世界樹の小説なんだよ「Triferon」006

 前回までのあらすじ、ロウタは田舎貴族だった。


「どういう事だ?」
 ぞあす君ちょっと怒ってる。まあ当たり前かもしんないけど、気が短いのは感心しないな。
「ペパラーちゃんはあの人と仲が悪いのかな?それともたまにいる、ギルド専門の追い剥ぎかな?ぬふふ」
 短絡的思考も嫌い。当たってる気もするけど、その辺は無視。
「ちょい待ってな。ナシ付けてくる」
 ここであの田舎者がやってくるとややこしくなるのは明々白々。私はマダムから私の話題が出る前に、自分で出頭する事にした。
「あら、さっきの……。ロウタさん、この人が貴方のギルドを尋ねていたわ」
「ああ、ありがとうござんす」
 ロウタはマダムに礼を言うと、私に向き直り「紳士的礼」をした。古風だがなかなか様になっているわ。文字の事もあり、育ちは良いみたい。……じゃあなんで訛ってんだよ!
 私は堅苦しいのが嫌い、というより堅苦しく合わせる自信が無い。他の客の邪魔にならない場所にカウンター席を取り、横目で話す事にした。ロウタとやらは実に礼儀正しく付いてくる(後ろのちっこいのも)。ふふん、師曰く、話し合いは席に座る段階から始まっているという。席を選ばせたお前は負け犬タヌキ。これ決定。
 二人分の飲み物を適当に注文。ちなみに私は酒は苦手で、ロウタは飲まない主義らしい。横のちっこいのにはジュースでも与えとけばいい。
「どうも、遅れますて申し訳ありません……、私がロウタです」
「別に、申し訳あると思いますけど?何で遅れたんですか?」
「それが、道に迷ってしまいまして……」
 大丈夫?……正直、冒険者に向いてないんじゃない?ていうか、どうやってこの街まで来たんだか。
「それで、うかり樹海の入り口まで来てしまいまいまして、こちらのお嬢さんに助けて頂いたです。……ゆりえさん、本当にありがとうございます」
「どういたしまして!えへへ……」
 しかもこの男、童女趣味か。道が分からないだけならまだしも、そんな年下にエスコートされるなんざ、他意が無い方がおかしいわ。……いや、そーゆー地方柄?……エトリアではどうかと思う。
「で、私はその間ずっと待ってたわけですが、その辺りに関して何か?」
「本当に申し訳あるません。わざわざあの張り紙を見て頂いたとん事ですが、まあこの有様では参加してもらうわけにゃいかんせん。ここの代金と少々の慰謝料はお支払いいたすので……」
「いや、別に怒ってないですよ?」
「へ?」
 少々腰が低い気があるが、誠実な態度は見て取れた。それなら参加しても不都合は無いし、私が「巻く」のも丁度良い。それに、仲良くするのは長生きの秘訣。そこそこに利用させてもらうさね。
「私、参加しますよ」
「え……?」
「ただ、貴方が道に迷った事や、年端もいかぬ少女に助けられた事を見過ごすわけにはいきませんから、私もギルド運営に口を出させていただきますが、よろしいですか?」
「あ……あい!喜んで!願っても無い事でげす。ありがとうございます」
 何度も何度も頭を下げるロウタ。……私は正直、「頭下げる」って行為が嫌いなんだけど、まあそれは言うまい。
「私はペパラーゼ。見れば分かるでしょうけど、鞭使いです。樹海探索は、深層まで辿り着く事自体が目的、というところでしょうか」
「これはどうも、ペパラッツェさん。私はロウタ。ディフェンスには定評がありゃんす。樹海の謎を解明したいち思います」
「私はA・Yでーす」
 「ペパラー」言われるのは慣れてるけど、そんな呼ばれ方は初めて。しかし、素で訛ってる人間にこれ以上言うのも酷、か。……ん?今、そっちのお子さんA・Yとか言った?なんで「ゆりえ」?それは訛ってるというの?…………いずれにしろ、名前について問うのは止めるか。


 我らがペパラー、そしてTriferonのリーダーロウタが戻ってきたのは、黄門様が旅に出てから由美かおるが風呂に入るぐらいの時間がかかったような気がするのであります。
 ぞあすちゃんが実況中継してくれたところによると、どうやらペパラー様は裏に腹黒いものを抱えているようで、一方ロウタ殿は初めての場所で道に迷う阿呆との事。だめだこりゃ、とでも言っておけばいいのかね。
 ちなみにロウタお手付きの……じゃなくてお付のお嬢ちゃんの名はA・Y、ただの少女だとか。なんだつまんねえの……と言いたいところだけど、A・Yちゃんがなんか言う度に皆がなんか騒いでる。……マスコットキャラ?樹海のアイドル?幸運の女神!?フォーチュン!?
