迷宮小説に俺はなる!「Triferon」007

 それでも世界樹小説は書くのですよ。私は。
 前回までのあらすじ。ロウタによる命名、A・Y→ゆりえ、ペパラーゼ→ペパラッツェ、ぞあす→ゾバース、フィ=Ir→フリルレロ。幾らなんでも「フリルレロ」は無いよなあ……。


 さて、この場で誰がリーダーかってのははっきりさせとく必要がある。これは短い方が良い。んで、田舎貴族には任せられないし、ぞあすは明らかにサポートタイプ。フィールは頭は良いけど騒ぎ過ぎ。お子ちゃまは論外。だったら、おう、私がリーダーになるしかないじゃん。
 そして執政院まで私を先頭にしてやってきた。ロウタはまあ、黙ってれば紳士だし、横に立たせておけば様になる。
 私達に応対したのは、眼鏡のひょろ長いオレルスとかいう人。何でも樹海の調査を記録しているんだとか。確かに雰囲気は文官のそれ。
「ギルドを組んだとしても、この街に来たばかりの君達を冒険者と認めるわけにはいかない」
 仰る通り。どんな荒くれがいるか分かんないからね。治安を守るにはそれでも足らないぐらいだ。
 そして「ひょろ長いオレルス」は私達に一枚の羊皮紙を渡してきた。これが樹海の地図になるらしい。確かに、少々古いが素材は丈夫。書き込みや消し直しも楽に出来そう。
「まずはその地図を使い、地下一階の地図を埋めたまえ。それができれば、冒険者として認めよう」
「一つ聞いて良いですか?」
「何かな?」
「正方形の地図って、なんか気持ち悪くありません?もっとこう、縦長でも良いと思います」
「……地図が足りなくなったら、順次付け足していけば良い。巻物に拘りがあるのか知らないが、樹海では正方形が最も丁度良い形だ」
 この眼鏡野郎、呪い殺してやろうかしら?そんなクラスもあるって言うし、チェンジするのも良いかもね。


 そして樹海に挑む前に、私達は一通り街の施設を周っておく事にした。商店と宿、そして施薬院。どれも冒険者(仮)には欠かせない重要な施設だ。
 宿の受付の男はアレイ。いかにも客商売という感じの営業スマイルが印象的。
「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「料金体系は如何ほどで?」
「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「は?」
「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「……人の話聞いてます?」
「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「…………」
「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「A・Yちゃん、この人が遊んでくれるって」
「本当ですか?」
 その後、私とA・Y、ついでに加わったフィールが、クッションの刑から安楽椅子の刑のコンボをアレイに対して行ったが、奴は最後まで「ようこそ、長鳴鶏の宿へ。ここは樹海を探索される冒険者の方々専用の宿です。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」の言葉を崩す事は無かった。まるでスペインの宗教裁判だ。
「私達のレベルによって金額が変化するらすいでずよ?」
 その間に、ロウタが通りすがりの従業員から話を聞いていた。うむ、さすがは副リーダー。ぞあすはそんな私達を冷ややかに見てた。たぶんあれは、「俺が動くまでもない。ていうかそんなので動きたくない」。


 続く足でケフト施薬院に行く。ドクターの名はキタザキとかいう渋いおじ様。やっぱり亀の甲より歳の功だな。
「む……、そちらの子はひょっとして……」
「あ、おじさんお久しぶりです」
 A・Yが元気良く礼をする。メディックという事で面識ぐらいあるのかも。案外治療の技術でも教わったとか?
「そうか、君も冒険する事にしたのか……」
「はい、ぐるぐるです」
「そうか……。…………『回転』は『無限の象徴』だ。そして人体にもまた、『循環』という名の回転が流れている。ぐるぐるするのは構わないが、自分の中にあるぐるぐるを見失わないでくれよ?それさえあれば、君達は『無限』に生き続ける事も可能だ」
「よく分からないけど、頑張ります!」
 良い事言ってるみたいだけど、いまひとつ噛み合ってない気がする。しかし、回転は無限の象徴か……良い言葉。最長の辿り着く先も「無限」なのかもね。
「あの、一つ聞きたいんですけど……。私がずっと前に来た時の人、助かったんですか?今でもぐるぐるしてるんですか?」
「む……」
 ドクターは悩んでるみたい。この流れはきっと……、たぶんその人は助からなかったんだろう。あるいは、その場で助かってもまたどっかで死んじゃったとか。
 医者は真実を告げなきゃならん存在。そして、冒険者はそういう現実を生きてる。A・Yにもそれを教えていかなきゃならないのか、なあ……。
「まだぐるぐるしてるよ、きっと」
 気が付けば私はそんな事を言ってた。そのうちA・Yが冒険者を辞めるかもしれないと思うと、敢えて教える必要も無いとか思ってしまった。先延ばしか…………。それは、私の嫌いな「長いもの」の一つ。
 ……それでも良い。いや、それが一番良い。
「そうでしょうか?」
「そうだよ。だから今もどこかでぐるぐるしてるんだ。だから私達が見つけて、もう一回挨拶でもしようや」
「君……」
 ドクターが私を見てる。……分かってますよ。なんだかんだで私もまだ未熟。そういうのから逃げてるのかもしれない。でも、話を聞いただけで理解できるのも違うと思うから、自分自身の目で「ぐるぐるの終着点」を見せる。それが一番良いと思う。
「ドクター、傷薬を売ってくれません?これから、冒険の旅が始まるもので」
 今は私達のやり方でやらせてください、そういう目線を送って、私達は旅支度をした。


