突発的世界樹のなんか005話

 前回までのあらすじ。「先のストーリーは毛ほども考えてない。PCに向かった時点でストーリーを考える私暇人」


 「Triferon」の名前に騒ぎ始めた酒場を逃げて、宿を取った私達。宿帳を見るに、カンタールのアホも冒険者として登録はしてあるようだが、ギルドに入っているわけではないようだ。ヤルディム君も無所属。私達に至ってはただの人。なんだこりゃな四人組だわね。人の良さそうな宿のおばさんもちょっと困った顔してたよ。
 そして、一つの部屋に集まった私達。ギルドとしての枠組みも無い私達は、男女雑魚寝するしかないが、ヤルディム君を一人で放置しておくのは危なっかしいし、カンタールを放置するのはもっと危ない。フィールは別の意味で危ない。
 普通人は私だけか……。


 カンタール5。ヤルディム君の為にも、この男について解説しておこう。
 エトリアの世界樹の迷宮が半分ほど踏破された頃、ヤツは街にやってきた。樹海での一攫千金を狙ってたらしく、それなりの実力も持っていた。だが、そんなヤツがあの当時のエトリアに一人だけなわけもなく、無数の冒険者に埋もれてしまった。運と仲間に見放され、チンピラに身を堕としていったとさ。めでたしめでたし。
「ちょっと姐さん、真面目に説明してくださいよ!」
 えー、めんどいもん。フィール、後は任せた。
「はいさい。……そしてチンピラ共の頭領となったカンちゃん。『殺人以外の犯罪は一通りやったぜー』とかフカしてたみたいだけど、それって逆にめっちゃショボイよねー(まあ、殺人を自慢されても困るんだけど……と心の中で呟くあたし)。まあそれはともかく……、ある日、街中を歩いてた美人のお姉さんをナンパしようと手下を待たせて近づきました。ところがどっこい!びゃびゃびゃーん、じょわ〜ん(とリュートをかき鳴らすあたし)。これがエトリアで一、二を争う強豪ギルドの女リーダー、ペパラーさんだったわけであります。ぎょいぎょい〜ん、べべべん」
「…………ボコボコにされました……」
「鞭で全身縛られてパンツ一丁にされて樹海の入り口に逆さ磔にされたんだよねー、ひどいよペパラー!あれでカンちゃんが新たな快感に目覚めたらどうするつもりだったの!?」
「やってないから、そんな変態行為」
「いくら姐さんでも、そこまではやってないよフィ=Ir」
「そうだっけ?まあいいや。そんなわけでぶちのめされた哀れなカンちゃん。何を思ったかチンピラを引退し、ペパラーのところに弟子入りしたのであります。今度こそめでたしめでたし」
「ははあ…………」
 ああ、ヤルディム君が困ってる。まあ、人の出会いというのは往々にして大雑把なものさ。……どっちかというと、ハイテンションなフィールに引いてるだけのようにも思えるが、まあ気にするまい。
 実を言うと、ヤツが私のところに弟子入りするまでにはもう少しエピソードがあるのだが、ぶっちゃけ説明するのが面倒くさい。フィールも知らない話だし、今回は端折っておく。
 で、ここまでは私も知ってるんだが、Triferon解散後の話は全然知らない。こいつが如何にしてここにやってきたか、それはこいつの口から直接聞かなければならない。
「……エトリアを出てから、俺は姐さんについていこうとしたんですが、姐さんはいつの間にかいなくなってて。でもフィ=Irが『ハイ・ラガードに行こうかなー』とか言ってたから、適当に当たりを付けてここまで来たんです」
「それが、何で私達より早く着いてんのよ」
「そりゃあペパラー。私達が観光気分だったからじゃないかい。行く先々でお祭りに参加したり揉め事を解決したりしてたでしょ?」
 あー、そうだったかもねえ……。とか言うものの、これは別に複線でもなんでもなくて、「こいつらならこういうエピソードがあるだろう」とか思って時間的な辻褄を合わせようとしてるだけだったりするからね。
