幼馴染とは対立するが定め

 オウガの音楽が聴きたくなったのですが、私はサントラを持っていません。しょうがないのでゲームを動かして、暫く放置してBGMとしました。
 そんなわけで、唐突ですが、タクティクスオウガの話を。かれこれ4回はプレイしたでしょうか。


 タクティクスオウガと言えば、私は平キャラばかり使っていました。顔付きで残っているのはオリビアなどの後列組か、カノぷ〜ぐらいでしょうか。面倒な時はハボリム先生も使いますが。
 私は戦争ものをプレイする際に、平キャラを優遇して使います。物語の重要人物は場合によって出撃させますが、それ以外は多少弱っちくても平キャラを使います。平キャラは使っていて想い入れが増しますし、固有キャラよりも意外と面白い能力を持っていたりします。
 タクティクスオウガに関しても同様で、ゲームを開始した時から戦いは始まります。アルモリカを解放した後は普通トレーニングをするでしょうが(ハミルトン卿から奨められますしね)、私は敢えてしません。どうせデニム君一人ですし。
 彩雲のオルバはカノぷ〜に倒してもらいます。頑張ればカノぷ〜はレベル4寸前になりますので、ここで初めてトレーニングします。単純に効率化でもあるのですが、次のクリザローの町でリザードマンを雇えるのが8日までで、早く雇いたいという切実な事情があります。そして、この調子で行けばライムでフェアリーがギリギリ雇えますし、帰り道のアルモリカでホークマンも……という感じです。ていうか平キャラというより、人外ばっかりですな。
 そして、勿論クリザローではスケルトンとゴーストを仲間にします。この二人がいれば二章終わりぐらいまでは楽勝になりますし、それ以降も長所を伸ばすなり破魔の盾を装備するなりすれば十分使えます。
 現在残っているデータでの最終メンバーは、多少入れ替わりはあったものの、スケルトンとゴーストとリザードマン、後は死者の宮殿で仲間にして多少強化したゴーゴンとゴブリンという、怖い奴等ばかりになっていました。後は趣味で作ったエンジェルナイトがいましたが。


 で、そんな平キャラ大好きな私ですが、実は一番好きなキャラはヴァイス・ボゼッグです。どういうところが好きかというと……デニムの人生に振り回される辺りでしょうか。
 有名な話かもしれませんが、ヴァイス君は悪人ではありません。Lルートでの善人ヴァイスが本性だと思います。
 じゃあ何故Cルートであんな行動を取ったかというと、カチュアの存在です。虐殺を拒否するとレオナールが斬りかかりますが、そこにカチュアが駆け寄る……という光景をヴァイス君は目撃します(寄り添っているところにヴァイス君が出てきます)。カチュアが好きなヴァイスにとってみれば、気に入らないのは当たり前です。ですからデニム君の意見に賛同しているであろう自分の信念すら曲げて、虐殺を肯定して悪人ヅラになるのです。
 では一方でデニム君が虐殺に加担しようとした時は、実は微妙に状況が違います。その言葉のすぐ後にヴァイス君が出てきてレオナールを否定するのです。これは「デニムと同じ事なんてできるか」的なひねくれ者の思考ではないと思います。あの時のヴァイス君は本心からそう言っていたように見えました。
 レオナールに斬りかかれてもその心は変えませんでしたが、カチュアに意見を求めてヴァイス君の運命も決まりました。「いつだってデニムに付いていく」と言われれば、そりゃ気に入りません。後はCルートとほぼ同じで、俺とお前は敵同士、というわけです。
 CにしろLにしろ、ヴァイス君はカチュアの意見の後で自分の行動を選択しているのです(実際、カチュアの意見→ヴァイスの発言には若干の「間」があります)。Lにおけるレオナールやデニム君に対する意見というのは、あくまで意見であり、行動を決定するには至っていません(こちらには「間」がありません)。「虐殺がどうのよりも、デニムが大事」とのたまうカチュアを見て、デニム君と敵にならなければならないと感じたのです。……改めて思いますが、カチュアって本当最低ですね。


