世界樹の迷宮小説のようなものであります(byザッキ・ブロンコ)「Triferon」024

 前回までのあらすじ、そろそろ第二層だけど、急に中日が優勝した(遅いニュースだな)。


 ジャングルというものは話でしか聞いた事が無かったが、そんな無知な私でも、今目の前に広がっているものをジャングルと呼ぶのは正しいのではないかと思える。ただ確実に違うのは、誰かに踏み固められたのか、通路がはっきりと作られている事だ。
 六階、第二層「原始ノ大密林」の探索の始まりである。
 今回のメンバーは、私パラディンのロウタを先頭とし、ソードマンのブラスタとレンジャーのぞあすが脇を固め、私の後方をメディックのA・Yが追従し、殿をバードのフィ=Irが務める形となる。総合的な戦闘力はそれほどでもないが、生存確率が高いメンバーといえる。
 ただ、これは一般的な布陣であるが、我がギルド「Triferon」にとっては各人の役割が大きく異なる。敵を事前に察知するのは大抵レンジャーの仕事だが、A・Yは全く別の方法で敵の存在を知る力がある。曰く「殺意の流れ」を読むらしく、治療の技術以前に古い呪い師のような力であると言えよう。しかもその範囲は常軌を逸していて、今のところ同じ階層にいる獣を見逃した事は無い。
 また、実際の戦闘でも本来なら私やブラスタが先陣を切るのが定石なのだろうが、戦いにおいて「Triferon」を動かしているのはフィ=Irである。いわゆる司令塔であり、しかも本人も積極的に前に出る。本来なら陣形を乱す行為は捨て置けないのだが、フィ=Irはそうする事で戦いの場そのものを乱しているのだ。それによって私達も効率良く「動かされて」しまう。結果的に陣形は乱れず、むしろ複数の陣形を状況に応じて使い分ける事になり、被害を最小限に食い止めてしまうのだ。
 私のする事といえば、陣形を突破してきた相手から仲間を守る事であり、それは相手がぞあすの弓やブラスタの剣を掻い潜ってきたという事であり、極めて稀な状況である。鎧のおかげで動きが遅い事もあり、私が活躍できる時は少ない。
 だがそれも、戦い慣れている状況だからこそできる事である。フィ=Ir曰く「敵を知り己を知れば百戦危うからず」であり、敵の動きもある程度掴めているから無傷で勝てるのだ。
 今は違う。初めての土地に、新たな獣の気配。ここからは私達にとって、全く未知の領域であった。
 私は、久しぶりに手ごたえを感じていた。


「何を笑ってらっしゃんで?」
 フィ=Irが言う。笑っていたつもりは無かったが、声が漏れていたようだ。いかん、落ち着け。巨大な敵に浮かれる等言語道断だ。私は戦争がしたいのか?違うだろう。
「初めての玩具に浮かれない人がいるかい?」
「言いたい事は分かるが、その表現はどうかと思うな」
 玩具、か。確かに理解はできる。今の樹海は、私にとって新しい玩具だ。試しに動かしてみたい、使ってみたい、そんな衝動が伝わってくる。
「本質的には同じもんさね。人生とは是即ち享楽であろう?」
「だが、樹海の生物は玩具ではない」
 ぞあすはレンジャーらしく、周囲の生物の在り方についても一家言持っている。私には専門外の話だ。
「確かに、生物は玩具ではないかもしれんよ。だが樹海全体で見ればどうだ。生殺与奪の権利は『樹海』にある。前にも言ったかもしれんけど、樹海は自然にできたものだけど、それは植物的というよりは動物的なものだとあたしは思う。樹海が一度ヘソ曲げたらあたし達は皆お陀仏って事よ。これを玩具と呼ばずして何と呼ぼう?」
「……『樹海』がこの世界の『神』というなら、それは敢えて否定しようとは思わない。自然信仰という奴だ。だが、今のお前はただ破滅的思想を抱えているだけで、信仰心は無いと見たな」
「ばれた?でもそれの何が悪い。あたし達には信仰の自由がある。あたしは『何でも信じるけど、何も信じない』という偉大なる思想を信じているのさ。分かるか?柔軟性という奴だよ。自らを玩具扱いする事もできれば、もの言わぬ巨大迷路を神に仕立て上げる事もできる。そいつらの外観は変わらないのに、その内に秘める意味は如何様にも変異しうるのさ。嗚呼、なんという自由の素晴らしさ!お母様、あたしは今幸せを噛み締めております」
「あの、さっきから何話してんの?」
 たまらずブラスタが突っ込んだ。まあ当然であろう、私の何気ない仕草からこれ程狂った会話を展開させてしまったのだから。
 結局、皆が浮かれているのだ。私はその事をたしなめると、六階の探索を開始した。私にできる事など、ギルド内のいざこざを収める程度だ。
 それともう一つ、先程から会話に入らず森林の奥を見ていたA・Yの手を優しく引いて、探索に促す事だ。この小さなメディックは「殺意の流れ」を見る余り、自らの心の在り方も独自の世界に到達してしまっているのだ。そんな彼女を導く役割だけは、他人には任せたくない。


 六階の獣は今までとは大きく異なっていた。第一層では野獣の類が大半を占めていたが、第二層の環境には適合しないようだ。代わりに生息しているのは、強い毒性を持った昆虫や植物、そして一見すると泥にしか見えない不定形生物であった。どれも外見は色鮮やかで、単体なら非常に目立つのだが、密林の原色に紛れて非常に視認が難しい。
 大まかな獣の流れはA・Yが感じ取り、いざ襲ってくる際にはぞあすが察知するが、二人とも慣れない環境であるのか、調子が芳しくない。一方のフィ=Irはまだ戦略を立てきれていないようで、決定打を与える事ができない。
 そうなれば、当然私の出番である。襲い来る獣をブラスタは斬り捨てるが、私は盾で弾く。ただ我武者羅に立ち向かうよりも、こうして攻撃に緩急を付ければ、当然相手はそこにつけ込んでくるが、それこそが狙い通りなのである。前列(主に私)の負担は増えるが、相手の動きが読めるのは大きい。
 だが、厄介なのは獣の持つ毒性であった。これは私の盾では防ぎきれない面がある。後方でA・Yが治療に当たってくれるが、確実に動きが制限されてしまう。
「ナガタカがいれば毒ごと焼けるのに……!」
 ブラスタが吐き捨てた。
「こんな時は歌でも歌おう!ニックキ毒も神聖なる歌の前には恐れをなして消え失せるであろう!」
「冗談を言う暇があったら弓を引け」
 また、昆虫には弓で良いし、植物には剣で立ち向かう。だが、不定形生物には物理攻撃そのものが効き難いようだ。どこが急所か分からないのも問題だ。
 幸い軽傷で済んだものの、予想以上に騒がしい戦いになってしまった。
 探索も同様である。徘徊するだけの獣に手こずるようでは、F.O.E.の退治など無理な話だ。A・Yが言うには敵意はあまり無いようだが、脇を通り過ぎた途端に牙をむく可能性もあれば、別の獣に追われているところに鉢合わせするとも考えられる。今日の探索は失敗こそ無かったが、目だった成果を上げる事はできなかった。


 やはり、足りない。今のメンバーが火力不足である以上に、戦略の幅が足りない。次にナガタカを連れてくるのは良いとして、そればかりではいけない。その次の手を打っておく必要があると感じた。統治者も常に二手三手先を読むものだが、ギルド運営も本質的には同じものなようだ。




 前半に変な演説を入れたおかげで文章のノリが非常に悪くなっています。それと、いい加減伏線ばっかり張るのは飽きたので話を進めようと思いました。