高校卒業後に憧れだったお姉さんと再会するラブソングなのですが、このお姉さんにはモデルとなった女性がいるようです。そして、山本さんの数々のラブソングのモチーフともなっているようで、直接的に愛を語らず、静かに思い返すような曲が多い中で、珍しく女性に直面して驚く様が新鮮です。また、このアルバムは96年の発売なのですが、「卒業すぎて」が作曲されたのは76年、まだデビュー間も無い頃の曲である事もあり、原点回帰のイメージを強くしています。
 そうやって和やかな気分になったところで「落とす」のが山本正之でもあり、「イケイケ池袋」は全く雰囲気が変わっています。その名の通り池袋の曲で、「(電車)線で行ける街だよイケイケ池袋」と脱力のフレーズが繰り返されます。しかし、「がんばれこだま号」と同じように、ローカルな地名を歌った曲は山本さんの得意とするところであり、かなり細かい地名や店まで網羅しているので、(当時の)池袋を知っている人ならば感心してしまうのではないでしょうか。
 続く「雪が降るから」は、「旅」と「家族の繋がり」を雪で結んだ曲です。山本さんは旅愁を綴った曲が多いのですが、それは必ずしも悲壮感だけではなく、何かしらの繋がりを内に秘めています。それは家族であるとか出会いであるとかで、この曲も同じ要素を持っています。そして、晴れや雨ではなく、雪が降るからこそ遠くの家族が気になって、また会おうと約束する様は、どこにでもあるささやかな家族の光景ではないでしょうか。
 雰囲気が違う曲が続きますが、「空の探偵」もそれは例外ではなく、前曲でしっとりした心をカラッと吹き飛ばすような爽快感のある曲です。巨大台風や大地震に見舞われた時、人間だけではなく、大地や空も叫びを上げている……、そのエネルギーの奔流は人間には感じ取れないようで、実は身近に感じられるものでもある……、例えばくしゃみをした時、机の上のものが吹き飛ぶ様は、机にしてみれば台風のようではないか……といった風に、エネルギーの繋がりを感じる素晴らしさを歌い上げています。また、この曲は二つ前のアルバム「才能の遺跡」において「短編シリーズ」として1フレーズだけ歌われており、併せて聴くとより「エネルギーの繋がり」を感じられるのではないでしょうか。
 さて、シリーズの話を話を度々してきましたが、続く曲は「宇宙哲学シリーズ」という、見るからに難しそうなテーマなのですが(事実難解な曲が多いですね)、この曲に関しては全くその心配はありません。その名も「百万節」。分かる人には分かるかもしれませんが、山本さんは「ハナ肇とクレージーキャッツ」の作風を真似たり、植木等さんの物真似を得意としており、この曲もクレージーキャッツの「五万節」をパロディして植木さんっぽく歌っています。「五万節」ではラストでメンバー全員が歌っていましたが、「百万節」では「ひとりクレージー」と称して、山本さんが全員分の物真似で多重録音しています。「宇宙を出てから何光年」で始まる、クレージー風山本哲学は、大笑いしながらも何かを考えさせてくれる曲となっています。余談ですが、この曲は月刊OUTの企画ドラマCD「流星皇子TOMMY」のED曲でもあり、そちらのCDでは「五万節」における「サバ云うなこの野郎」のパロディを聴く事ができます。
 ラスト手前に来るのは、再び「短編シリーズ」の「マイボーイCHRYSLER」。これ単体で聴いても正直意味が分からないのですが、これは後に「桃の花」において解説と共にロングバージョンが収録されています。それによると、山本さんが母とニューヨークに行った時の母の呟きを歌にしたもので、マイボーイとは自分の息子つなわり山本さんへの呼びかけです。どうも山本さんはテンポの違う母に最初はいらいらしていたようで、でも帰り際のこの呟きを聞く事で何かがこみ上げたというのです。ならば、「マイボーイ」の呟きを自分と重ね合わせる事ができれば、この曲も単なる短編では収まらないものになるのではないでしょうか。
 山本正之のアルバムでラストを飾るのは、大抵が山本さん本人に深く関わる内容になっています。しかし、このアルバムにおける「うたがある」はタイトル通りの曲で、これだけを聴いても「何がどう『うたがある』のか分からない」内容です。しかし、これもまた本人に深く関わる内容なのであれば、山本さんの本質は言葉では説明できない、まさしく「うたがある」としか言えない……という事ではないかと考えます。「マサユキ天国」の何が天国だったのか、それは「うた」であると……。
 個人的に興味深い話として、次の「桃の花」からは作風が大きく変わっているように思えます。何故だろうと調べてみたところ、「マサユキ天国」までは山本さんは作詞作曲歌は当然ですが、編曲は数曲だけでした。しかし「桃の花」以降は編曲もほとんど山本さんが務めているのです。つまり、それだけ山本さん本人のイメージに近くなっているのです。
 ならばこの「マサユキ天国」はそれ以前の、言うなれば「山本正之と仲間達(ザ・サスクハナ?)」の到達した極致とは考えられないでしょうか。聴き易い曲を多数収録しているのもそれに通じたもので、次からは新たな山本正之像を作り出すために放出したのではないでしょうか。一つ前のアルバムのタイトルが「アノ世ノ果テ」というのも興味深い話で、このアルバムは一つの集大成をイメージして作られたのではないかと考えます。
 原点にして集大成。興味のある人には是非オススメしたいアルバムです。


 軽く書くつもりがめっちゃ気合いが入ってるのはどうにかなりませんか。最初の方がすごく短いのも(笑)。書いてるうちにテンションが上がってきたんだからしょうがない。
 そして、ここからが本当の本題でして、まあこれだけ書けばどういう曲が入っていてどういうアルバムなのか理解してもらえたとは思うんですが、これはレビューとして良質であるとは思いません。まず長い、要点がどこか分からない、一曲ずつ解説するのはネタバレ、エトセトラ……。ですから、これをベースに削ったり、文体を弄ったりしていれば、段々上手いレビューも書けるんじゃないかなあと思うのですよ。
 そこまでして何がしたいんでしょう私は。まあ良いや、思いついたんだからしょうがない。