世界樹小説だってばよ「Triferon」009

 前回までのあらすじ、モグラに掘られそうになった。どうでもいいですが、「もぐら」と聞くと某前髪パッツンつり目気味スク水美幼女様を思い出します。


 A・Yを守れなかった事について、ロウタはえらく悩んでいるみたい。まあ当たり前っちゃ当たり前だけど。でも、一旦引き取ると決めた以上、最期まで面倒見るってのが男。云わば男の長さを試しているのさね。
 実際、A・Yの身の振りを考えるとなると、どうなるだろう。一旦戻った時にマダムに調べてもらったんだけど、A・Yは街の人間である事は皆承知してるけど、親とかはいないらしい。いつの間にかそこにいて、誰も気に止めず今まで生きてきた、という感じ。本当に死神みたい。ま、親元には帰せないというのは分かった。
 それじゃ誰かが引き取るという事になるんだけど、「死神」の噂が付いた人間を好き好んで引き取ろうという人間はそういまい。そうでなくとも、冒険者はこの街で嫌われてる節があるし。そうなると、酒場とか施薬院に住み込みで働くとか、そういうのが妥当じゃないかとは思う。
 ただ、それも暫く先の話。私達が長生きする為にも、メディックを逃がすつもりは無い。A・Yの気が済むのが先か、新しいメディックが見つかるのが先か、それは分からないけど、暫くは一緒にいくさ。
「というわけでございましてー!第二回、樹海探索の旅に出発する私達、早速入り口まで来ております!川口隊長、じゃなかったペッパさん、今回の目標はなんですか?」
 フィールはやたらと私に絡んでくる。まあ、ぞあすとかじゃ無視されるだろうし、しょうがないのかもしれないけど。
「東側を中心に探索する。モンスターは注意すれば負けはしないし、リラックスしてね」
「大変心強い言葉、ありがとうございます!それでは及ばずながら、私もその探索に参加していきたいと思います。現場は以上です!スタジオのナガタカさーん?」
「もう黙れ……ていうか、ナガタカって誰だ」
「友達。ところでなんでCM明けとかに『というわけでございましてー!』って言うんだろうね?」
 「知るか」の代わりに、私はフィールの口を狙って鞭で縛っておいた。お?これってヘッドボンデージって奴?そうか、こいつを黙らせるのは練習になるな。よし、ならばもっと喋れ。ふふふ。


