世界樹小説になりたい「Triferon」012

 前回までのあらすじ、ペパラーゼは新たな強敵を得た。


 僕がエトリアの街にやってきたのは、他の多くの人がそうするように、知識を求めての事だ。未だ解明されない自然や古代の遺跡と思しき痕跡が見つかっている世界樹の迷宮ならば、僕の錬金術をより高みへと誘ってくれるんだろうと考えていた。
 ブラスタとは同郷で幼馴染だ。子供の頃から私は本ばかりを読んでいて、彼女は剣術を学んでいた。だから最初は接点が無くて、僕が話しかけるまでは顔見知りな程度だった。ちなみにその時の話題は、剣術の基本がなっていないという指摘だった。僕の地方では錬金術は盛んではなかったから、読める本はなんでも糧にしようと必死で、精神修練を基本とした武術書も知識にしていたんだ。
 でも、友達になったのは僕がきっかけでも、この街へ誘ったのはブラスタがきっかけだった。剣術を学ぶ過程でいろんな武術家の話を聞いたらしくて、武者修行の地としてのエトリアの街の噂を仕入れてきたんだ。その頃の僕は地方の図書館で専門書ばかり読んでいたから、世情に疎くなっていた。
 ブラスタが何で剣術を学ぼうとするのかは知らない。でも、僕が何故錬金術を求めるのかも分からないから、そこに理由はいらないんだろう。今のところこの道の終着点は見えないから、見える時まで進み続けようと思う。


 僕がTriferonに勧誘された時は、正直嬉しかった。僕はあまり人と会話するきっかけが掴めない人間だし、ブラスタも剣術関係以外はからっきしだったからだ。もう少し二人で修行して、それから自分達でギルドを作ろうと考えていたけど、フィ=Irと友達になれて良かった。
 フィ=Irは錬金術の言霊を歌に応用しようとしているみたいで、酒場で休憩していた僕達を狙って話しかけてきた。他に実力や知識のある錬金術師ならいくらでもいるだろうに、そんな事を僕が言うと、フィ=Irは含み笑いで言った。
「いつだったか、私とぞあすのデュエット観てたでしょ?」
 図星だった。Triferon結成の少し前(後で知った事だけど)に、ぞあすさんとフィ=Irが披露していた即興芝居を、僕とブラスタは休憩がてらに眺めてたんだ。二人とも自分の事ばっかりで芸術なんてさっぱり分からなかったけど、ぞあすさんの踊りは僕達まで惑いそうになるぐらいだったし、フィ=Irさんの語りには少なからず魔力的な古代言語が巧妙に隠されていた。つまり、自分の道を究めようとしているという点で、僕達と同じだったんだ。
 そして暫くは、僕達が自分の修行をする傍らで、フィ=Irが錬金術の基礎を学んでいた。錬金術と歌の関連は神学まで遡らないと難しいけど、同じ言霊なら通じるんじゃない?とか軽く言ったフィ=Irは、確かに自分独自の手法を身に着けていった。それを受けて、僕達も負けてはいられないと、段々自分達の修行にも身が入っていった。
 Triferonにはいろんな人達がいた。フィ=Irとぞあすさんの他に、自称リーダーのペパラーゼさん、なんだか喋り方で和むロウタさん、知識は全然無いけど僕以上の実力があるA・Yさん。僕やブラスタみたいな一芸人間で大丈夫なんだろうかという不安は、この時点でなんとなく解消された。お互いの人間関係を解くのは難しいからまだ判断しないけど、とりあえずペパラーゼさんのリーダー宣言は単なる「フリ」だと思う。
 僕達を迷宮で慣れさせる為という事もあり、Triferonは一階で解決できるようなクエストを受ける事になった。曰く、皮職人が獣の柔らかい皮を所望しているとの事。他にも、施薬院の人が樹海の薬草を採取する際に邪魔をする森林蝶の討伐も引き受けた。メンバーは僕とブラスタの他には、ペパラーゼさんとロウタさん、A・Yさんだ。A・Yさんはロウタさんとえらくくっ付いてるけど、兄妹ではないらしい。
「皮集めはブラスタとロウタ中心で、森林蝶は私とナガタカで。それで良い?」
 獣は剣で仕留め、飛び回る蝶を僕の術式が抑えるという事だ。僕達にも異論は無い、というより初めてだから任せておこう。狩りは弓矢を使うレンジャーの仕事じゃないかと思ったけど、それほど大した仕事でもないのに頼るのは良くない、という事だろう。
 ペパラーゼさんは自分でリーダーとか言ってるけど、これはリーダーじゃなく単なる世話焼きだ。自分が中心じゃないと納得できないって人はたまにいるけど、そうでもないみたいだし、たぶんちょっと変わった考えを持ってるだけで、普通の良い人なんだろう。