「こちらが私の友達にして、Triferonにも入ってくれるかもしれないお二人さんです。目付きが悪いのがぞあす、お花畑に住んでそうなのがフィ=Irです」
 ……何気に毒舌だね。だが負けないぜ!無限の旅路を越えたあたしの話術を見せてやるもんさ!
「ぞあすだ。よろしく頼む。技を磨く為にエトリアに来たが、樹海探索も修行の一環だ。役には立てると思う」
「ええ、よろしくお願いしゃす、ゾバースさん」
 先手打たれたー!?……こいつ、これを狙っていたな?あたしがアホの如く騒ぐのを見越して、真面目な挨拶しかできないように操作しやがったか!……しゃーない。
「フィ=Irでーす!歌と元気の良さなら誰にも負けません!夢はトップアイドル……も良いですけど、今はとにかく楽しんでやりたいと思います!空に願いを、地には平和を、そして樹海には笑いを届けたいと思います!」
「はは、これは頼もしい。フリルレロさん、これからよろすく」
 フリルレロは無いんじゃないかなあ……。今はまだ我慢できるけど、そのうち直してもらおう。
「ロウタさん、この人たち、なんなの?」
 A・Yちゃんが興味津々でロウタの裾を引っ張ってる。うんうん、可愛い奴め。
冒険者ですよ。ゆりえさんがいつも見ていた、樹海を目指す人達のこってづ」
「ぐるぐるなんですね?私もぐるぐるしたいです」
 その言葉をロウタは理解できなかったようだが、あたしには分かるぜ。ぐるぐるってのはきっと、樹海を行ったり来たりしてる冒険者の事だわね。そりゃ毎日見てりゃぐるぐるもするわな。
 どきなロウタ!あんたにゃA・Yを任せられんね!
「A・Yちゃ〜ん、君、何かできる〜?」
「なにかって、なに?」
「うーん、それはね……。何か得意なものある?」
「ぐるぐるを見てるのがとくいです」
「……それ以外」
「えっと……、あ、『ちりょうのわざ』がつかえます!」
 その言葉に、皆が沸いた。なんてったって無計画で組んできたギルドだもんで、メディックがいなかったんだね!
「あいや、しかし……。私達と一緒に冒険をしたいいう事ですか?危ないですよ?」
「だいじょうぶです。ぐるぐるを終わらせれるのは、私だけですから」
 む、これはさすがによく分かんない。冒険が終わる時、それはきっと引退か、樹海の中で果てるかのどっちかだろうけど、なんでそこでA・Yが関わってくんだ?
「お母さんか、お父さんはいないのですか?心配するでせう」
「よく分かんない」
 あちゃー……。変てこなの拾ってくるね、ロウタさん。妙に懐いちゃってるし、どうしたもんかね。
 とかなんとか思ってると、ゾバースならぬぞあすが横から小突いてきた。何すんじゃいと思ったら、いつの間にか女将のサクヤ姉さんがこっち来てるよ。あら、ひょっとして御知り合い?
「ねえ、その子ひょっとして、いつも樹海の入り口にいるの?」
「うん」
 すると、サクヤ姉さん黙っちゃった。言い辛そうな顔してるよ。そういうのはこのあたしに任せんしゃい!と思ったらペパラーの姐さんが先に動いてるー!そんでロウタはA・Yのお守りだし、ぞあすは静観か。癪なのであたしは行くのさ。
 A・Yちゃんから聞こえないようにそこそこ離れると、サクヤ姉さんは俯きながら口を開いた。
「あの子、たぶん『死神』よ」
「死神って……見えないよ?」
「長生きせずして神を名乗るってのは許しがたいね」
 そんなに長いのが好きか。
「いえ、そうじゃなくて……。樹海の入り口をいつも見てるだけの子なんだけど、その子に話しかけたら冒険者として死んでしまうとかいう噂があるの。実際、その子に話しかけた次の日に引退した人とか、話しかけてから帰ってこなかった人とかいるみたいで……、あくまで噂だと思うんだけど……」
 ははあ、ぐるぐるね。なんとなく分かってきたよ。
「長生きできなくなるって事?それは嫌ね」
「あんたちょっと黙ってて!……なんとなく分かったよ。たぶんだけどあの子だわ、死神さんは」
 だがね、死神なんてのは嘘っぱちだ。あくまで推測で語らしてもらいますが、恐らくA・Yちゃんは本当にぐるぐる見てるだけだ。ただ冒険者ってのはゲンを担ぎたい生き物だから、危険な旅の前には話しかけたくなったりするんじゃないかな?引退しようか悩んでるんだったら、いつも見てる人間の意見は気になるだろうしね。で、一旦噂が立てば、真相はどうでもよござんす。死にたい奴が話しかけたりもするだろうさ。そんな感じで風物詩になったと。
 あたしがそんな事を一気にまくし立てたら、二人は半信半疑といった表情をしてた。まあ当たり前だわな。穴だらけの理屈だし。ただまあ、街の外れとはいえ樹海の外に本物の死神がいるとは到底思えないし、ましてやあんなカワイコちゃんが死神だなんて信じたくないだろうから、今は嘘っぱちの理屈で良いだろ?二人もそれを理解してるから、納得しようとしてる。ペパラーなんか思いっきり目を見開いてるよ?ふっ……私がただの馬鹿女とでも思っていたかね?
