創作する心構えのようなもの

 6月20日分のニシンPのコメントに返信しようと思ったのですが、なんか長くなりそうだったので。


 創作活動において、設定を作るのは大事です。例えば身長体重であるとか、好きな食べ物であるとかの基本的な事から、過去から現在に至るまでの行動や事件、現在の性格はどのようにして形成されたか等。でもそれを「解説」するのは違うんじゃないかな、という話はよくあります。じゃあどうやって「解説せずに進行するか」が大事になってきます。
 一番分かりやすいのは、「解説しやすい状況」を用意する事です。いきなり「俺は宇宙刑事ギャバンだ!好きな食べ物はアンパンだ!」とか言われても受け手としては困るだけなので、「何も知らない部外者」や「その人物の持ち味を活用できる事件」があると、割と自然に物語中で設定を語る事ができます。より端的に言えば「第一話」は大体それですよね。平凡な少年がある日事件に巻き込まれて〜とか、使い古されても未だに飽きられないシチュエーションです。尤も、群像劇でそれをやるのは非常に困難なので、「○○当番回」という風にそれぞれのキャラが中心になったエピソードとかが作られたりします。
 しかし、「そもそも設定を作らない」事も案外重要だと思います。設定を作ると、それに縛られてしまうのはよくある話ですから。勿論作りこめばそれだけ複雑な物語を作る事もできますが、それは最初から最後まで構成が決まっている物語にこそ有効な手段であり、その場の勢いも重視される週刊連載の漫画等で設定を凝りすぎると、毎回同じような物語になってしまったり、設定に潰されて話が作れなくなってしまったりします。現に漫画家の中には、「身長は大雑把に決めてあるけど(絵に描くのに必要だから)、後は性格ぐらいしか考えてない」という人もいるようで、その場合は物語中の事件の方に力を入れる事で面白くする手法が取られると思います。
 もう一つそれに関連したものとして、「設定は設定としてあるけど、『既に発表した物語』を優先する」という手法もあるでしょうか。大事なのは「世に出たもの」ですから、もし裏で考えた設定と矛盾していたり、あるいは設定を変えた方が後々面白くなりそうだという場合は、不自然が無い程度に設定の方を変えてしまうのです。書いている人間の心境だって段々変わりますし、登場人物だって成長しますから、これも設定に縛られると面白くない結果になりかねません。聞いたところでは、風野君はこの手法に近いやり方を取っているそうです。


 アイマスの二次創作で考えてみましょう。この場合の基本設定は「アイマスである」という前提条件があるので、大幅に説明を省略できます。わた、春香さんはとっても可愛くて人気者ですよね!とかいちいち言わなくても、二次創作を見るような人間は皆知ってるからです。え?誰も言わないんだったら不人気なんじゃないかって?そんなの絶対ありえません。わた、春香さんは人気者に決まってますよ、プロデューサーさん!
 アイマスの二次創作は誰か一人のアイドル(ないしユニット)が主役の場合と、765プロ全員の群像劇というパターンに大別されるでしょうか。もう一つ、アイドルとは関係無くアイマスキャラを借りる事で制作された「架空戦記」というものもあるのですが、ここではややこしいので省略します。架空戦記の場合はアイマスじゃないキャラの説明も必要ですし、また「何故アイマスキャラが登場、活躍するか」といった理由付けが必要になったりもするので、ただの二次創作よりも複雑になる傾向があるでしょうか。
 話を戻して、主役がいる場合は更に解説が楽になります。ただでさえ基本設定を端折れるというアドバンテージがあるので、乱暴な言い方をすれば、アイマスの本編と違う描写を一話で大体やってしまえば(笑)、後は安心して物語を書くだけになるでしょう。しかし、全員が何かしら本編と違っていて、尚且つ群像劇の場合は話がややこしくなります。二次創作をする人間は大抵「俺設定」が大好きなものですが、それを垂れ流すだけだと「チラシの裏にでも書いてろ」とか言われちゃいますからね。
 アイマスキャラ達は性格設定は細かくされていても、実は「何故そのような性格になったか」等といったバックボーンはほとんど公開されていません。例えば千早には「弟が事故死してから家族関係が悪化した」という設定がありますが、そもそもどうして事故死したら家族関係が悪化するのでしょうか?その間は自由に想像しろ、というわけです。小鳥さんだって、その過去を語るだけでゲーム一本作れそうなぐらい設定がありそうだと感じられるのですが、制作者側としては出すつもりは無いそうです。