 正直、この冒険で語るところはあまり無かった。ペパラーゼさんやロウタさん、A・Yさんのフォローは十分すぎるものだったし、樹海の獣自体、修行していた僕達にはあまり恐れるものじゃなかったからだ。ただ、ペパラーゼさんがやたらと後ろを振り向いたりして、何か物足りなさそうにしてるのが不思議だったけど。
「ナガタカ、まだいける?」
「うん、ありがとう」
 ブラスタはよく僕を心配してくれる。確かに僕はそれほど体力のある方じゃなかったし、言霊で使う精神力は見た目にはなかなか分からないからだ。でも、そう心配ばかりされるのもどうかと思う。エトリアに来る時も、体力の無い僕を過剰なぐらい気遣ってくれた。それはありがたいんだけど、ね。
「ところで、これ何かに使える?」
 施薬院からの依頼で森林蝶を何匹か焼き尽くした時、ペパラーゼさんが屍骸を寄越してきた。全身を焼くように術式を使ったつもりだけど、焼け残ってしまったようで、原形を留めている。しかしよく見ると、普段採取できる翅ではない複眼の部分が完全な状態で残っていた。
 確か、蝶の複眼は一部の薬物に使われるとか聞いた事がある。後は、そのグロテスクな外見が好事家にも受ける、かもしれない。
「持って行く価値はあると思います」
「そう。ありがと」
 やっぱり、普通に良い人だ。なんでリーダーにこだわるんだろう。あと、ちょっと挙動不審になってるのも変だ。


 複眼はとりあえず引き取ってはもらったけど、何かの価値があるとは思えないって店長のシリカさんが言っていた。施薬院でもそれは漢方の範疇だと言われたし、冒険は成功ばかりとは限らないという事だ。
 ところでシリカさんの格好は、とてもその、見てて恥ずかしい……。フィ=Irのそれは「衣装」だし、彼女はそれほど、その……、胸が無い、からあんまり気にならないし、本人も気にしてないみたいだから良いんだけど、シリカさんはなんていうか……、もっと恥じらいを持ってほしいと思う。なんていうのか、目のやり場に困る……。それで言ったら、ペパラーゼさんも結構…………なんだけど……。
 僕が店先でそんな悩ましい事を考えていたら、ブラスタが不機嫌そうに僕を見ていた。その心情は僕にはよく分からなかったけど、ペパラーゼさんやフィ=Irと違って、「冒険者だから」ちゃんと鎧を着込んでいるブラスタは偉いと思う。
 ……色気……で言えば結構負けてない筈なのに、張り合わずに自分の道を進む、そんな彼女は美しいと、僕は思う。僕も頑張らなくてはいけない。




 純情な子、ナガタカの語りです。濃ゆいキャラクターばかり作っていったので、このぐらい大人しい方がバランスが取れるだろうという事で。ブラスタは明らかにナガタカに……なのですが、まあそれは追々。
 なお、フィ=Irが二人を誘った経緯ですが、一応文章中に伏線は張ってあります。ペパラーゼが酒場に入った時にいたカウンター席の少年二人組ですね。まあ、ブラスタは少女だったわけですが、これは彼女の絵(女ソードマンの赤い方)を最初男と勘違いしていたからです。「ロウタが重装備なんだから、このぐらい軽装の外見の方が良いだろう」と男の名前で作ったわけですが、公式イラストの並びを見たら、どうもそうではないなあと。そのまま男設定でも良かったんですが、男っぽい女でも良かろうという事で戦士ブラスタは誕生しました。
 「ブラスタ」の名前はペパラーゼと同じくタクティクスオウガで使っていた名前で、この時はリザードマンでした。亜人、大好きなんですよ。竜玉石をアタックチーム全員に持たせて、VITを中心に伸ばす事で無敵の戦士に仕立て上げ、一章のクリザローで雇って以来最後まで使っていました。ちなみに、由来は「ブラスター」ではなく「ブラスト」を変形したもので、特に意味はありません。
 ナガタカの語りを忘れてるような気もしますが、まあそれはまた今度。