 その後、Lルートではヴァイス君は独自に組織を作り、デニム君と公爵率いるウォルスタ解放軍を追います。この時のヴァイス君はある意味最高に輝いていると言えます。だって、気に入らないデニム君を殺す大義名分があるんですから。
 しかし、元々デニム君への敵意は副次的なものでした。ヴァイス君はデニム君が気に入らないのではなく、「カチュアを独占するデニム」が嫌いなのです。虐殺はやってはいけない事と思っていますが、デニム君そのものやその思想にはそれなりの意義がある事を知っています。それが現れるのが、Lルート二章最後でのレオナール戦で、ヴァイスが駆けつけるところです。
 ヴァイス君はデニム君を殺そうとは思っていませんでした。あるいは、最初はそう思っていても、ネオウォルスタ解放同盟という組織を運営していく中で様々な意見を聞き、成長したのかもしれません。重要なのは償わせる事なのだと。「虐殺を肯定したデニム」は許せませんが、なんといっても幼馴染なんですから。
 そしてこの頃には、カチュアに関する話がほとんど出ていません(同じ場面での会話シーンが少しと、死んだ時のみです)。やはり組織のトップとなる事で考えが変わったのでしょう。恋心はあっても、やたらに出すものではないと。実際、解放同盟のメンバーは虐殺を否定したウォルスタ人なのですから、そういう感情は一番よく知っていると思います。そういう人達を見てきて、自分の考えの子供っぽさのようなものを知ったのではないかと思います。愛憎は強い力となりますが、組織の崩壊を招く可能性もあるのです。
 そして、二人は再び仲良しに戻りました。しかし、虐殺を肯定したわけではありません。それどころか「どうしようもない屑だよ、お前は」と言い放っています。これは本心であり、また親友でもあるからこそ言える台詞だと思います。犠牲者にしてみればいくら殺しても殺し足りないデニム君ですが、それよりも一生かけて償わせる事がより重く、何よりも殺さなくて済むという複雑な感情が、あのような言葉となったのではないでしょうか。


 一方、Cルートではデニム君が公に「敵」になっているのですから、正義は我にありとばかりにやってきます。しかし、同胞を殺して「悪」となったのは他ならぬヴァイス君でしたので、段々と彼の心は歪んでいくのです。そして、そんな中でも自分の道を選択していくデニム君が許せなくなっていき、一騎打ちという名の喧嘩を挑みます。
 三章になってもそれは変わりません。歪んでいくヴァイス君は、恩を受けたロンウェー公爵に従うフリをしてバクラムに寝返ります。この辺りのヴァイス君の行動は、かなり見ていて痛々しいです。出世欲だとは思うのですが、そうとも言いきれない、ただかき回しているだけにも思えます。デニム君が得ていた多くのものの内、少しでも自分で得る事でどうにかしたかったのでしょう。
 しかし、デニム君は一見不条理な行動を取りながらも、次第にその立場を認められていきます。いえ、認められるという点では二章ラストのレオナールの時点で認められていたのかもしれません。そして、それがどんなものであれ、真直ぐに生きる信念は、自分の主義を曲げてしまったヴァイス君には美しく映ったに違いありません。
 その結果が、無謀とも思えるバクラムへの寝返りであり、そして無様な失敗です。それは、野心という聞こえの良い言葉で誤魔化した、ただの子供の駄々に見えました。騎士としての誇りは当然ありません。
 そしてバクラムからは責任を被せられ処刑されてしまいますが、その時に叫んだ名前は愛するカチュアではなく、最後まで敵だったはずのデニム君でした(これはCルートだけです)。カチュアのおかげで対立したデニム君ですが、真直ぐに生きるデニム君の姿を見て、また自分が極限まで追い詰められる事で、デニム君の存在を肯定する事ができたんでしょう。それは本当に最後の最後で、それをデニム君が知る事はありませんでしたが。


 Nルートではまずデニム君が無様なところがあるのですが(正直見ていて辛いです)、デニム君を憎む事で自分の精神の均衡を保っていたところのあるヴァイス君にとっては、もっと無様な結果になってしまいました。
 もういろんな意味で一緒には戦えないと思ったヴァイス君は解放軍を抜けます。その後はほとんど出番がありません。一度デニム君が見かけて助けていますが、それだって無様な捨て台詞と共に逃げていきました。
 結局、デニム君と対立していなければならないヴァイス君ですが、虐殺に加担した人間の味方になってくれる組織があるわけがありません。つまり、デニム君と対立する手段を失ってしまったのです。
 ボロボロになって取った行動は、ウォルスタ解放軍を直接殺す事です。ロンウェー公爵を始めとする組織のトップを殺す事で、なんとか同じ土俵に引きずり落とそうとしたのでしょう。しかし、当然ながらそれは叶いませんでした。誰にも看取られる事なく、カチュアの名前を呟いて死にました。


 ヴァイス君が善人であるという前提に基づいたこの説ですが、元が悪人だとしたらLルートでいきなり対立する辺りが不自然になります。デニムを見返したいから対立するというだけの単純さで考えても、虐殺を否定する時の言葉は真実味に溢れていました。やはり、元は善人であり、あの時対立したのはカチュアとデニム君という三人の複雑な関係がそうさせたのだという説が一番自然だと思います。元々の態度が悪いのも、やはりカチュアとデニム君の姉弟に対する牽制みたいな感じで、Lルートはそれが無くなっている「素のヴァイス」ではないかと思います。


 でも、ゲームをプレイする時はテラーナイト大好きなので、CルートもしくはデボルドのいるNルートを選びます。この外道。