 ロウタの心配は、まあ杞憂に終わった。一階に出るモンスターはあんまり強くない。この街に来る旅の途中で何度か野獣に襲われたけど、それと同レベル。こっちは四人もいて治療もできるんだから、余程の事が無い限りは大丈夫。そうでなかったとしても、ネズミとか蝶にやられたら私の前世に申し訳が立たん。
 ただ、この樹海は生物の気配が多いみたいだから、あんまり勘が働かない。ぞあすはむしろこういうので慣らしてるみたいだけど、樹海が危険なのはその通りだわね。
 つまり、常に余力を残して行動、帰還の必要アリ、と。北東部分は一通り周ったけど、南東部分から南西に行かず、そのまま帰るぐらいで丁度良いだろう。
「君の前には宝が三つ。見事美女を引き当てれば大正解!そうでなければめくるめくコズミックキューブの世界へ」
「黙らっしゃい」
 ヘッドボンデージ、再び炸裂。
 ともかく、北東部分には宝が三つ。他愛の無い金とかが入ってた。本当に他愛が無いから、兵士とか他の冒険者が入れておいたのかもしれない。でも封してなかったので、着服。
 南東には大量の蔦で塞がれた扉があった。扉の中央にはクリスタルが浮いていて、触ると危なそう。
 いろいろ観察してたぞあす曰く「水晶の魔力が扉を塞いでいるのだろう。何らかの魔力物体で中和すれば開く」
 縛りを解いたフィール曰く「こういうものの先には、エレベーターかとんでもない宝があるって相場が決まってるもんさ」
「とりあえず保留ね。ところでエレベータって何?」
「知らない。移動する鉄の塊らしいけど」
 カラクリ、という奴か。鉄の塊が移動するとなると、そりゃ凄い武器になるだろうな。一発で壁をブチ破ったり。
 扉から回れ右して別の道へ行くと、ちょっと広い空間に繋がった。中央にはお花畑があり、A・Yとフィールが早速飛び込んでいきそうになるのを、ロウタと二人で止めた。ちなみにA・Yはロウタが優しく言い聞かせ、A・Yに乗っただけのフィールは、私の鞭で足を引っ張ってやった。花を追いかけて鼻を打つなんて、哀れな小娘。しかも私はレッグボンデージの練習にもなって一石二鳥。
「モンスターの気配はあるが、敵意は無い。軽く花を貰うぐらいなら許してくれるだろう」
 ぞあすのその言葉で、私達は採取を開始した。下乳シリカさんから、素材に使えそうなものがあれば取ってくるように頼まれているからだ。こういうものの知識はぞあすが圧倒的に強いけど、一応私も故郷でやってたから、少しは分かる。後、フィールは意外に草花を知ってるみたい。お前は本当に天才アホだな。
 ちなみに、A・Yはメディックとは言うけど、元が我流だから知識はあんまり無いみたいだ。腹が減ったら樹海の木の実を食べてたという話だから、樹木の方は少しは分かるかも(野生児かよ)。ロウタは貴族だから期待してなかったけど、親だか兄だかが考古学をやってるとかで、発掘の手伝いをしていたらしい。鉱物の扱いなら案外いけるかもしれない。
 ぞあす曰く、「自然に対する感謝を忘れるな」という事らしく、どこまで取って良いかの線引きはしておく必要があるみたい。取りすぎたら悪いもんな。そういう事で、そこそこに止めておいた。
 すると、暇そうに花と戯れてたA・Y(とロウタ)が、広間の隅っこでなんか騒いでる。
「どうした?」
「ここ、通れませんか?」
 見ると、確かに獣道が伸びていた。険しくて先が見えないが、誰かが通った跡もある。
 私は地図を開いた。もしこのまま道が真直ぐ続くとすれば、樹海の入り口のすぐ脇に出る。続かないとしても、構造的に離れた場所には出ないだろう。
「どう思う、ぞあす?」
「入り口近く……、僅かに通れそうな道が残っていたな」
「じゃあ行く?」
 皆、異論は無さそうだった。多少通りにくいとはいえ、ここが通れると分かれば労力の節約になるし、必要な素材を集めるのも楽になるだろうから、当然だ。だが、A・Yだけは何か不満そうな顔をしている。提案したのは自分だから文句があろう筈も無いが……。
 私が引き気味に睨んでいると、ロウタがA・Yの前に座りこんだ。
「よく見つけてくれぁした。えりゃーですよ」
「うん!……えへへ…………」
 A・Yは思いっきり嬉しそうに照れてる。ロウタもそれを見てにこやかに笑ってる。はいはい御馳走様。ご褒美がほしかっただけかい。
 しかし考えてみれば、これが子育てというものかも。A・Yはイマイチ年齢不詳だが、ロウタは恐らくその「幼さ」を見抜いてる。そして、その責任感もあるという事。
 なんだかんだで、リーダーの資質はあるんじゃない。ちぇ。




 ロウタはロリコンではありません。
 今回は一階を普通に探索しています。なお、水晶のドアの先はエレベーターではありませんが、私は最初そう信じて疑わなかったので、そのままフィ=Irに喋らせてみました。この感覚、ウィザードリィやってる人間なら分かってくれるんじゃないかと。
 ていうか、A・Yって結局何者なんでしょう。自分で作ったのによく分からない……。当初の予定では「単なる不思議ちゃん」だったのに、「只者でない不思議ちゃん」になっています。