 風野君の場合、アイドルの表面的な性格は弄らず、バックボーンを補間する方向で設定を考えたそうです。何故雪歩が穴を掘るのか、絵理が引き篭もってネットアイドルを始めた理由は何なのか、すごく気になるのに本編で語られていない設定を補間する事で、行動の一つひとつに説得力が生まれます。というか、そういう設定を妄想しないと、アイマスって割と薄っぺらい物語なんじゃないかとすら思います。特にDS組とかプレイヤー=自分の分身の筈なのに、その自分の設定すらよく分からないまま進行していきますからね(引き篭もってた理由とか、結局分からないままですし)。
 本当に設定が無いプロデューサーや、影だけで正体不明な社長に関しては思いっきり「遊び」を入れているのも興味深いですね。彼の書く高木社長が本当に昔「東アステロイドでイキに暴れ回っていた」のかは怖くて聞けないんですが(笑)、あながちウソとも思えないようなカリスマ性があるので、個性的なアイドル達が一つの事務所に留まって仲良くできるのだと思いますし、パックマンPというナムコ的に安易と思いきや、冷静に考えるといろいろおかしい存在を配置する事で物語にもアクセントを加えています。この辺りは、アイマスが元々持っている「ファンタジー要素」を取り入れたものでもありそうですね(ドラマCDでサンタクロースとか出てましたし)。
 あと単純に、「一度書いたものはちゃんと覚えている」のが偉いと思います。設定よりもその場の会話を重視している以上、会話の一つひとつを覚えていなければ話を作れませんし、前に書いた事を忘れる人よりも覚えている人の方が良いものが書けるでしょうし、好感が持てます。思いっきり忘れたり、平気で矛盾しまくるタイプの人も個人的には大好きですが(ジャンプ漫画によくいる感じの人)、それを実行できる人はごく少数ですからね。ちなみに私は前に書いた日記の内容すら忘れてます。
 彼はそうやってアイマスにある程度沿ったラインで誠実に物語を作っているので、やはり安定感があると思います。というか、アイマスに沿っていないという事は「アイマスである必然性が無い」という事にも繋がりますから、その意味では沿うのは当たり前とも言えます。ただ、エロゲーっぽいアイマスのように、「全然違うんだけどこれはこれでアリ」と思わせるだけの文章力を持つ二次創作もありますから、一概には言えないんですが。悔しい、けど面白い……!ビクンビクンなんつって。


 そうそう、パックマンで思い出しました。現在の最新作である08話で「パックマンの新作なら知らないよ」とかいう台詞がありましたが、今年のE3で30周年企画として、幾つか新作が発表されていました。元々海外では人気者なので、30周年で何もしないというのはさすがに無かったというわけですが、制作期間的に入れ違いになってしまったようで、知ってからちょっと残念そうにしてました。
 あと08話では千早の過去を思いっきり「解説」していますが、これはジョジョによくある回想シーンをイメージしているそうです。5部のミスタとか、一見関係無さそうなところで回想をはさんでいますが、あれが入ると妙に物語に引き込まれるんですよね。じゃあなんでジョジョネタなんだと言うかもしれませんが、中の人がジョジョ好きだからであって、しかもこのシリーズの千早は台詞の半分ぐらいがジョジョネタです(笑)。ジョジョファン的に見て、12話は本当に神がかってると思います。ダブルショック!のくだりとか、J9も同時に知ってないと理解できないネタなんですけど、一切自重してない姿勢にある意味惚れました。


 ニシンP、改めてありがとうございます。風野君の動画には派手さと萌えは無いですが、しっかり考えて作っているのが傍から見て分かりますし、それを理解してくれて、しかも見てもらいたいというのは、私としても光栄の極みです。ちょっとまとまりの無い文章になってしまいましたが、彼の創作活動のスタンスと私の考えを知ってもらえたらと思います。