 最後に行くのはシリカ商店。て言っても余分な金なんざ皆ほとんど持ってないし、傷薬でやる事はやっちゃったからほとんど顔合わせだけなんだけど。
「アナタ達、新人さん?」
「ええ、私がペパラーゼ、後ろの人達は左から田舎貴族、根暗、馬鹿、子供です」
「あはは、そりゃ面白いね」
 店長のシリカさんは私と同年代ぐらいの下乳、じゃない色黒の女の人。看板娘っぽいけど、あれで武器防具を一通り扱ってるというんだから、全く大したものだ。店とは別に工房もあるらしいけど、そっちは職人さんがいるらしい。
 ちなみに見た目の割に商売人根性はあるらしく、あんまり高級な装備は売ってくれないらしい。元々品揃えは大した事ないらしいけど、冒険者(仮)の私達には本当に基本的なものしか無さそう。まあ、私が持ってる鞭でも十分だろうさ。最初は。


 そして一旦酒場に戻ってきた。これからの計画である。戦術は大雑把に決まっているとしても、どういう技術を磨いていくかでその傾向は大きく変わる。
「今のメンバーでは、少々防御面に不安がりますので、私がその分を補おうと思うます」
 まあこれは当然。
「俺はステップを磨く為にここに来た。足捌きと弓を組み合わせれば、樹海の生物の動きを止める事もできるだろう」
 これも当然。だけど軌道に乗る前の資金不足を補う為、樹海にある素材の採集面もお願いしたい。
「私は『ちりょうのわざ』で皆を助けます」
 まあ、そうしてもらわないと困る。
「あたしは歌う!希望の祈りを、勝利の叫びを、解明の喜びを!」
 実質、ツッコミどころはここだけ。
「私が知る限り、バードの歌で人の力を呼び覚ましたり、てのがあるみたいだけど、例えばそれで何ができる?」
「なんでもできるよ?およそあたし達の関わる事なら全て!」
 なんでもってのは、一番あやふやなんだけどね……。かといって迂闊な事言ってこいつの機嫌損ねるのも嫌だし……。しかしこいつ、頭は悪くないわけだから……。
「じゃあこうしよう。私とロウタが前衛で敵を討つ。ぞあすは後衛の守りと敵の撹乱、そしてA・Yが怪我の治療。あんたはこの状況で、足らないと思うところを伸ばして」
「足らないもの……。……それは歌……勇気の歌が足りない!おお、勇敢なロウタ卿、どんな悲惨な死も恐れはしない彼は……」
「音楽は止めろ!」
 勝手に歌いだしたアホをぶん殴る。ふん、鞭で縛られなかっただけありがたく思え。
「冗談だよ……。今の状況ならこれだね。防御面の不足。私はこう、動きが速くなるような、ノリの良い歌を練習してみるよ。後、魔力的な言霊も勉強してみる。上手く行けば、炎とか氷を『武器に乗せる』事もできると思う」
 ……ホント頭良いな、お前!最高のムカつき野郎だ。野郎じゃないけど。
「あの、一つ良いですきゃ?」
「なに?」
「先程の、私を歌ったやうな歌……。ありゃどんような歌なのでしょうか……?」
 ロウタの顔がにやけてる。ひょっとして、褒められたとか思ったんだろうか?
「良し、ならフルヴァージョンで聴かせてやるれ!タイトルは『ロウタ卿の物語』!」
 私が心の中で突っ込んでしまったおかげで、その一瞬の隙を付いてフィールが歌い出してしまった。止めさせようかと思ったが、ロウタのあんな幸せそうな顔を見ると、ちょっと躊躇ってしまった。
 既に夕方になっていたその日は、そのまま「ロウタ卿の物語」と共に更けていった。勇敢なロウタ卿と詠われ、しかし勇敢さを称えるというよりは「悲惨な死」の方を強調するフィールに対し、ロウタはさすがに困り顔だった。ぞあすは最初からスカーフで耳隠してるし、A・Yは歌を理解せずにフィールの楽しそうな表情だけでニコニコしてた。
 鼻を潰され手足をもがれ目玉を潰されて火あぶりになっても、勇敢なロウタ卿は冒険を続けるのだ。A・Yにもそれを分からせてやるべきなのかどうか、私は一人考えていた。




 そのつもりは無いのに、自然とパイソンネタが出てきます。
 なお、ゲームでの初期装備はナイフとかですが、この人達は最初から「様になる」装備は持ってるという設定です。まあそこはゲームと小説っぽいものの違いという事で。そして商店も最初余りに貧弱なのは何故かなあと考えたら、「それはきっと認められていないからだ」という風に落ち着きました。
 次回はいよいよ冒険の旅に出る事になると思います。