涼宮ハルヒのAT

 涼宮ハルヒの憂鬱22話「涼宮ハルヒの溜息3」で撮影終了後に帰るハルヒが歌っていた鼻歌、なんかどこかで聴いた事があるなあとずっと考えていたのですが、今日になってようやく思い出しました。「装甲騎兵ボトムズ」の「レッドショルダーマーチ」でした。相変わらずマニアックというかなんというか……。思い出したらなんだか懐かしくなったので、この曲についてちょこっと解説しておこうと思います。
 なお、この「レッドショルダーマーチ」というのは通称名で、曲タイトルは別にあるのですが、それについては後述。


 「マーチ」というだけあって、曲調自体は非常に明るい正統派行進曲で、レッドショルダーが活躍するシーン等で使われていました。しかし、この「レッドショルダー」という部隊が曲者で、使用メカの右肩を赤く塗装していた事から付いた名なのですが、これは表向き「スペシャリストの集団」でした。しかし、「部隊内で殺し合いをさせて生き残った方だけを鍛え上げる」といった訓練の枠を超えた鍛え方や、どんな激戦でも戦果を上げて生き残る事から「他の部隊の犠牲も厭わない」と噂が立つ等、要はいろいろとブラックな秘密部隊だったわけです。やがて、その赤い右肩は血に濡れた証とされ、敵味方問わず恐れられる存在になっていきました。
 そして、主人公であるキリコ・キュービィーは元レッドショルダーという事で、高い戦闘能力を持つものの、過去の様々な体験がトラウマとなっていました。故に、「レッドショルダーマーチ」はそのトラウマを象徴する、忌まわしき曲なのです。先に述べたように曲調自体は明るいので、尚更に不気味な印象を視聴者にも植え付けています。
 で、ハルヒがこれを歌っていたというのは、恐らく「無茶な要求が続く映画制作」という「〜溜息」のストーリーに引っ掛けたものなのでしょうね。「表向きは明るい」ので、「自分が無茶をさせているとは夢にも思わないハルヒ」と「ハルヒの要求にいろいろな理由でうんざりしている他のメンバー」を象徴しているのでしょう。ハルヒ自身は「単に明るい曲だから歌ってる」程度でも、なんだかんだで意味を持ってしまっているのが、いかにもハルヒらしい選曲ですね。


 で、ここからはアニメトリビアとでも言うべき話。何故「レッドショルダーマーチ」が通称名なのか。というのも、この曲はボトムズのサントラには一切収録されていないのです。キリコの出自を考えると欠かせない曲にも関わらず正体不明で、劇伴担当の乾裕樹さんの作曲した曲ではなく、当時手元にあった流用曲を使ったという程度の事実だけが明らかになっていました。他には噂レベルで作曲者の名前が出ていたりもしましたが、LDではわざわざ曲だけが聴けるように音声トラックが別になっている等、通常の方法での収録は不可能とされていました。
 しかし、放映終了から23年経った2007年のある日、2chの書き込みで唐突に真実が発見されました。バスター・キートンの最後の出演作である1966年のイタリア映画「Due Marines e un Generale(二人の水兵と一人の将軍)」のサントラの2曲目「Arrivano I Marines」が、そのレッドショルダーマーチだったのです。どうもこの音源は放映当時テレビ東京にあって自由に使用できる契約になっていたらしく(更に現在は著作権が消滅している模様?)、作曲した劇伴に丁度良いものが無かったので使ったといった経緯だったようです。また、同じサントラの6曲目「L'offensiva Di Primavera」は「機動戦士ガンダム」でガルマ国葬のシーンで使われていた曲でもあり、判明した瞬間ネット通販関係でこのCDは瞬殺され、iTunesでのダウンロードもされていたので、全国の最低野郎共(=ボトムズフリーク)は喜びにむせました。


 アニメに限らず、昔の番組の劇伴はかなり大雑把だったものですから、著作権に引っかからなければその管理はいい加減で、この手の「正体不明の流用曲」というものはかなり多くなっています。他にも、制作スタッフが同じの別作品から劇伴を引っ張ってくるといった、今だったら「大丈夫か?」と言われるような事も、そこそこにあったようです。私の知っているところでは、「ザ・ウルトラマン」には「タイムボカンシリーズ」の劇伴が流用されていたりします。あのアニメ、「半タツノコ」なぐらいスタッフが共通していましたが、大丈夫だったのかなあ。
 今ではサントラ発売は定番ですし、ほとんどの劇伴が「その番組のために作曲された曲」であり、そうでない場合はクレジットされる等の配慮がなされています。あるいは、とっくに著作権が消滅している有名クラシック等はクレジットされたりはしないようですね(「カウボーイビバップ」の「花のワルツ」とか)。