「まあとにかく、本人が『ぐるぐるしたい』って言うなら、今はそれで良いんじゃない?浅いところなら新人のあたしらでも守れるだろうしさ、とりあえず気が済むまでやらせてみようよ」
「……そうね。死神の噂が消えるまでは、お願いできるかしら?」
「良し決まった!サクヤ姉さんのお墨付なら大丈V2だね!」
 なんでロウタ君にくっ付いてるのかが分からないところではあるが、まあその辺りはおいおいなんとかするべ。あたしらはサクヤ姉さんに礼を言うと、Triferonの場まで戻った。
「A・Yちゃん、ぐるぐるしたい?」
「したいです」
「じゃあ行こう!あたしらと一緒にサイクロン!」
「やったー!ありがとうございます」
「あの、勝手に決めにゃーでください」
 ロウタが抗議するが、無視だ。ちなみにぞあすは聞いてるのか聞いてないのか微妙だ。いや、あいつの事だからきっとあたしらの話を聞いてる。
「何さ?まだ文句ござる?」
「いえ、保護するまでは了承しゃすが、冒険は危険です」
「だからその辺りは、私達が守っていくという事で。ロウタだって、メディックはいないと辛いでしょう?」
「それとも何?か弱い女の子一人守れない程度の男かね、ロウタ君は!お母さん、そんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「む……、そこまで言われては貴族の名折れ。よろでしょう。……ゆりえさん、貴方は何があろうと私が守ります」
「は、はい……。ありがとうございます……」
 お、A・Yちゃんちょっと俯いちゃってるよ?これはひょっとしてひょっとするか?しちゃったりするか?それとロウタ君は貴族か、こりゃ弄りがいがありそうだ。何しろ芸術家にとって、富裕層は生涯敵対する存在だからな。
「バックのサポートなら俺に任せておけ。ロウタは前方を守ってくれれば良い」
「じゃあ私が先陣を切るわ。攻撃は最大の防御だしね」
「じゃあ、けがしたときは私にまかせてくださいね」
 ……む、台詞を全部取られた。
「じゃああたしは……BGMなら任せとけ!乾いた大地歌っちゃうぜ!」
「…………」
「……………………」
「はは、それではお願いします」
「ぐるぐるしそうですねー」
 ……み、見るな!あたしをそんな白い目で見るな!




 なんだかどんどん知能指数が下がってる気がします。大丈夫でしょうか、私が。
 なお、フィ=Irは馬鹿キャラとは言いますが、馬鹿キャラがただ馬鹿なだけでは意味が無いとも考えています。特に芸術に操を捧げるような筋金入りならば、それなりに知識量もあると思い、ちょっとだけカッコ良いシーンを書いてみました。ちなみに当初の構想では、A・Yの独特な言語を理解するのはある種同類項であるフィ=Irでないと駄目かなあと思い、それぐらいしか出番が無い予定でした。
 ともかく、なんだかんだで五人揃いました。初期メンバーはこれでいきましたが、やがて「もっといろんなキャラ使いたいなあ」とか思ったので、すぐに増える事になります。
 なお、Triferonが何故設立者不在で存在していたかという疑問に関しては、別にちょっとカッコ良いストーリーを考えたかったからではなくて、実体験が元になっています。最初ギルドでは思い付いた順番にキャラを作ろうとしたのですが、キャラクター表は作った順のまま入れ替えができないと知ったので、最初のキャラを作ってすぐに削除したのです。最初のキャラの名前はもう忘れてしまいましたので、それを再現すると、設立者不在の謎ギルドになるかなあと思い、そのようなストーリー運びになりました。
 なお、何故ギルド長や受付嬢がギルドの申込用紙を保管していたかに関しては、「元冒険者なら勿体無い事はしないはずだ」という考えに基づいています。名前だけ書いた程度なら、十分に再利用も可能に違いないのです。「名前消せば良いじゃん」とか言わないでください。
 どうでもいいですけど、樹海のBGMに「乾いた大地」は無いよなあ……。