「それで、着いたは良いけど姐さんが見当たらないもんで、当面の生活費を稼ごうと思い、樹海に入ったんですが……」
 ここでカンタールは黙った。喋りたくないという顔だ。……恐らく、油断して負けたとか逃げたとかそんな感じだろう。それで路銀も尽きたに違いない。自分の失敗を話せない辺り、チンピラっぽさはそのままなのな。……もうちょっとちゃんと教育してやるべきだったよ。
「とにかく、樹海以外でも稼ごうと思ったら、妙にふわふわしてるヤツがいたもんで……、姐さんもいなかったし……、つい……」
 それで、ヤルディム君に詐欺を働いたと。
「判決を言い渡します。死刑!」
「そんな……!」
「フィール、あんたは黙ってて。……しかし真面目な話、同業者を騙した屑は、私達のギルドにはいらないよ?」
「はい、分かっております!煮るなり焼くなり好きにしてください!」
「……しかし、放っておくと何をしでかすかも分からない」
「はい!……はい?」
 カンタールが戸惑ってる隙に、私は頭の中で一つのプランを立ち上げていた。
 こいつ自体は小悪党だが、悪人ではない。少なくとも、誰かが監督していれば真面目に働くタイプだ。人間の力関係というものを本能的に察知できるのだ(初対面時の私はそうでもなかったんだけど……)。そういう人間は手元にいると何かと重宝するものだ。フィール曰く「下僕」というヤツ。私にはそっちの趣味は無いが、手下のような存在はありがたいのだ。
「カンタール君よ。君のチンピラ情報網を信頼して尋ねる」
「……何気に傷つく発言ですが、何なりと」
「樹海の噂は大陸中に広まっているというが、Triferonのかつての仲間がこの街に来ているという話は聞いたか?」
「いえ……。噂のレベルでは幾つかありましたが、どれも『騙り』か勘違いでした。騙ったヤツは張り倒しておきましたので、ご安心を」
 仮にも当のギルドに入っていたこいつが言うんだから、間違いは無いか……。そして、そこで名乗り出なかったのは偉いとも言える。……今日名乗ったから台無しなんだけどな。
「じゃあカンタール、明日になったらフィールと一緒に改めて情報収集に出てちょうだい。私はフィールの分も合わせてギルドに登録に行く。……ヤルディム君?」
「はいっ」
「ギルドでは分からない事もあるかもしれないから、悪いけど付き合ってくれる?」
「分かりました」
 突然の私の提案に、ヤルディム君以外の二人がぽかんとしてる。まあ当然だわね、Triferonを復活させて本格的に活動させようというんだから。
「姐さん、それって……」
「まさか……」
「うん」
 おう、聞いて驚け。明日から、MMRTriferon緊急出動だ。
「ヤルディム君をナンパ!?」
「姐さん!こんなモコモコしたモヤシ野郎よりも、俺の方が何倍も良い男ですよ!どうしてですか!」
 ………………お約束って、嫌だねえ。
 私は何故か恐縮するヤルディム君を尻目に、二人同時に鞭で縛り上げた。両手で二本鞭を使うなんて滅多にやらないけど、意外とできるもんだなあ。


 とある森林に生きる部族は、野生の獣に襲われないように、木々の間に布や網を渡して、その上で寝るそうだ。どうも私にはそのビジュアルが想像できないのだが、今見ている光景はそれに近いかもしれない。
 ベッドは四つあったが、使っているのは私とヤルディム君だけ。アホ二人は私直々に部屋の隅っこに吊るしておいた。血の流れは偏らないようにしてあるから、数日はそのままでも生きられるぞ、ははは。
 ヤルディム君はなんだか眠りにくそうだった。それはしょうがない。いきなり見知らぬ男女三人と同じ部屋で眠るんだから、気の小さそうな彼が戸惑うのも無理は無いというものだ。しかし、そのぐらいできなければ冒険者は務まらないぞ。