ファイアボール・その2

 前回の日記の続きでございます。礼によって気まぐれで書き下し、気まぐれで終了するものでございます故、ご理解いただきたく思います。

  • 手紙

 ドロッセルお嬢様はユミル=テミル様と文通しておりますが、その手段に書物による手紙を用いております。前回の日記にも「人類の模倣に意味がある」と書きましたように、お嬢様にとっては伝書ビームよりも手紙の方が「気が利いている」のでしょう。しかし、このような頓珍漢な内容では……。『読んだわね』
 コミュニケーションの難しさは前三話まででも描写されてきた命題であり、手紙もまた大切なコミュニケーション手段の一つでございます。その点において現時点で未熟なお嬢様は、やはり頓珍漢な内容の手紙しか書けないのではないでしょうか。しかし、それでもユミル=テミル様とコミュニケーションを図ろうとする姿は成長の証と受け取れますし、「お屋敷から、出た事無いもの」と語るお嬢様には若干の寂しさが感じられますから、たとえ頓珍漢な内容でも「伝書ビーム」ではなく「手紙」という、「形を持ったものがお屋敷の外に出る行為」に意味を感じていたのかもしれません。
 仮に、ユミル=テミル様をご招待していたら、どのような会話がなされたのでしょうか、興味は尽きませんが、「芋煮会」等というほろ甘い会合の名前を出されている以上、この物語が完全に日本向けであり、ウォルト・ディズニー・カンパニーが制作しておきながら英語版その他の制作予定が一切無いであろう事は容易に想像が付きます。日本語と英語ですらこのように意思疎通は困難なのですから、人類とロボットが戦争状態に陥ったとすれば、20000年もの長きに及ぶのも無理ならぬ事なのかもしれません。

  • 頭の前の方が大変、愉快「痒いのね」

 ゲデヒトニスにも不調はやってきます。ドロッセルお嬢様がその不調の原因を確かめようと頭の中を覗きましたところ、お嬢様は中に落下してしまいました。しかしすぐにお屋敷の床から復活なさいました。これはミステリーでございます。
 しかし、このようなミステリーは今回だけには留まりません。ある時等は突如として頭の中から大量の蝶を出した事がございますから、ゲデヒトニスの頭の中はなんらかの手段により別の空間と繋がっているとも考えられるのではないでしょうか。まさかドロッセルお嬢様が二体用意されているとは考えにくい事態ですし、だとすればゲデヒトニスはどのようにして「頭の中のお嬢様」を取り除いたのかが想像できません。
 そして、お嬢様を心配するゲデヒトニスは、この5話で初めて「ドロッセルお嬢様」と名前で呼びました。お嬢様の話し相手あるいは教育係も務めているであろうゲデヒトニスは、以外にもここまでお嬢様を名前で呼んでいなかったのです。ともすれば、お嬢様の成長が物語の一つの軸でありながら、ゲデヒトニスからも歩み寄る必要があったのかもしれませんし、この呼びかけがきっかけとなってお嬢様の成長に繋がったのかもしれません。何にせよ、お互いがお互いの事を名前で呼ぶ行為には、その関係性を語るにおいて重要な事だと思われます。
 余談ではありますが、本編中で語られた「頭が高い」という言葉自体は英語にも存在しますが、「ざじずぜぞ」と絡めて英訳するのは大変難しいと思われます。「アルファベットの並びがHEADBCGになってしまうぐらい〜」等という台詞を考えてはみましたが、これで本当に言葉遊びとして成立するのか、私の拙い英語力では解明できません。

  • LBL音響爆弾

 6話で使用された人類の機器の名前でございます。LBLとは「レイヤー・バイ・レイヤー」の意味で、ルービックキューブの解法に同名のものが存在します。
 物語中において、これによる攻撃を受けたお嬢様やゲデヒトニスは動作に異常をきたし、その原因を「電磁波」と推測していました。解説書によると、私達の世界で言うところの「電磁パルス」に近い状態を音波によって発生させる機器のようです。電磁パルスとは、言葉通り強力な電磁波を発生させてケーブル等に電流を流し、過負荷によって損傷あるいは一時的な機能障害を起こさせるものですから、人類がロボットに対抗する兵器としてはこの上無く有効な手段と言えるかもしれません。
 しかし、ここで重要なのは、このLBL音響爆弾は、電磁パルスを音波によって発生させている点でしょう。つまり、イルカと密接な関係を持つドロッセルお嬢様ひいてはロボットにとっては、音波は重要なコミュニケーション手段である……と人間達に判断されたのかもしれません。そうすると、人類にとってLBL音響爆弾は兵器ではなく、対話の手段として放たれたとも考えられるのではないでしょうか。
 しかし、幸か不幸かロボットにとっては電磁パルスを発生させるだけの攻撃手段にしかならず、人類側からの対話は失敗に終わってしまったのです。ロボット側も対話を試みつつも、人類とはいささか言語体系が異なります故共存は無理と考えていますから、人類側にもこのような行き違いが発生したとしても不思議ではないのではないでしょうか。

  • しめさばとらっきょう

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 この動画でも語られている通り、しめさばとらっきょうは最高の食べ合わせでございます。
 先のLBL音響爆弾によって、恐らくテンペストの塔全体が被害を受けたと考えられます。その結果が監視カメラ先の爆発でございますが、誤動作あるいは爆発の可能性は塔全体にあるにも関わらず「お戻りください」と言った理由は何なのでしょうか。推測するに、人類を模倣するドロッセルお嬢様は、いつもゲデヒトニスと会話を楽しむ大広間に機械的なものを持ち込んでいなかったのではないでしょうか。メイドすらもステルスユニットによってお邪魔にならぬようにしてあるならば、結果的にあの広間が電磁パルスの穴になっていたのかもしれません。
 しかし、ドロッセルお嬢様は何故にゲデヒトニスの前から消えたのでしょうか。これも恐らく、外の世界に強い関心を持つお嬢様は、人類からの攻撃という「外からの動き」に反応したくなったと考えられます。その結果が「おーい、ここには、誰もいないよ」であり、「ちぇっ」とがっかりしている姿なのでしょう。実に愛らしい。
 ならば当然「しめさばとらっきょう」以下はゲデヒトニスの妄言になりますが、これは敢えて妄言を語る事でお嬢様の気を引き、爆発する部屋から連れ出したのではないかとも考えられます。また、正しくお嬢様の言葉を翻訳するならば、「人類と、我々が、仲良くする事は、できないのか(後半はゲデヒトニスに怒っているようにも見えますが)」等といった内容になればお嬢様のお優しい心持ちが感じられますが、ここまでくると単なる妄想の世界であり深読みとは違う次元の話になってしまいますので、この辺りで止めておこうと思います。ただ、その結果が次回の「人類との話し合いの場を設けて頂戴」に繋がるのですから、この妄想もあながち間違いというわけでもない気がします。
 なお、何故私が上記のような妄想を書いたかと申しますと、「ドロッセルお嬢様が両の手を開いて対比する仕草」は作中に何度か登場しておりますが、その多くが「人類」と「ロボット」、ひいては「生物」と「機械」を意味しているからでございます。そしてその両の手を合わせるという行為も含めますと、やはり「人類とロボットの和平」といった意味になるのではないかと考えたのでございます。